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VRMMOが日常となった世界で青春物語  作者: 金 銀太
第二章:天まで届く世界の樹
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5話:交渉の間

<ストライカー>が屋敷に入り1分ほど経ち、ようやくドタバタが収まると。低い声で「入れ」という声が響く。それを確認した総司達は木で出来た扉を開き屋敷の中に入った。


 屋敷の中に入るとまず盟友団のリーダーであろうライオン頭の獣人が玉座に腰掛けているのが見えた。と言ってもその姿は先程の寝間着では無く。全身は黒と金色のマントが付いた輝く銀色の重鎧に覆われ、頭部のたてがみは雄々しく、ライオンの頭を囲み威風堂々とした雰囲気を纏っていた。玉座の隣には獣人の体躯に匹敵するほど大きさを持つ両刃の大きな斧が立てかけられている。

 続いて総司は視線をアバターの上部に移した。アバター名は<タイラント・レオ>、レベルは”86”と表示されていた。


 総司達は玉座まで一直線に繋がる赤い絨毯を踏み、盟友団のリーダーの元まで向かう。


「よく来た! 戦士達よ!」


<タイラント・レオ>は玉座から立ち上がり、マントを翻し言った。その姿は中々に様になっていたが、どうにもさっきの寝間着姿に身を包んだライオンの姿がチラつき、何処か締まらなかった。


「今日は何の様で我が元に来た?」


<タイラント・レオ>はバッと手を差し出す。それに応じる形で〈マリボール〉が一歩前に出る。


「私達のゲーム部と盟友団で同盟して欲しいの!」


 彼女は胸を張る、青と白のローブが今にも弾けそうなくらいバツバツに張った。


 <タイラント・レオ>は茶色の毛で覆われた手で自信の顎を撫でる。


「ふむ……同盟か……」


 彼はそう言いながら、コンソールを展開させ、何かしきりに操作している。きっとゲーム部の情報を見ているのだろう。


 しばらく画面を眺めた。<タイラント・レオ>は彼女に視線を戻す。


「この同盟がどういう意味かは分かっているのか?」

「うん! ゲーム部と盟友団が協力すればもっと発展出来るようになるよ!」

「だが、我らにとってゲーム部と同盟を組む利点は少ない様に見えるが、それについてはどう思う?」

「……」


 絵里先輩は少しの間沈黙する。総司はその様子を横目で見ていた。


 当たり前の話だが、この同盟はゲーム部に取って利点は大きいが盟友団にとっては利点は少ない物になっていた。

 それはこのゲームの領地戦という設定上、同盟を結ぶことが出来る勢力は1勢力のみに限られるからだ。つまり盟友団は一度ゲーム部と同盟を結んでしまうと、他の勢力と同盟が結べなくなってしまうのである、そうなると規模の小さいゲーム部と同盟を結ぶことは盟友団側にメリットは薄いのである、しかし――


「ふっふふ……」


<マリボール>はそれを予想していた様に不敵に笑い、そして言った。


「私たちと同盟を結ぶとすっごく良い事があるよ!」

「ほう……それはなんだ?」


<タイラント・レオ>は興味深そうに<マリボール>を見た。総司は息を呑みつつ彼女を見つめる。


 今回の交渉においてこちらで切れるカードは少ないのは、あらかじめ分かっていた。その為、ゲーム部は事前に自分たちのストロングポイントである――特化した強さを持つアバターの性能という点をアピールし、それを売り込む形で対策を練っていたのだ。


 突進力と攻撃力に優れる優理香の<ヴァルキュリア>


 回避と身のこなし、タゲ取り能力に特化した楓の<猫丸>


 補助魔法使いとしては一流の絵里先輩の<マリボール>


 この3人の特化した特性を具体的に説明し、盟友団にプッシュする予定だった……のだが――


「私達はすっごく強いから! ほんっとうに! 頼りになるよ!」


 彼女は胸を張り、ドヤ顔を浮かべ得意げに言った。


 総司は頭を抱える。


(絵里先輩……それじゃあ何処が、どう具体的に強くて、頼りになるのか伝わんないっすよ……)


