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VRMMOが日常となった世界で青春物語  作者: 金 銀太
第二章:天まで届く世界の樹
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7話:魔法都市

盟友団との交渉があった次の日、朝から部室には総司を含めたゲーム部が集合していた。その日は学校が休みの土曜と言うこともあり、ギルド戦も無く、長時間のリンクも可能と言うことでとても都合が良い日だった。


 総司は部室に入り先に居た3人に軽く挨拶した後、鞄の中を必要な物はそれっているかと確認する為、漁る。


 今回はグローバルサーバーにリンクし【ニーズヘッグ】の情報を集めるのが主目的だが、それだけでもそこそこ長丁場になることが予想される。となるとゲームだけでは無くリアルにも気を遣わねばならない。

 その為食料や水分などを忘れたりすると一大事である。長時間のリンクになると体にかかる負担は、それに比例して大きいのだ。総司は鞄の底から簡単なパックに詰められた食料とペットボトルを見つけ、一

安心する。


 長時間のリンクの際は基本的に一度途中で休憩を挟む、その時に取る食事はできる限り量は少なく、かつ消化効率の良い物がベストだ。水分も利尿作用のあるカフェインや糖分などを含む物は避けるのが好ましい。

 総司はそれを踏まえ、今日持ってきたのは砕いた固形栄養食と薄めた無糖スポーツドリンクというストイックなスタイルだった。


 「今回は長めリンクになりますから、ちゃんと食料と水は用意してきましたか?」


 総司はソファに先に座っていた3人に問いかける。

 総司の問いに一番最初に答えたのは絵里先輩だった。


 「もちろん! 気合い入れて作ってきたよ! 沢山作って来たから皆も食べて!」


 そう言うと鞄の中から縦30cmありそうな重箱を取り出し、机の上にドシンと置いた。


 「絵里先輩……これ作ったんですか?」


 総司があまりの迫力に押されながらそう言うと。絵里先輩は胸を張った。


「記念すべきゲーム部第一回グローバルサーバーリンク記念日だからね! 全力投球だよ!」

「す、凄いですね」


優理香も完全に押されつつ言う。それを見ていた楓も「凄い!」と言いつつ鞄から保冷バッグを取り出した。


「私もプリン作ってきました!」


 楓はそう言い、保冷バックの中から白い箱を取り出す。パカッと中身を開くとなんとも美味しそうなプルプルとした4つの卵黄色のデザートが顔を出す。絵里先輩は顔を輝かせた。

「すっご~い! 楓ちゃんこれ作ったの?」

「はい! 後で一緒に食べましょう!」


 楓は白い箱を閉じ、部室にある小型の冷蔵庫の中にそれを入れた。


「……」


 総司はその後も盛り上がる2人黙ってを見つめる。


(2人とも気合い入りすぎだろ! まずい粉とうっすいスポドリ持ってきた俺が空気読めてないみたいじゃん!)


 まるでピクニックに来たような2人の和気藹々とした雰囲気に、総司はガチってる自分の方がおかしいんじゃね? と思われ、何処か恥ずかしく、悶々とした感情に身を捩らせていたが、視界の端に優理香の顔がチラリと写りそちらを見る彼女はどこか恥ずかしそうに視線を逸らしていた。


 総司はそんな彼女を見ると内心うんうんと頷いた。


きっと彼女も、総司と同じよう長時間のリンク用の食料を持ってきてしまったのだろう。ただ、重箱やらプリンやらを見てしまい、それを出すのが恥ずかしくなってしまったに違いない。


