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VRMMOが日常となった世界で青春物語  作者: 金 銀太
第二章:天まで届く世界の樹
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2話:ヒーロー見参!

「まだ?」

「あともうちょい」


 総司が尋ねると俊は首を横に振った。


 対戦が始まって3分程が経過した頃、2人は一向に戦う気配など無く、ビルの屋上で時間を潰していた。


「はぁ~……お前のアバター特殊すぎんだよ。そんなんだからレベル55もあるくせにクラス戦で下から3番目なんだよ……」


 総司がため息をつきながら言うと俊はキッパリと返した。


「ヒーローには時間が必要なんだよ!」

「ならせめて【変身】しなくても少しは戦えるようにしたら?」


 総司の問いに俊は肩をあげやれやれと言った仕草をする。


「ロマンが分からねぇ奴だな~そんな中途半端な事したらインパクト弱くなっちゃうじゃん」

「そう……」


 俊の謎な理論に総司は視線を逸らした。


 俊のアバター<中田俊>は特殊なアバターだった。

 特殊と言っても複雑なスキルを持っているとか、変わった戦い方をするなどそう言ったものでは無い。その特殊性は戦闘力の幅にある。


<中田俊>は通常時だと何の戦闘力も持たず、戦闘用のスキルも持たない貧弱アバターだが、スキルゲージが満タンの状況でかつ戦闘開始から一定以上時間が経つと【変身】というスキルが使えるようになる。

 このスキルだが読んで字のごとくアバターの姿が変わるのだ、継続時間はスキルゲージを消耗するまでの約3分。その間だけなら戦闘が可能になるというものだ。


 よって今、2人はその条件が満たすまでの間、対戦そっちのけで待っているのだ。


(やれやれ……ヒーロー物が好きだって言ってたけどここまで徹底してるとはね)


 アレサのアバターはプレイヤーの素質や趣向を反映させる。彼のアバターはどう見ても彼自身の趣向が過分に反映された物だった。


 総司は横目で腕を組み佇む俊を見ながら、暇つぶしに剣とリボルバーを抜きジャグリングする。


「器用だな」


 俊はそれを見ながらそう呟くと総司はそれを特に気にもとめず軽く返す。


「銃と剣の扱いは俺の十八番だからな」

「……」


 俊はそう言いジャグリングを続ける総司をジッと見て、目を閉じると腕を組み離し、言った。


「待たせたな総司。準備オッケーだ」

「ようやくか」


 宙を舞う剣とリボルバーを流れるような動作で腰に戻すと総司は俊にむき直した。俊は目を開き腕を十字に構える。


「【変身】!!!」


 グローブの宝石が一瞬煌めくと、俊は光に包まれ、姿が変わっていく。

 何の変哲も無い黒いブレザーを纏った一学生は、全体的に鋭利な印象を持つシルエットに変化していき、やがて光が収まるとその姿は鮮明なものになっていく。


 全身は銀色のバトルスーツに覆われ、所々から赤いラインが走っており、胸の中央には青く光るクリスタルがある。手の先端には先ほどのグローブが変化したのか宝石が象られた、機械的なものに変化し、パワフルな印象を受ける物に変わっていた。頭部もそのデザインに沿った銀色のヘッドギアが装着され、首には赤いマフラーをたなびかせている。


「……」


 無言で佇むそのアバターは一瞬顔をニヤリとさせると、体を素早く切り替えし、拳を地面に打ち付ける。神速の早さで打ち込まれた拳は鋭い音をたて、コンクリートに放射上に亀裂を走らせた。

 そのアバターは拳を地に着けたまま、顔を上げ総司を見る。


「正義の執行人者……<エグゼキューター>推……参……ッ!」


 目の前で決めポーズを取るアバターを総司は半目で見つめた。


「今のパンチする意味あったの?」

「そっちの方がカッコイイだろ!」

「さいですか……」


 総司はそう言い、視線をそのアバターの上部に移す。アバターの名前はいつの間にか<中田俊>から<エグゼキューター>に変わっていた。総司は視線を離し、頭をかく。


(【変身】の効果時間は3分だから、その間逃げますかね……)