 彼女のアピールはなんとも具体性のないフワッとした物になっていた。


「……」


 その様子に沈黙する<タイラント・レオ>。暫くし、コホンと咳をした後、〈マリボール〉に再度問いかける。


「あ~……いや、どれくらい強いの?」

「すっごく強いよ!」

「お、おう……」


 あまりにも自信満々に言う彼女に<タイラント・レオ>は困惑した表情を浮かべ、少したじろぐ。


 総司は「むふー」と鼻を鳴らす<マリボール>と(えぇ……)と困惑した表情を浮かべる<タイラント・レオ>に半目で(なんじゃこの交渉……)と思いながら眺めていたが、突如として屋敷の奥にある扉が開く。


「ゲーム部はアミックス・テラ倒すくらいには強いらしいぜ」


 そこにはついさっき出会った迷彩服に身を包んだ女の子のアバター<ストライカー>の姿があった。


「え! それマジ?」


 驚きからか格式張った口調が崩れ、<ストライカー>に問いかける。


<ストライカー>はニヤッと笑いながら<タイラント・レオ>の隣に立つ。その肩には先程は持っていなかった、迷彩塗装がされた大型のスナイパーライフルが担がれていた。


「マジだよ! ゲーム部のギルドランク見てみ、アミックス・テラ倒したから6位になってんだ」

「いや……それは見たが、アミックス・テラが自主解散したから繰り上がりでランクが上がったんじゃないのか?」

「んな訳ねーだろ、あの格闘ロボット野郎が自主解散なんてするタマに見えるか? ゲーム部が勝ったから解散したんだよ」

「ウッソだろ……あの<ウォーヘッド>――桜木に勝ったのかよ……」


 心底信じられないと言った表情を浮かべる<タイラント・レオ>に、総司は疑問が浮かび隣に立つ俊に小声で尋ねる。


「盟友団ってアミックス・テラとなんかあったの?」


 俊も合わせるように小声で返した。


「正確に言うなら<ウォーヘッド>と色々あってな。ちょうど1年前、盟友団がトリナシオンの領地に攻めた時、まだそこの幹部だった<ウォーヘッド>1人にギルメンが散々無双されて軽くトラウマになってんだ」

「そんな強かったのかあの性悪……」

「性悪?」

「あ、いやこっちの話」


 総司は視線を<タイラント・レオ>と<ストライカー>に戻した。


「う~ん……ゲーム部と同盟か……」


<タイラント・レオ>はゲーム部がアミックス・テラを倒したのが余程効いたのか先程よりも真剣に考え出していた。そこに<ストライカー>がポケットから棒付きのあめ玉を取り出し、それを口に加えながら言った。


「同盟して良いんじゃね? 私もゲーム部に興味あるしな」


「だけどこっちにも面子があるから……あんまり規模が小さすぎる相手と組むとギルメンになんて言われるか……」


<タイラント・レオ>がそう言い再び「う~ん……」と悩み出すと、<ストライカー>は持っていたスナイパーライフルを怠そうに両肩で担いだ。


「ハッキリしねーな! このへたれ!」

「へたれ!? 陽葵! 言って良いこと悪いことが有るぞ!?」

「子分のこと気にしすぎて、決断が鈍い親分なんてへたれ以外のなんなんだよ?」

「うっ……! でもなぁ、組織って言うのは色々あるんだよ!」

「はぁ~……ならもう1個適当に条件でも出せば? 皆が納得出来るようなやつさ」

「……ちょっと待て、今考えるから」

「早くしろよへたれ兄貴!」

「へたれじゃない!」


 そう言って<タイラント・レオ>は「うむむ……」とうなり声を上げ、その場を行ったり来たりし出す。総司は再び俊の方を向き小声で尋ねた。


「あの2人って兄妹なの?」


 俊は2人のやりとりを見ながらどこか呆れたようにため息を付きながら答えた。


「そうだよ、うちのギルマス――<タイラント・レオ>の本名は吉良猛(きら たける)。<ストライカー>は吉良陽葵(きら ひまり)さんだ。いっつもあんな感じだよあの2人は」