 全てを察した総司は彼女を励ますため優理香の隣に移動しこっそり言う。


「優理香は何持ってきたの?」


 総司の問いかけに優理香は顔を上げ、小さい声で答えた。


「……笑わない?」

「笑うもんか! 俺も同じようなもんだ」


 優理香はその言葉を聞くと、少し安心したような表情を浮かべ、鞄を漁り、小さなお弁当箱と袋詰めされた物を取り出した。


「私、これ結構好きだから、皆と一緒に食べようと思って持ってきたんだけど……変じゃない?」


 優理香はお弁当箱を机に置きもう一つの袋詰めされたのを総司に向ける。総司はそれを見た。

 そこには”おばあちゃんのほたほた焼き”とかかれたせんべい袋があった。


「……」


「……」


「…………ブフッ!」


「……! 今、笑ったわね?」


「笑ってない、笑って……ぐひっ! ひひ!」


「~~~ッ!」


 ぽかぽか


「ぐ、ぐっひ! 優理香やめて……ひひ!」


暫く赤面する優理香に叩かれながらお腹を押さえていた総司だった。



 ※



 部室に集まって1時間。ややご機嫌斜めの優理香を横目に総司はソファに座る3人を見ながら言った。


「え~……おほん。もう一度言いますけど、グローバルサーバーは鎌倉や京都のような所ではありません、ましてやネズミの国の様なところでもありません。俺みたいな一級廃人がうじゃうじゃいるとても危険なところです、絶対に変な行動はしないように!」


 しっかりとした口調で言う総司に対して絵里先輩と楓は笑顔で頷いて答える(優理香はムスッとした顔で頷いていた)。それを見た総司はもう少し色々説明した方がいいかな? と思いつつも、これ以上は実際に見せた方が早いかと思い、気を取り直しスマホを操作、アレサのアプリを起動させる。


 アバターをレベル”22”のアバター<ルーラー>から慣れ親しんだレベル”130”のアバター〈ベイオネット〉に切り替える。


 アプリを操作するその指は軽快だった。普段なら自室のベッドで1人横になり、行く場所だが、今回は違う、1人では無いのだ。その事実は総司を無意識の内にワクワクさせた。


 アバターが切り替え終わると続いてオンライン接続を確かめ、いくつかあるグローバルサーバーへのリン

ク制限の内レベル90以上の項目をチェックし、同時に招待枠にゲーム部のアバ

ターを登録する。


「じゃあ、行きますよ!」


 3人を順々に見る。3人とも頷くのを確認すると総司はボタンを押しながら言った。


「リンクスタート!」


 かけ声と共に4人の意識はここでは無い別の場所へと飛び立っていった。



 ※



 グローバルサーバーは、VRMMOゲームアレサの開発会社ワールドクリエイト社が作り上げた最初にして最大の仮想世界である。政治的理由やサーバーを維持するだけのインフラが整っていない国を除いて、世界各国に置かれたサーバー群が密接に連動することで、広大な仮想世界を構成し、その大きさは現実の地球とほぼ同一と言われている。地形も多少の差異はあれどそれに準拠した物になっており、正に電子の世界に現れたもう一つの地球と言って良い物だった。

 仮想世界の地球では現実にある各国のサーバー群の数に応じて巨大な安全地帯が1つずつ設けられており、そこで多くのプロゲーマーが跋扈していた。


 一攫千金を夢見る者、ただ力を追い求める者、逃避の果てにたどり着いた者、そしてただゲームクリアを望む者……。


 多くの欲望と陰謀を心に抱く者とそれに微塵の価値も見いださない者達が入り乱れる混沌とした世界に今ゲーム部は挑もうとしていた。



 ※

 


 目を開き、空を見上げる。空は分厚い雲に覆われ、もくもくとした灰色の凸凹が何処までも広がっている。


 ほこりっぽい匂いに鼻を曲げながら、首を回しつつ視線を下げる。最初に目に付いたのは崩れかかった大きな石造りの城だった。


 かつてはその城は透き通るような純白を持つ白石と呼ばれる魔法石で作られ、見る者を圧倒する流麗な雰囲気を持った、それはそれは美しい城だったが、今ではその面影は無く、白石は割れ、所々に泥ともヘドロとも言えないものが付着し、そこら中に下品な落書きがされている。


 城を挟むように存在していた、平和と繁栄を意味する2本の高いらせん状の塔も、現在では平和の塔は既に上半分が消し飛び、繁栄の塔は崩れ城にもたれかかっている。


 城から目を離し、視線を最後まで下げると、次に視界に入ってきたのは城の前にある枯れ果てた泉の跡地だ。そこは数年前までは魔法の泉と呼ばれ、無限に魔法の水が湧き出る、多くの人々に愛されていた泉だったが、それも今は昔。泉は枯れ果て、代わりに定期的に振る雨水が溜まり、淀んだ異臭を放つ一画と化していた。


