8話:プロゲーマー
城から降り。総司の馴染みの情報屋に向かうゲーム部一行。大量のバラック小屋と粗末な作りの木造の家が立ち並ぶ一画を歩く。通りの道は石畳で拭かれていたが、かつての絶望級【ドグマニカ】との戦闘で所々が喪失し、ひび割れていた。
細かい石が散乱するその道をジャリジャリと音を立て、獣人に機人、全くの人型……多種多様な種族に、装備とレベルを持つアバター達が窮屈そうに歩き、何かを忙しなく話し合う光景は、どこか現実離れした雰囲気を醸し出し、まるで異世界のようだったが、幼き頃よりここにいる総司にとっては特に見所の無い、平均的な光景だった。
しかし総司以外のメンバーは見る物、聞く物、全てが新鮮なのかあちらこちらを見回していた。
「ねぇねぇ総司君?」
楓のアバター〈猫丸〉があるアバターをジッと見ながら総司のアバターの裾を引っ張る。
「どうしました楓さん?」
「あの人って何やってる人?」
総司は〈猫丸〉の視線を追う。そこには全身を赤い鱗で作られた軽鎧を身につけた<シルフィー>と言う名の銀髪の妙齢の女性が、ギザギザとした刃を持つ大剣を背負い、腕を組み、目を閉じながら静かに佇んでいた。
「ああ、あの人は装備から見て”ドラゴンスレイヤー”だね」
「”ドラゴンスレイヤー”って? ドラゴン倒す人?」
「そだよ、”スレイヤー”っていうモンスターを専門に狩ってるプロゲーマーの人達がいるんだけど、その中でもあの人はドラゴン系に特化してる人だね。そういう人を”ドラゴンスレイヤー”って言うんだ」
「格好いいな~」
すれ違っていくその女性を目で追いながら楓は羨望の眼差しを向け続け、再び総司の方を向く。
「”スレイヤー”の人ってドラゴン倒す人以外にもいるの?」
「いるよ、獣系モンスターを専門に狩る”ビーストスレイヤー”悪魔系モンスターを専門に狩る”デビルスレイヤー”とかかな、探せばもっと沢山いるだろうけど」
「そうなんだ~。でも、強い人が戦うんなら何でも倒せちゃうんじゃない?」
首を傾げる楓に総司は僅かに笑いながら返す。
「専門に特化した方がアイテムの消耗とか装備の消耗が抑えられて”儲かる”んだ。だから基本的にスレイヤーの人達は得意分野の”スレイヤー”になるんだよ」
「そっか~、本格的なんだね」
総司の返答を聞くと〈猫丸〉は関心したように頷くと、横を歩く〈マリボール〉が総司に問いかけてきた。
「私、こんなに沢山の人達が居るところ歩いたこと無いから驚いちゃったよ!ここに居る人たちって全員私達みたいなプレイヤーなんだよね?」
「そうっすよ、ニホンサバには大体6万人くらいいるって言われてるんで」
「……でも、思ってるよりレベル90以上の人ってあまり見かけないわね」
総司の後ろを歩く優理香が一言呟くと絵里先輩は胸を張った。
「きっと私達みたいに観光で来てるんだよ!」
総司は何とも楽しそうに言う彼女に呆れつつ、それを否定する。
「違いますよ、彼らもプロゲーマーです」
「え!? そうなの? だってレベル90以上じゃないとここにリンク出来ないんじゃなかった?」
彼女の言っていることは半分正解で半分間違いだった。グローバルサーバーへのリンク条件の内レベル90以上というのは数ある条件の内の1つでしかないのだ。
「彼らは≪サポーター≫っていって直接戦闘しないプロゲーマーです。彼らはレベル以外のグローバルサーバーへのリンクライセンスを持ってるんですよ」
「プロゲーマーの人達って皆、戦ってるんじゃ無いの!?」
目を丸くする彼女に総司は付け加えた。
「プロゲーマーの人たちにも色々いるんです。大体、その種類は2種類に大別出来て――」
総司はまず1本指を立てる。
「1つ目は≪ハンター≫と呼ばれる戦闘を主としたプロゲーマーですね、さっき楓さんに話した”スレイヤー”も≪ハンター≫に含まれます」
ふむふむと頷く絵里先輩に総司は2本目の指を立てる。
