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VRMMOが日常となった世界で青春物語  作者: 金 銀太
第二章:天まで届く世界の樹
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9話:正義の交渉人

 仕入れ市から少し離れ、町の中央部から町の回りを覆う城壁のちょうど中間辺りを行く。多くのバラック小屋を抜け、目的地の情報屋がいる所まで後少しとなった時、隣を歩く絵里先輩が総司の首を精一杯上げ、総司を見つめた。


「そう言えば総司もプロゲーマーなの?」


 その質問は優理香と楓も気になっていたようで後ろで、聞き耳を立てる気配がした。総司は不敵に笑う。


「フフ……ようやく聞いてくれましたね!」


 総司は足を止め3人に振り返る。


「俺は≪ハンター≫の中でも極限られた超一流しか慣れない、強く、誇り高い職業……”奪還士”です!!!」


 自信満々に言う総司に対して、絵里先輩は首を傾げ、頭に?を浮かべた。


「”奪還士”って?」


 総司はそれにフッフフと口元を上げる。


「”奪還士”はわっるいプレイヤーがPKとかでアイテムを奪った時に、奪われた人の代わりに取り返してくる職業っす! 弱きを助け、悪をくじく正義の職業なんですよ!」

「え!? なにそれカッコイイ!」


 絵里先輩がくりくりとした目を輝かせ、羨望の眼差しを向けてくる。総司は何とも心地が良い気分になり、腰に携えた銃剣を抜き――


「俺はその中でも多くの難しい案件を言葉巧みに解決してきた、”交渉人”の異名を持つ凄腕の”奪還士”なんです……!」


 そう言って2対の銃剣を体の前で十字にクロスさせた。決めポーズである。


「おお~総司スゴイ~」


 感嘆の声を上げる絵里先輩。フフ……もっと褒めろ……。


「……貴方も中田さんの事笑えないわね」

「はは……」


 どこからか優理香のジト声と楓の愛想笑いが聞こえたがスルーした。


 そのまま、絵里先輩に「凄い!」「凄い!」と褒めちぎられ、すっかり有頂天になった総司はルンルン気分で”情報屋”がいる建物まで着く。

 その建物は石造りのこじんまりとした二階建ての建物だった。正面には押戸式の木製の扉が備え付けられ、上部には『パブ・ブルーローズ』の文字と、青いバラが添えられた酒樽の小さな絵が描かれた看板が立てかけられている。


 総司は改めて振り返り3人に言った。


「ここが、”情報屋”が居るところです」

「酒場……グローバルサーバーにはこんなのもあるのね」


 優理香が尋ねてくると総司はそれに答えた。


「グローバルサーバーには簡単な飲食が出来る店が結構あるんだ。まあ、腹はふくれないから気分だけどね」


 総司はそう言ってその押戸を押すと同時に、ムワッっと酒の匂いが鼻をついた。続いて店内からは大声で笑う野郎共の声が耳にの中に入りこむ。

 中を見渡すと、そこには幾つかの丸テーブルとそれを囲むように椅子が配置され、まだ正午前だというのに多くの屈強な体格をした獣人や人型の≪ハンター≫達が腰掛け、野太い笑い声を上げながら1Lは入りそうな大きなジョッキを傾け、中に満たされている酒を体に流し込んでいた。

 どのアバターもレベルは90を上回っており大変に強そうだった。


 総司の後ろにいる3人はそのベテランアバター達に少し気圧されていたが、総司はそれを特に気にすることも無く、店内に足を踏み入れる。3人も意を決したようにそれに続くように店内に入った。

 騒々しい雰囲気だ。たかだか3、4人入店した程度ではそれは収まる筈は無いと思われたが――


『し、”死神”……』


 扉の一番近くで酒を飲んでいた狼の頭をしたアバターが入店した4人に気がつき、ジョッキを落とすとザワついていた店内は一瞬にして静かになる。

 店内に居たアバターの視線は入店してきた4人に……いや総司のアバター〈ベイオネット〉に集中する。

 時間が止まっていると感じらるほどに、静まりかえっていた店内は次の瞬間には、先程を上回る勢いで騒々しくなり始めた。


『”死神”がなんでここに……!?』

『お、おい……俺はまだ何もやっちゃいねぇぞ!!! なんで”死神”がここにいるんだ!!!』

『やめてくれよ!!! 奪ったもんはとっくに返しただろう!!! これ以上は何も出せねぇんだ!!! もうやめてくれ!!!』


「……」


 総司はザワつく客達を無視するように店内に一歩、一歩足を進める。ギシギシと木製の床を鳴らしながら総司のアバターが近づくたびにそこで飲んでいたアバター達が椅子から転げ落ち、後ずさっていく。


『”死神”……』『”死神”だ……』『頼む……今回は本当に何もしてねぇんだ……見逃してくれ”死神”……』


 その後も明らかに総司に向けられて放たれる”死神”という言葉を無視し、総司のアバター〈ベイオネット〉は店の中央まで歩きそこで足を止めた。

 何が起こるのかと、ザワつく店内を全く気にもとめないように立ちすくむ〈ベイオネット〉。

 次の瞬間――


 ドガァン!