 辛い現実から目を背けるように視線を城と泉から離し、城下に広がる町並みに目を移す。城を中心に町を覆う城壁まで、びっしりと大量のバラック小屋と木造の建物――そしてコンクリートの建物が無秩序に建てられ、古近現様々な建築様式が乱暴に並んでいた。全く……美しさの欠片も無い。


 もう何も見たくないと目を閉じる。すると代わりに気こえてくるのは、アイテムの取り分でもめる男達の怒声に、妖艶に何かを誘う女性の色撫で声、そして定期的に鳴り響く謎の銃声だった。


 顔を手で押さえ再び空を見上げる。


 間違いない……。このクソの肥だめのような所は自分――清宮総司が何年も過ごした思い出? の場所グローバルサーバーの安全地帯の一つ……”ニホンサバ”だった。


「ここが世界中のプロゲーマーが集まるグローバルサーバー……」


 隣から優理香の〈ヴァルキュリア〉声が聞こえる。


「何か思ってたのと違うね」


 楓の〈猫丸〉の声が聞こえる。


「ここがグローバルサーバーなの総司?」


 絵里先輩の〈マリボール〉声が自分に向けられるのを感じる。総司は顔を押さえていた手を離し、不敵に笑い、ローブを翻すと3人の前に踊りでる。


「そうです! ようこそ! クソッタレ共が集まるクソッタレな町! グローバルサーバー……”ニホンサバ”へ!」


 総司のレベル”130”のアバター――全身にダークグレーのローブを身に纏い、腰に2対の銃剣を携えた〈ベイオネット〉がそう言うとお辞儀する。顔を上げると、3人ともそれぞれがグローバルサーバーにイメージした物と違ったのか顔を曇らせていた。


 神官服を着た絵里先輩のアバター〈マリボール〉が口を尖らせながら言う。


「え~……ここが本当にグローバルサーバーなの? 世界中の人達が集まるからもっと綺麗な所だと思ってた~」


 そう言う絵里先輩に総司は答える。


「まあ、世界中の人たちが集まるのは事実ですけど、ここに居るのは”多分”殆どが日本人ですよ」

「そうなの?」


「グローバルサーバーは現実の地球の地形を参考にしてて、滅茶苦茶広いっすからね、国毎に1つ首都に相当する所に安全地帯が置かれてるんですよ。で、俺たちがリンクしたのが日本だから自動的に日本の安全地帯でスポーンするように設定されてるんです」

「じゃあ、もしアメリカとか中国とかでリンクしたらこことは別の場所に出るの?」

「そうっすよ。ここから滅茶苦茶遠いっすけど」

「おお~グローバルな感じ……」


 どこか感心したような表情を浮かべる絵里先輩。それを聞いていた鉄のドレスを身に纏った優理香のアバター〈ヴァルキュリア〉が総司に質問する。


「だからこの安全地帯の名前は日本にあるから”ニホンサバ”なのね?」

「まあ、そうだね。本当の名前は別だけど」

「……? なんで本当の名前で言わないの?」

「大した理由じゃないよ、正式名称は≪魔法都市ヱクセリオン≫なんだけど、そんな気取った名前なんて誰も言いたがらないから、その内ニホンサバって呼ばれるようになった」

「……確かにとても魔法都市っぽく見えないわね」


 優理香は周囲を見回す。廃墟と化した城に、枯れ果てた泉、バラバラな町並みは一般的なイメージとしての魔法都市とは大きくかけ離れている、というよりただのスラム街だ。総司はため息交じりで返した。


「昔はあの城も真っ白で綺麗な所だったんだよ、あの枯れた泉からも浄化された水が町全体を流れてさ……今じゃ廃墟だけど」

「何かあったの?」


 楓のアバター〈猫丸〉が尋ねてくると総司は答える。


「ちょうど3年前くらい前にな【ドグマニカ】っていう”絶望(ホープレス)級”モンスターがニホンサバの中に入ってきてそいつが暴れまくって大変なことになったんだ。それでこんな感じになった」