「2つ目は≪サポーター≫と呼ばれる直接には戦闘をしないプロゲーマーです。専らレベル90以下の人達はこれになります」
「おお~そうなんだ~」
彼女は感心したように何度も周囲を見回し始めた。きっと今の彼女には先程までと違う光景が見えているのだろう。
「≪サポーター≫の人達ってどんな人が居るの?」
「色々居ますけど……まあ、例を挙げるなら調合系スキルをメインに使う”錬金術師”とか、アイテムの原料を育ててる”生産者”とか、装備を作る”鍛治士”やアイテムの流通を担当する”ブローカー”なんかがそうですね。ちょっと覗いていきます?」
総司はそう言って町の一画を指さす。絵里先輩は何の事かと総司を見る。
「あそこに何かあるの?」
「あそこは”ブローカー”の仕入れ市をやってるところですからどんなことやってるか分かりますよ、時間的にそろそろ終わる頃だと思いますけど」
「え!? じゃあ急がないと!」
総司の返事を聞く前に絵里先輩は総司の指した一画まで走り始める。
「皆! 早く~」
振り返り手を振る彼女に総司達3人は顔を合わせ笑うとその後を着いていった。
※
町の一角にある広場。中央にある舞台を円で囲むように石で作られた椅子が段々と並ぶ、そこはかつて室内演劇場だったが、今では天井が吹き飛び、演劇が行われることは無くなっている。しかし、今その場所は演劇では無く、少しでもアイテムを高く売りたい者達と安く買いたい”ブローカー”達が激しく競り合う一大交易所になっていた。
円上の外側にある白い大理石で作られた椅子に座り、一息つくゲーム部。見渡すと舞台に近い部分は既に大半が”ブローカー”で埋まり、多くのアバターが、ガヤガヤと何かの会話をしていた。
「どうやら、ちょうど良いところだったみたいだな」
総司が一言呟くと隣に座る優理香が顔をこちらに向ける。
「彼らは何を待っているの?」
「商品の紹介だよ。これから中央で≪ハンター≫が取ってきたアイテムや”生産者”が作ったアイテムなんかが紹介されるんだけど、それを”ブローカー”が落札して自分たちのお得意先に卸すんだ。今はちょうど次の商品が紹介されるまでの間だ」
「オークションって訳ね……」
「まあ、そうだね」
総司がそう言うと、続いて優理香の隣に座っていた楓が身を乗り出し総司を見る。
「ねぇ総司君? ここで紹介されるアイテムってレアアイテムとかだけなの?」
「いや、そうでも無いよ。むしろこういった場所では必需品とか消耗品がメインになるかな。レアアイテムとかは超高額で取引されるから開催される時はちょっとしたお祭りみたいなもんで、ここじゃ狭すぎるからね」
「そうなんだ~。でも、不思議だね消耗品とか必需品とかってNPCのお店とかで売ってないの?」
楓の疑問は当然だった。基本的にこのゲームで消耗される薬草や各種buffアイテム、装備の簡易修繕キットなどはNPCの経営するアイテムショップで購入できるからだ、わざわざそんなものをオークションに掛ける意味がないのである。
しかし、総司はそれを少し笑った後、否定する。
「グローバルサーバーにはNPCが存在しないんだ、だからNPCの店も無いし、物流とかプレイヤーが直接やらないといけない」
「それって大変じゃない?」
「めっちゃ大変だよ。しかもここでいう消耗品や必需品は基本的にグローバルサーバーでしか出てこないアイテムだから、他のサーバーで手に入れてここで使うなんて事も出来ない。だからアイテムを動かす”ブローカー”という存在が必要なのさ、もしいなかったら物価が乱高下して、まともに冒険ができなくなる」
「へ~……本当のお仕事みたい」
「本当の仕事さ、彼等にとってはね」
総司が言い終わると同時に舞台の方からカランカラン! と鈴の音が響く。するとザワついていたブローカー達は水を打ったかのように静まりかえった。
「おっ! 始まったみたいだ!」
総司がそう言うと3人はそれに合わせるように、舞台を見つめた。
