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VRMMOが日常となった世界で青春物語  作者: 金 銀太
VRMMOが日常となった世界で大切な仲間が出来るまで
33/50

32話:蒼き闘士

(〈ウォーヘッド〉だと!? 馬鹿な早すぎる!?)


 清宮総司の操るアバター――〈ルーラー〉待機所でモニターを凝視する。そこには〈ウォーヘッド〉が〈ヴァルキュリア〉と〈セントール〉の間に割って入る様に立ちふさがる映像が流れていた。


 (まだだいぶ遠くにいたはずだろ!?)


 視線をMAPに移す。さっきまで〈ウォーヘッド〉が居た2区画ほど離れた場所の家屋は崩れ、家屋に大穴を開け強引に道を作っていた確認が取れた。


 (あの野郎……スキル技で壁ぶち破ってきやがったのか……!)


 想定外の事態に総司の表情に焦燥の色が浮かぶ。


 (……どうして分かった? どうして〈セントール〉がヤバイ事が分かったんだ!? 簡易MAPじゃ味方の状況なんて分からない筈だろ!? あんな強力なスキル技使って、味方を巻き込むかも知れないって言うのに、どうしてそんな賭けに出れた!?)


 心臓の動機が早くなる。


 理解できない事象に乱れる思考。仮定と原因を探る為加速しだす脳のリソースを無理やり抑え、深呼吸する。


 (落ち着け……〈ウォーヘッド〉がどうして現れたなんて今になってはどうでもいい。確かに想定とは違うが形が変わっただけだ……こちらが有利なのはまだ変わらない……)


 総司は視線を〈セントール〉に移す。


 〈セントール〉の先程の攻撃は強烈だった。しかし同時にその代償も大きかった。破壊された家屋の瓦礫は雪崩となって〈セントール〉を襲いその胴体部分を埋め尽くしていたのだ。


 今の〈セントール〉は瓦礫から這い上がるまでは身動き出来ない状況にあった。つまり実質戦闘不能の状況までは追い込んでいるのだ。ゲーム部が対アミックス・テラ用に構築した3対1の形は崩れていないのである。


 (〈ウォーヘッド〉用の戦術だって用意してある……大丈夫だ……信じろ……)


 総司は再びモニターを凝視しだした。



 ※



 太陽の光を反射し群青に輝く装甲を身に纏う、手には何の武器を持たない人型のアバター〈ウォーヘッド〉を操る男――桜木進は自身の後方に目をやる。

 そこには瓦礫に埋まった〈セントール〉が力なく項垂れている姿が目に入った。


 (航が大声を出すとはな……やはり相当に悪い状況だったか)


 妙な予感はしていた。


 中央の広場に集まった時に既にゲーム部がいたこと。追撃していた自分を巧みに振り切った〈猫丸〉の存在。そして〈スパルカ〉の撃破報告……最初は女に現を抜かしていた隙でも突かれたかと思っていたが、今こうして〈セントール〉が追いつめられていた所を見ると、その考えは甘いものだったと思い知らされる。


 最早この対戦は引き抜き用の宣伝動画としての価値を完全に失っていた。100戦練磨の味方は倒れ、一方で相手は無傷なのである、当然だ。


 問題はそれだけに留まらない。


 仮にこの戦いに負ければ、アミックス・テラのギルドランクはゲーム部と交換される形で13位になるだろう。そうなれば求心力は失われ。アミックス・テラが抱き続けている”夢”は泡沫(うたかた)の如く消え去る。