「なるほどね……」


 総司は納得すると視線を〈マリボール〉に移す。


 彼女はうろうろする<タイラント・レオ>に、交渉が有利に働いているのを感じているのか、ドヤっとした表情を浮かべ胸を張り続けていた。

 総司は(すげぇ胆力……)と思いつつ彼女から<タイラント・レオ>に視線をスライドさせる。


 その獣人は何度も何度も忙しなく、場をいったり来たりしていたが突然止まり。「よし!」と一声上げ指を鳴らし、<マリボール>の方に向きなおした。


「待たせたな客人! 今回の同盟結んでも良い! だが、一つだけ条件がある!」

「何かな?」


<マリボール>は端的かつ堂々と答えた。


<タイラント・レオ>はそれを見ると僅かに口元をニヤリとさせる。


「”龍玉”を持ってきて欲しい」


(……!? 龍玉だと)


 総司はその言葉を聞くとピクッと体が反応する。


 龍玉は”レア度5”。最上位(エスト)級を上回る天災(テンペスト)級を更に上回る絶望(ホープレス)級モンスター【ニーズヘッグ】がドロップする超高位アイテムだ。

 絶望(ホープレス)級モンスター【ニーズヘッグ】はプロゲーマーが徒党を組んで倒すような相手である。とても達成出来るような条件では無い。と言うより、このレベルのアイテムを渡すなんて同盟程度じゃ釣り合わない程の物だ。


(大分ふっかけてきたな……まあ、交渉の基本か……)


 交渉事に置いてまず、基準以上の条件を提示するのは基本的な手法の一つだ。これから少しづつ条件を下げるように交渉して言って互いに妥協し合えるラインまで持って行くのだ。


(これから先はどれだけ絵里先輩が条件を下げられるかが勝負だな……)


 総司は<マリボール>を注視する。<タイラント・レオ>に無理難題を押しつけられた彼女の答えは――


「りゅうぎょく? 分かった! それを持ってくれば良いのね! 任せてよ!」


 自信満々に胸を張ることだった……。


(おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!!!)


 話の速度がアクセル全開過ぎて、総司の思考は混沌に支配される。

 どうやら<タイラント・レオ>もあっさり快諾されるとは思ってなかったのか、口をぽかーんと開けている。


 総司は前に立つ<マリボール>に断るよう、必死な表情を浮かべジェスチャーを送る。それに気づいた彼女は小さくこちらを振り向き、笑顔でぶいっ! と小さなピースを立て再び前をむきなおした。


「……」


 いや! 褒めてるわけじゃねーよ! 


 最早光の早さに匹敵するほどの勢いで変わっていく状況に総司は体中から冷や汗が出てくる。どうしようかと挙動不審になっている総司その時、<ストライカー>と偶然にも目が合った、すると彼女はニヤッと笑う。


「じゃあ! 龍玉持ってくるで決まりだな! 期待してるぜ! ゲーム部!」

「ふっふっふ……期待しててね!」


<マリボール>は自信満々に言うとこちらを振り返り、宣言する。


「よ~し皆! 現実(リアル)で作戦会議だぁ~」


 彼女はコンソールを展開してリンクアウトしようとする。

 優理香と楓も顔を合わせると頷くとコンソールを展開し、リンクアウトボタンを押しにかかる。


「ちょ、ちょっと待って――」


 総司はそれを止めようとすると彼女達は止まらず、そのままボタンを押し、光の粒子となって消えていった。


「俺も先行ってるぜ、総司」


 呆然とした表情で俊を見る。その顔は面白いことになってきたと不敵な笑顔が浮かんでいた。


 俊も光の粒子となり、その場に取り残される総司。


 うぐぐ……と表情を歪ませながら<タイラント・レオ>と<ストライカー>を見る。<タイラント・レオ>はまだ驚愕から固まっており、<ストライカー>は総司を見ながらどこか試すような、謎めいた笑いを浮かべていた。


「……」


 この場に残っていても仕方ないので総司もコンソールを展開しリンクアウトにかかる。


「……失礼します」


 一言そう言うと総司のアバターは光の粒子となってその場から消えた。


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