絶望(ホープレス)級? モンスターの一番強いランクって天災(テンペスト)級じゃないの? それに安全地帯にモンスターって入ってこれないんじゃ無かった?」

絶望(ホープレス)級はグローバルサーバーのみに現れる天災級の1個上の奴で、あり得ないくらい強い上、安全地帯だろうとなんだろうと関係なく突っ込んでくるヤベー奴なんですよ」

「モンスター1匹でこんなになっちゃうんだ……」


 楓が町を見回しながら言うと、総司は少し笑って答えた。


「さすがに絶望(ホープレス)級って言っても、普通は1体じゃあこんなに出来ないですけどね、【ドグマ

ニカ】はプレイヤーを倒せば倒すほどパワーアップして、体力も回復する特性があったから、雪だるま式に強くなってこんなことになっちゃったんですよ」

「そのモンスターってどうなったの?」


 話を横から聞いていたであろう絵里先輩が尋ねると総司は静かに答えた。


「倒されましたよ。たった1人のプレイヤーにね」


 その言葉を聞くと絵里先輩はハッとした表情を浮かべ、口を押さた。


「もしかしてその人が……総司……」


 彼女は感嘆と羨望の眼差しで総司を見る。総司はため息を付き答えた。


「違いますよ。絶望(ホープレス)級をソロで狩るなんて俺には出来無いですよ」

「なんだ~……総司じゃ無いんだ……」


 彼女はがっくりと肩を落とした。


「絵里先輩は俺への信頼が厚すぎます」

「だって総司が一番強いって思ってたんだもん!」

「んなこたーないっす。俺なんて世界中から強い奴集めたら、上から300番目に入るか入らないかくらいっすよ」

「え~……微妙~」


〈マリボール〉は半目になりながら総司を見る。総司は体をプルプルと震わせ返した。


「微妙じゃない! 8億人居る中の上から300番目だから滅茶苦茶強いの!」

「なにムキになってるのよ」


 優理香に突っ込まれ、途端に恥ずかしくなった総司はコホンと咳をし言う。


「まあ、俺が言いたいことは世界は広いって事っす、俺も超強いけど俺より強い奴も普通にいるんすよ」

「レベル130以上の人もいるって事?」


 絵里先輩が覗き込むように総司を見て言った。


「そうっすよ、レベル140の人もいます。滅茶苦茶少ないけど」

「……そう言えばずっと疑問だったんだけど、どうして貴方はレベルキャップである筈のレベル100以上のレベルを持っているの?」


 優理香が気になったのか問いかけてくる。総司はそれに答えた。


「簡単に言うと特殊な条件を達成するとレベルキャップが開放されるんだ、俺もそれをこなしたからレベルが130になってる」

「その特殊な条件って何?」

「それはおいおい説明するよ、もっと説明に適した場所があるからね。それよりもそろそろ出発しよう、あんまり時間を掛けると治安が悪くなるから」

「次は依頼所に行くの? 総司君?」


 町を眺めていた〈猫丸〉がそう聞くと総司は首を横に振った。


「いえ、馴染みの”情報屋”の所に行きます。今回の相手【ニーズヘッグ】は絶望(ホープレス)級なんで依頼所にクエストが出てこないんです」

「絶望級……私達勝てるかな……?」


〈マリボール〉が声を震わせ尋ねると総司は否定する。


「今回は情報収集だけだから戦いませんよ。ちょっと様子見て、罠の配置とか必要なアイテムとか諸々決めるだけですから」

「そうなんだ? 戦うのはまた次の日?」

「いえ、最短で1週間って所ですね。俺以外のプロゲーマーの集まりが良くないと……」

「私達がチームじゃダメなの?」


絵里先輩はそう言うと楓と優理香の方を向いた。


 総司は静かにそしてハッキリと言う。


「今回は相手が相手ですから」

「え~でも~――」

「ダメです。グローバルサーバーは他のサーバーよりデスペナが大きいんです。死亡すると所有してるアイテムが一定の確率で”落ちる”んです下手なことすると装備が無くなりますよ。なんで俺に任せてください」

「う~……」


 やや、ふて腐れ気味な絵里先輩を連れ総司達はその場を後にした。

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