 〈ウォーヘッド〉――桜木にとって今、このギルド戦は自身のギルドの進退を賭けた物へと変わってしまっていた。


「……」


 〈ウォーヘッド〉は無言で腕を組み〈セントール〉を見つめる。


 〈セントール〉はその姿を見ると詫びるような表情で口を開くが――


「言うな航、俺の責任だ。後は俺がやる」


 簡潔に言い切り、体を正面に向ける。〈セントール〉はガクリと肩を落としたが言葉は聞こえてこなかった。

 この状況を招いたのは、不利な地形に〈セントール〉を出した紛れも無く自分の判断ミスだ。ならその尻拭いは自分が取らなければならない。


 正面に体を移した〈ウォーヘッド〉の視線の先には〈猫丸〉と〈ヴァルキュリア〉が並んで立ち、〈ウォーヘッド〉をジッと見つめていた。


 〈ウォーヘッド〉は2人に言葉を投げかける事も無く構える。それに応じる形でその2人も構えようとするが――それよりも早く〈ウォーヘッド〉は動いた。


 地面を蹴り上げ鋭く跳躍、2人にかかと落としを仕掛ける。


 割れる形で回避する2人。その合間を〈ウォーヘッド〉が粉砕する。


「……グッ!」


 破砕され、飛び散る石畳にくぐもった呻き声を挙げながらも〈ヴァルキュリア〉はスラスターを展開、その場を離脱しようと出力を上げる。


「行かせるか!」


 加速しきる前の〈ヴァルキュリア〉へ〈ウォーヘッド〉は、追撃の回し蹴りを放とうとするが、視界の端から短剣が迫るのが見え攻撃を中断、手の甲の装甲で防ぐ。


 視線をそちらに向けると〈猫丸〉が短剣をじりじりと押し付けていた。〈ウォーヘッド〉は離脱する〈ヴァルキュリア〉を横目に言う。


「お前たちだけではあるまい? 恵美はどこだ?」

「答えるつもりはありません……ッ!」

「だろうな」


 〈ウォーヘッド〉は短剣を弾き、空いた腕で拳を放つ。

 〈猫丸〉は体を後ろに反らすことで回避、そのままバク転で距離を取る。


「貴方の相手は私です!!!」


「お前に俺が受けきれるか?」


 〈ウォーヘッド〉は言うなり、地面を踏み込み一気に距離を詰め、右フックを放つ。

 〈猫丸〉はそれをしゃがんで回避、屈ませた足に力をこめ、短剣を手に持ったまま下から上へ切り上げる。

 〈ウォーヘッド〉は後方に身をそらしそれを回避するが、装甲の表面を剣先が掠め、僅かに赤い火花が散る。反らした体を利用し頭突きを放つも、〈猫丸〉は片足を軸に体を傾け回避する。


 〈ウォーヘッド〉は間髪入れずに両の拳を連続して放つ。〈猫丸〉はそれを逸らす、傾く、屈む、バク転とありとあらゆる方法で回避しきり、距離を取り直した。


 〈ウォーヘッド〉は追撃を辞め、腕を組み〈猫丸〉を黙して見つめた。


 (……本当にレベル”38”なのか?)


 視線の先には〈猫丸〉のレベル――38があった。しかしそれは桜木にとってとても信じられなかった。もし仮にレベル相応のアバターなら、今の一連の攻めで2回は倒せている確信が彼にはあった。

 けれども目の前のアバターは倒されるどころか、自身の攻撃を回避しきりカウンターまで仕掛けてきている。〈猫丸〉の回避技量と身のこなしはレベル相応のそれを完全に超えていた。


 (何かのスキルか……いや、ただ単に空間認識能力がずば抜けているのか?)


 不可解なほどに高い能力に桜木は対策を考えようとするが、その考えを止め構える。

 相手の能力を探求している場合では無い。いずれにせよ、今の自分に出来る事は、ただ相手の回避能力を上回る攻撃を放ち、相手を打ち砕く事のみなのだから。


 〈ウォーヘッド〉は姿勢を低くし、地面を蹴り〈猫丸〉に向かう。


 左右の軽いジャブ――避けられる、だがこれは牽制。流れる様に腕を引き絞り連続して拳を放つ。マシンガンのように放たれる拳に、さしもの〈猫丸〉も防戦一方になるも致命的な一撃は受け流しきり、ギリギリのラインで踏みとどまる。


 続けて拳を放とうとする〈ウォーヘッド〉だったが、微かに足元が震えるのを感じ取り攻撃を中断。〈猫丸〉と距離を取る。

 その振動はどんどんと大きくなり同時にスラスターの轟音も響きだした。


 (立花か)


 町の一角に視線を向けると、ゴウッ! と音を響かせ、青白い噴射炎を身に纏いながら〈ヴァルキュリア〉が突撃してくる。

 桜木の意識は〈ヴァルキュリア〉に集中する。グングンと縮まる両者の距離、後数秒で衝突するその瞬間――


 ヒュン


 風を切る音と共に短剣が〈ウォーヘッド〉へ投擲される。

 反射的にそれをガードする〈ウォーヘッド〉だったが、それは罠だった。


 ガアァン!