 そんな事を考える総司。元々付き合う必要の無い物に付き合ってやったんだ。これ以上付き合う義理は無い。後は時間切れまで逃げて、【変身】が切れたその後倒せば――


「総司!」


 思考中の総司に俊がハッキリとした口調で言う。


「何?」


 それに答える総司。<エグゼキューター>のヘッドギアの合間から見える俊の目つきは一瞬堅くなる。


「”本気”でやれ!」

「……」


 俊の言葉を聞くと総司の眉が僅かに動いた。

 総司は少しの間、沈黙して佇んでいたが、僅かに笑ってそれに返す。


「俺はいつだって本気だよ……」


 ゆっくりとリボルバーと剣を抜き構えると俊は顔をニヤッとさせ<ルーラー>に向かい駆ける。 

 ダンッっと強くコンクリートの床を割り、一直線に<ルーラー>に突撃する、その早さは驚嘆に値すべき早さだった。


<エグゼキューター>は勢いそのまま、<ルーラー>に向かい跳び蹴りを放つ、ビルの屋上を易々と砕くその蹴りを<ルーラー>は後ろに跳躍することで回避。体勢を整えるために姿勢を正そうとするが――


「――ッ!」


<エグゼキューター>は着地と同時に地面を踏み込むと<ルーラー>の後方に瞬時に移動、銀色の光を煌めかせ、回し蹴りを放つ。<ルーラー>は剣を瞬時に後方に向け薙ぐ、それはバトルスーツに弾かれたが、同時に<エグゼキューター>も体勢を崩し追撃を辞める。


 距離を取る<ルーラー>、だが、視線はジッと<エグゼキューター>を逃がさないよう捉えていた。


 目の前に立つ中田俊のアバター<エグゼキューター>の戦闘能力は非常に限定的な条件を達成した上で得られる物だ。しかし、一度、条件を満たしてしまえばその戦闘能力は、レベル55の水準を2回り3回りは上回る超強力なものになっていた。純粋な攻撃力、純粋な防御力、純粋な速度……とにかく基礎スペックが桁違いに高いのだ。


 それ故に俊のアバターは総司のクラス、1年5組ではこう言われていた”3分間だけ”最強”と……。

 総司は無意識に笑うと俊もそれに応じるように顔をニヤッとさせる、そして叫んだ。


「来い!!! バスターランス!!!」


 俊のかけ声と共に空から銀色の光を煌めかせ大型の槍……いや大剣が<エグゼキューター>の前に突き刺さる。


<エグゼキューター>は自身の身長と同じくらいのその武器を引き抜き、構える。その獲物はランスの名前を冠していたが、穂先は異様に大きく<エグゼキューター>の半身を隠し、刃は柄まで伸びていた。そのため見た目は槍と言うより鋭利な二等辺三角形型の大剣のように見えた。


<エグゼキューター>はそれを木の枝を振るように片腕で軽々しく振り回し、構え直すと<ルーラー>に切っ先を向け、突撃する。総司はそれを冷静に見つめ、切っ先が触れるタイミングで体を傾ける。横を通過す俊と目が合うと、俊は突進の勢いを殺すため、強く地面を踏み込み、体を翻し、バスターランスを横に薙ぐ。


<ルーラー>はそれを剣で受け止めるが、甲高い音を響かせその場を吹っ飛ばされた。宙に浮かぶ自身の体をひねり、地面に着地すると同時に総司は思案する。


(正面から剣で打ち合ってもスペック差が大きすぎて、まともに受けられないな……ここは戦い方を変えるか)


 隙を突こうと神速の早さで〈ルーラー〉の後方に回る<エグゼキューター>。総司は一瞥すると手に持っていた剣をその頭部に投げつける。<エグゼキューター>は反射的に顔を逸らし避けるが、その隙に<ルーラー>は<エグゼキューター>の懐に入り込み、ローキック。体勢を崩した<エグゼキューター>の首もとのマフラーを掴み、背負い投げる。


「ぐっ!」


 声が漏れつつ、<エグゼキューター>は地面に叩きつけられる。

 倒れ込む<エグゼキューター>。追撃の為、総司は腰にある剣の鞘を掴み、それを叩き落とすため振り上げる。

 それを見上げるアバターの表情は苦悶に満ちていたが、一瞬口元をニヤリとさせる。


「……!」


 直感的に危機を感じ取った総司は攻撃を中断し、後方に軽くステップ、距離を取りにかかる。ステップした足が地に着く前に<エグゼキューター>の胸部のクリスタルがチラリと目に入る。そのクリスタルは激しく青く光り輝いていた。そして同時に俊の声が響く。


「【ソウル・シャウト】!!!」


 クリスタルから青白い光、巨大なビームのような光線が放たれる。総司はそれを咄嗟にしゃがみ回避したが、頭上をチリチリと膨大な熱量を持つ何かが通過するのを肌で感じ。その場をロールし、跳ね上がる。