1人の商人らしきアバターが舞台の端からガラガラと大量のキノコが入った荷台を押し、舞台上の中央に立つ。そして”ブローカー”達を見渡し、言った。
『さあ、本日最後の商品はこちら! 今朝収穫された【強壮キノコ】500本!単価は1本30からだ!』
その商人が町全体まで響くような声で宣言すると同時に、会場のボルテージは一気に加熱し、叫び声が響く。
『31!』
1人の”ブローカー”が叫ぶと返すようにその商人は数字を繰り返す。
『31! 31! 31! 他に居るか?』
『315!』
『315! 315! 315! 他は!?』
『317!』
『317! 317! 317!――』
『32!』
『32! 32! 32!――』
その後も”ブローカー”達と商人は数字のみで会話を続けていく。あまりにも凄まじい熱気に見ているこちらまで体が熱くなっていくようだ。
「すっごいね……」
絵里先輩が一言ポツリと呟くとそれを聞いていた楓もうんうんと頷いた。そのまま2人は見とれるようにその光景を見続ける。だが、総司的にはいくら熱気があると言っても特に普段と変わらない光景なので少し間を持て余し始めていた。丁度その時、優理香が総司の耳に囁くように言った。
「彼等の言ってる数字はTrのこと?」
Tr――アレサにおいて一般的に使われるゲーム内通貨の事である。彼女はきっとそれが気になって総司に問いかけたのだろう。しかし総司は首を横に振る。
「いや、あれはMtrって言う、グローバルサーバーのみで使われる通貨の事だよ」
「Mtr……普通のTrと違うの?」
「そうだよ、グローバルサーバーのアイテムは基本的に換金性があるからそれに順じてここで使われるTrは他のサーバーとは区別されるんだ。んで、このサーバー独自のTrをMtrって呼んでるのさ」
「そうなのね……」
「ついでに言うと1Mtrで大体日本円で120円くらいの価値があるぜ。日によって多少は上下するけど」
補足するように付け加えた説明だが、優理香はそれを疑問に思ったのか、表情を僅かに曇らせる
「……? でも確かアレサってアイテムの売買は現金で出来るようになっているらしいけど、ゲーム内通貨を現金に直接換金は出来ないようにしてあるのよね? そんなにしっかり、為替レートが決まってるものなの?」
基本的にアレサにおけるゲーム内通貨は現実の現金と換金出来ないように設定されている。それはかつて、このゲームがリリースされた時、あまりにも多額のリアルマネーが仮想世界に流れてしまい。経済が混乱したためだった。しかしどんな制度にも抜け道は付きものである。総司は腰に着いてあるポーチに手を差し入れ1本のキノコを取り出した。
それは目の前で取引されている物と同じ【強壮キノコ】だった。
総司はそれを優理香が見えるように彼女の視線の前に移す。
「あそこで取引されてる【強壮キノコ】なんだけどMtrを現実の貨幣に換金する時、もしくは現実の貨幣をMtrに変える時はこのキノコのアイテムの売買を通してするんだ、それで大まかにリアルマネーとMtrのレートが決まってる」
「そのキノコが2つの世界で仮想通貨として機能しているってこと?」
優理香の質問に総司は頷く。
「【強壮キノコ】はグローバルサーバーのアイテムの中では、比較的沢山取れるし、しかも回復アイテムの原料やテイムしたモンスターの餌に沢山使われるから常に需要があって価値が安定してるからね。こいつが現実とアレサの2つをつなぐ通貨代わりとして用いられてって訳よ。まあ、安定しているとは言ったけど換金レートは平均して1本4100円前後と高いし、中間貨幣としての問題は多いけど」
「じゃあ、あそこで取引しているのはただのアイテムの売買だけではないのね……」
「そう言うことになるね。あそこで行われてるのは現実のお金の取引も含んでいるんだよ」
「……」
優理香は総司の言葉を聞くと納得したのか口を手で押さえ、真剣にその取引を見つめる。総司もその視線を舞台に戻す。取引の熱は今なお収まる気配が無かった。