 爆音の様な銃声が鳴り響き店の天井にあるシーリングファンの中央が弾丸で撃ち抜かれる。4枚羽のプロペラは暫くは遠心力で回っていたが、やがてそれは止まった。


 静まりかえる店内。


 いつの間にか抜いていた銃剣を掲げ、〈ベイオネット〉は宣言する。


「俺の事は”交渉人”って呼べって言っただろう……ぶち殺されてぇのか……」


 ジロリとその場に居るアバター達を見回す。≪ハンター≫達はガクガクと震えながら。席に戻り、酒盛りを再開した。しかし先程の様な活気は既に無く、葬式会場の様な陰鬱な雰囲気が漂い始める。


 総司は銃剣をくるりと回し腰に戻すと、それを見ていた絵里先輩が顔を驚愕で固めたまま総司に問いかける。明らかに何かを疑う目だった。


「総司は正義の”交渉人”? ……なんだよね?」


 彼女の質問に総司は表情1つ崩さず答えた。


「そうっすよ!」

「で、でも”死神”って言われてたけど?」


 楓が何かを伺うように総司の事を見つめてくると、総司はヤレヤレと肩を上げる。


「俺があまりにも一流だから嫉妬してるんすよ!」

「……凄く恐れられてた様に見えたけど」


 優理香がボソッと呟く。


「皆役者なんだ、オーバーなんだよ!」


 総司は気にもとめない様子そう答え、店の奥に行こうと振り返るがその瞬間、ポン! と小さな音を立て頭が叩かれた。


「イテッ!」


「毎度、毎度、私の店で何やってんのよアンタは」

「だって……俺の事は”交渉人”って呼べって言ってんのに誰も呼ばねーから……」


 総司はぶつくさ文句を並べ、顔を上げるとそには銀トレイをもった。アバターが立っていた。


 そのアバターは身長は180cmに届きそうな長身で服装は着崩したYシャツとジーンズをはいた一見するとお洒落な男性の様に見えるアバターだったが、顔はそれに反して非常に女性的なメイクが施されていた。キレの長い目は全体を濃いアイシャドーで覆われ、唇は真っ赤なリップで塗られている、髪は耳元を隠すまで伸び、髪色は紫で染められどことなく妖艶な雰囲気を持っていた。


 総司はその”男性”型アバターの上部に目を移す。

 アバターの名は<クニトモ>、レベルは”120”と表示されていた。


 <クニトモ>はため息を付きながら答える。


「取り立てのたび、町中を巻き込んで派手に暴れる”交渉人”なんていないわよ」


 ”彼”の言葉に総司は強く反論する。


「攻撃する前にはちゃんと交渉してる!」

「こめかみに銃口突きつけながらでしょ?」

「……」


 総司は無言で視線をサッと逸らす、その先には絵里先輩の姿が見えたが、彼女もまたジト目で総司を見ていた。逃げ場の無くなった総司は<クニトモ>に再び視線を戻す。


「あ~……【ニーズヘッグ】の情報が欲しい、あるか?」


 総司は逃げ場を無くなった事を悟り、話題を流す為、バツが悪そうに頭をかきながら言うと、<クニトモ>はヤレヤレと呆れた表情を浮かべた。


「そう言うことならちょうど情報上がってるから、教えたげるわ。 <パットン>ちゃん! 店番変わってくれる?」


 <クニトモ>が店の奥の方に問いかけると「は~い」というかけ声と共にうさ耳を付けたメイド服姿の女性型のアバターが出てくる。手短に事情を説明すると笑顔でそのアバターは承諾し、厨房に消えていった。


「さ! 行きましょう! ……それと後ろにいるお嬢ちゃん達は知り合い?」


 <クニトモ>は総司の後ろに立つ3人を見る。総司は答えた。


「友達だよ」


 簡潔な総司の回答だったが、彼はパッと表情を明るくさせた。


「あら! 友達!? それはおめでたいわ~!」


 クニトモは3人に視線を向ける。


「今日はよく来たわね! 詳しい話は奥でするからついてきて頂戴!」


 <クニトモ>は4人を手招きするように店の奥に誘導する。4人は誘われるようクニトモの後ろに付いていったが、先頭を歩く総司は後ろから何かを抗議するような3つの視線をビシビシと肌で感じていた。


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