 放たれたビームの軌跡を追い、視線を辿るとそのビームは彼方にある巨大なビルを穿ち、轟音を轟かせ周囲に鉄筋の破片を撒き散らした。


 そして同時に地上にいる人型のNPCから悲鳴が沸き起こるのが耳に入る。


「おいおい、正義の味方があんなことしていいのか?」


 ニヤつきながら問いかけると、<エグゼキューター>は跳ね起き、天を仰ぐように見上げ、手で顔を抑えた


「正義執行の為だ……市民も分かってくれる」


「ハッ! 半分闇落ちしてんじゃねーか!」


 言うなり<ルーラー>は駆ける。<エグゼキューター>もバスターランスを構え、それに対応するように連続で突きと薙ぎの猛攻撃を仕掛けてくる。

 しかし〈ルーラー〉はそれにひるむ様子も無く、縫うように懐に入り込み、掌底と小刻みな蹴りによる打撃を繰り返す。<エグゼキューター>に殆どダメージは無かったがそれでも体勢が崩れ始める。


「チッ!」


 状況が好転しないことに業を煮やしたのか舌打ちと共に、<エグゼキューター>の胸のクリスタルが光り輝き出す。


「【ソウル・シャウ――」

「させるか!」


 咄嗟にリボルバーを抜き、胸のクリスタルに5連射。1秒間に5回撃鉄が落ちる音が響くと青白く輝くクリスタルは砕ける。減少する<エグゼキューター>のライフゲージ。しかし俊の闘志は萎えることは無く、手に持っていたバスターランスを振り回しルーラーを遠ざけると巨大な鉄槍を大きく振り上げ、コンクリートの床を叩く。


 続く激闘で多くの亀裂があったその床はバスターランスの一撃に耐えられず、コンクリートの床は崩れ出した。


(無茶苦茶やりやがる!)


 崩れる床から逃げるため<ルーラー>は走る。一方で<エグゼキューター>は高い身体の能力を活かし、既にその場を跳躍、脱出していた。


 ようやく崩壊が収まり、走るのを辞める総司だったが、逃げることを優先していたためか、まだ床が敷かれていない鉄骨がむき出しとなったエリアまで来てしまう。


 幅にして30cmにも満たない鉄骨の上から見える地上は町の光に溢れ、正確な状況はつかめないが、それでも一歩足を滑らせれ落ちれば即死することだけは分かった。

 あまりの高さに総司は一瞬身震いするが、直ぐにもっと有利な場所に移動しようと振り向き、元いた場所に視線を移すとそこには<エグゼキューター>の姿があった。


「地の利を得たぞ!」


 バスターランスを<ルーラー>に突きつけ、言う。総司は後方をチラリと見た。鉄筋の先には何も無い、これ以上下がることは出来ないだろう。しかし目を懲らすとその先にはクレーンから垂れ下がったワイヤーが見えた。<エグゼキューター>にむきなおし言い放つ。


「いや、それはこっちの台詞だ」

「総司流の強がりだろ!?」

「なら来てみろよ! 怖いのか?」

「言いやがる!」


 総司の挑発とも取れる台詞に<エグゼキューター>も鉄骨の上をゆっくりとすり足で歩きジリジリと距離を詰める。<ルーラー>もそれに比例し少しづつ後ろに下がる。

 鉄骨の上で対峙する2人。地上から溢れんばかりの光が照らし、吹き抜ける風が激しく2人を打つ。


 縮まる両者の距離。<ルーラー>は鉄骨の先端まで既に到達しこれ以上下がれなくなる。<エグゼキューター>の手に持つバスターランスの間合いが近づいてくる……。総司は生唾を飲み込んだ。


「でやっ!」


 十分に距離を詰めた<エグゼキューター>は槍を振り上げ<ルーラー>に向け振り落とす。僅かしか無い足場である<ルーラー>はその攻撃を回避出来ない……筈だった――


「うおおお!」


 総司は雄叫びを上げ体を鉄骨の上から投げ出し、攻撃を回避する。


「!?」


<ルーラー>の自殺行為とも取れる行動に<エグゼキューター>の表情は歪むがその表情は直ぐに焦燥に変わった。


「な!? うお!!!」


 グンと体を引っ張れ、体勢を崩す<エグゼキューター>。落ちる総司のアバター<ルーラー>の手には<エグゼキューター>のたなびくマフラーが握られていた。


「この野郎! 心中か!」


 思わず叫ぶ俊に総司は返す。


「いや! 涅槃に行くのはお前だけだぜ! ヒーロー!!!」


 総司はパッとマフラーを離すと、同時に別の物を握る。それは先ほど目を付けたクレーンから垂れ下がるワイヤーだった。

 ガクンと肩が抜ける衝撃に一瞬顔を歪ませつつ、口角を上げ、落ちていく<エグゼキューター>を見る。


「ぐっ! ちくしょおおおぉぉぉ――……!」


 遠ざかっていく俊の声を聞きながら暫くすると画面上にyou win! の文字が広

 がり、その対戦は終わった。 


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