『34! 34! 34! ――』
『35!』
『35! 35! 35! ――』
『355!』
『355! 355――』
(今日はMTr安キノコ高だな……。最近なんでかキノコが高くなってるね……まあ、37って所だろうな)
総司は加熱し続ける取引にそんなことを考えていると。突如その会場に一際大きな声が響いた。
『40だ!』
地を割るような低い大きな声に会場の注目がそこに集まった。
声を挙げた”ブローカー”はその声の大きさに比例するように熊のような大柄の体格をしている男性のアバターだった。身には皮と鉄で作られた簡単な装備のみを纏っているにも関わらず、その巨体からか見る物を圧倒する容貌をしている。
その発言にザワつく会場。しかしキノコを売る商人はその言葉を聞くとニヤリと笑い言う。
『さあ! 40だ! 他に居るか!?』
今度こそ声を挙げる者も、手を挙げる者もおらず、カランカランと鈴が鳴らされる。
『さあ、決まりだ! 最後の落札者は<オグ>! 今日の取引はこれで終いだ!』
再びカランカランと鈴が鳴らされると”ブローカー”達はその場で会話を続ける者もいたが、ポツポツと帰り始める。
「凄いねあの人……」
楓がそう呟くと絵里先輩はうんうんと頷いた。
「いきなり40ってワープだよ! 私驚いちゃった!」
「大丈夫なのかしら……?」
心配そうに言う優理香。その後も3人が各々驚きを表す中、総司はフッと笑う。
「<オグ>さん、随分勝負に出たな」
「……! 総司の知り合いなの?」
驚いた様子でこちらに振り返る絵里先輩に総司は視線を彼女に向け言った。
「はい、ここら辺じゃ有名な超ベテランの”ブローカー”ですよ。俺もよくあの人からアイテム卸して貰ったりしてます」
そう言って総司は視線を舞台に向ける。<オグ>と言う名のアバターはしきりに商人と【強壮キノコ】を交互に見ながら話していたが、話もまとまったようで顔を上げるとふと総司と目が合う。すると手を軽く振りこちらにのしのしと大きな体を揺らし歩いてきた。
「総坊じゃねーか! 久しぶりだな!」
こちらに来るといよいよそのアバターの姿がハッキリとしてくる。<オグ>の体格は大きく熊のようで、手足は筋骨隆々としていたのは先も印象づけられていたが、顔つきもそれに比例するように濃かった。全体的に堀が深く、無精ひげを無造作に生やしたその顔は良い意味で渋く。仮に顔つきが現実のそれを反映しているのなら、年齢にして40を超えているだろう。
「お久しぶりです。<オグ>さん!」
その百戦錬磨の荒武者の様なアバター<オグ>に総司は言葉を返した。オグは総司を見て「おう、おう」と言った後、いつの間にか総司の陰に隠れていた3人に目をやる。
「そちらのお嬢ちゃん方は?」
「俺の友達です」
「「「こ、こんにちわ」」」
<オグ>の大きな体格に圧倒されたのか彼女達はやや恐る恐る挨拶すると、<オグ>は肩をすくめ、唸るような声で言った。
「おいおい、そうビビらなくて良いぜお嬢ちゃん! 俺なんかよりお嬢ちゃん達の方がよっぽど強いんだからよ!」
<オグ>は自分のアバターの名前の横を指さす。アバターのレベルが表示されているそこには、小さくレベル”30”の数字が表示されていた。
彼女達はそれを見ると少し、自信が着いたのか総司の陰から出る。<オグ>は彼女達を順々に見ると総司に言った。
「随分と可愛らしい娘さん達だが何処で知り合ったんだ?」
「学校ですよ。同じ部活の部員です」
「おお~あの総坊が部活動か~。いや~成長したもんだ」
<オグ>は腕を組み感慨深そうに頷いた。
その姿を見ると何処か気恥ずかしい気持ちになった総司は、話題を変えるために口を開く。
「そう言えば<オグ>さん。随分強気な取引でしたけど大丈夫なんですか?」
総司の言葉を聞くと<オグ>はピクッと反応し総司の言葉に返した。
「ここだけの話なんだけどな。また例の金持ち共が”世界樹”の攻略をする為、じゃんじゃん金を投げてるらしいんだわ」
「マジッスか? いい加減懲りないんですかね? ついこの間も失敗したばかりだって言うのに」
「連中まだ金で何とかなると思ってんのさ! 多分暫くしたら噂を聞きつけた奴らの便乗キノコ買いが始まるからかなり上がるぞ~」
そう言うと<オグ>は唸るように笑った。総司は少し呆れた笑いを浮かべながら返す。
「あんまり先物買いはしない方が良いですよ」
「な~に、その時はその時よ! 失敗したらまたこいつで儲ければ良い!」
<オグ>は自分の腕をバシッと叩き、再び笑った。昔から変わらない、自信に満ちあふれたその顔に総司も思わず笑みが零れた。
<オグ>は豪快でそして人情味に溢れる人だった。
総司がこのグローバルサーバーで始めてアイテムを買った時の相手も<オグ>だった。ほんの僅かな薬草を買うことすらまだ幼く、無知で、その場をウロウロとする事しか出来なかった総司に親切に、何度も品物である筈のアイテムを実際に使って見せ、その効果を総司に教えてくれた人であった。それ故に総司にとって
<オグ>は良きビジネスパートナーであると共に恩人でもあった。
一頻り笑うオグ。笑いが終えると舞台上の商人の方を見る。どうやら売買が確定したようで何かの合図を彼に送っていた。<オグ>はそれを見ると総司と3人にむき直した。
「奴さん準備が出来たようだ! そろそろ行くぜ総坊! 儲かったらサービスするぜ!」
「また、会いましょう<オグ>さん!」
「おう! じゃあな総坊!」
<オグ>がそう言うと総司の横に並ぶ3人も、各々が別れの挨拶を彼にする。<オグ>は豪快に笑った。
「お嬢ちゃん達もじゃあな! 総坊と仲良くしてやってくれ!」
オグは巨体さを感じられないほど軽快に体を翻し、階段を降りていった。
「総司君と<オグ>さんって現実でも知り合いなの?」
楓が総司に言うと総司は首を横に振る。
「いや、リアルでは会ったこと無いな」
「でも総司君の事”総坊”って呼んでたよ?」
楓の疑問に総司は答えた。
「もう付き合いが長いからね、あの人も俺が小さい頃からの知り合いだから」
「小さい頃って……そう言えば貴方はいつからアレサやってるの?」
会話を横から聞いていた優理香が総司に尋ねると総司はケロッとした顔で答えた。
「5歳の頃からだよ」
総司の言葉を聞くとその場に居た3人の表情は驚愕に歪んだ。
「ご、5歳ってまだ小学生にもなってないじゃん!?」
絵里先輩が言うと総司は淡々と返した。
「そりゃあまあ……サービス開始した時は俺小学生じゃないですし……」
「お父さんとかお母さんが一緒にやってくれたの?」
楓がそう尋ねると総司は「あ~」と言いながら頭をかき答えた。
「いや、俺んちその時ちょうど離婚してさ。父さんが1人でも寂しくないようにってESG買ってくれたんだ。だからその時からね」
総司の言葉を聞くと楓の〈猫丸〉は少し顔を伏せ静かに言った。
「そうなんだ……ごめんね」
「ん? いや別にいいよ」
総司はあっさり答えるがチラリと絵里先輩と優理香の方を見る。すると彼女達も楓と同じように顔を伏していた。
「「「……」」」
沈黙する3人に総司は(うげっ!)っとバツが悪い気持ちになる。本人はあんまり気にしていないくとも、他人から見ればそうでは無い。よくある事である。
(いかん、いかん、雰囲気が重くなっている。ここはササッと話を進めて空気を変えねば)
総司は陰鬱な雰囲気を取り払うためにも気を取り直し、3人にむき直し言った。
「でもほら! 小さい頃からここに居るお陰で色んな人に会えたし、そんなに気にしてないよ! 今から行く”情報屋”の人もその1人なんだけど変わった人だけど面白い人だから!」
言うなり先を促すようにその場から歩き出す総司。気持ち明るめの口調だったお陰か彼女達はそれを聞くと、特にそれ以上言及する事も無く総司の提案に頷き、総司の後ろを付いていった。