 鉄と鉄がぶつかる音が響き〈ウォーヘッド〉の脇腹に槍がぶつかる。〈ウォーヘッド〉は瞬時に体をそらし、槍を受け流すが装甲の一部が弾き飛び、ライフゲージが2割ほど削られる。


「グッ……!」


 姿勢を崩す〈ウォーヘッド〉に〈猫丸〉が追撃を仕掛けてくる。それを飛びのいて回避する〈ウォーヘッド〉。息を僅かに荒げると同時に直感的に理解する。


 これにやられたのだ。

 

 和人の〈スパルカ〉も航の〈セントール〉もこの戦術に追いつめられ膝をついたのだ。


 目の前には短剣を拾いなおし構える〈猫丸〉の姿が映る。〈ヴァルキュリア〉はとうの昔にこの場を離脱していた。

 〈ウォーヘッド〉は立ち上がり、姿勢を正す。


 (……出し惜しみをしている場合ではないな)


 出来る事なら相手の戦力を完全に把握してから使いたかったが、四の五の言っている状況では無くなった。


 桜木は目を閉じ静かに呼吸を整える。それはアバターにも反映され〈ウォーヘッド〉の赤紫に光るカメラアイは光量が下がり、僅かな音すら漏らさなくなる。

 〈猫丸〉と〈ウォーヘッド〉の合間に静寂が満たす。だが、それは直ぐに終わりを告げた。

 〈ウォーヘッド〉のカメラアイが激しく煌くき、同時に腕を前にクロスさせ叫ぶ。


「【最大稼働(マキシマムドライブ)】!!!」


 気迫を込め叫ばれたスキル名が轟くと〈ウォーヘッド〉の各部に格納されていたスラスターが露出していく。それは両肩、背中、肘、踵と全身に存在し一気にアバターのシルエットを変貌させた。


 それらは〈ヴァルキュリア〉のように移動の為に用いられる物ではない、自身の瞬発力を極限まで高める事のみを目的とするために存在するものだった。

 このスキルを使う事――それはすなわち〈ウォーヘッド〉の高速格闘形態への変形を意味していた。


「行くぞ……ッ!」


 強く踏み込み〈ウォーヘッド〉は跳躍、空中にその身を置く。両肩のスラスターを吹かし姿勢制御、グルリと体を捻り上げ〈猫丸〉の頭上を取り足を振り上げる。


「でやぁ!」


 振り上げた踵から白い光が広がり猛スピードで〈猫丸〉に向かい叩き落される。


 〈猫丸〉はそれを後方に跳躍する事で回避するも、その踵落としの凄まじい威力に、石畳は粉砕され弾丸の様に〈猫丸〉を襲いライフゲージが1割ほど削られる。


「あぐっ……」


 〈猫丸〉は衝撃に揺さぶられながらも何とか体勢を崩さず着地。砂埃に姿が見えない〈ウォーヘッド〉に備え構える。

 一瞬砂埃の中で何かが光る。〈ウォーヘッド〉が爆発的な加速で一瞬の内に〈猫丸〉との間合いを詰め、加速された連撃を放つ。


 右ストレート、左アッパー、蹴り、踵落としと怒涛の打撃が〈猫丸〉に襲い掛かる。

 〈猫丸〉はそれをギリギリの線で避け続けていたが、次第に姿勢が崩れ、地から足が離れ始める。それを〈ウォーヘッド〉は見逃さなかった。


 ブオン!


 〈ウォーヘッド〉の右肘が一際に輝くと、限界まで加速された拳が〈猫丸〉の胴に直撃する。


「――ッ!」


 呻き声すら上がらない強烈な一撃に、宙に浮く〈猫丸〉は地面と水平に吹き飛ばされていく。

 〈猫丸〉はそのまま地面に、自身の体を擦り付ける様に激突するかと思われたが、間一髪の所で受け身を取り、衝撃を殺すように体を跳ね上げ、その勢いを利用し民家に飛び込み隠れた。


 〈ウォーヘッド〉は追撃せず腕を組み佇む。


「いいのか? お前の役目は立花が来るまで俺を足止めする事だろう?」


 〈猫丸〉が隠れた民家に問いかける。もちろん返事など期待はしていないし、相手もする気などさらさら無いだろう。ただの挑発だ。


 少しの合間、戦闘が中断される。


 〈ウォーヘッド〉は構えなおした。


 ガシャン! 突如として目の前の窓が割れ何かが飛び出してくる。〈猫丸〉だ。

 〈猫丸〉は宙に飛び散ったガラス片を短剣で叩き、〈ウォーヘッド〉に向けて高速で放つ。

 〈ウォーヘッド〉はそれを腕をクロスさせ防ぐ。〈猫丸〉は僅かに作られたその隙を利用し、短剣を構え〈ウォーヘッド〉に一直線に向かっていく。


 しかし、それは罠だった。


 〈ウォーヘッド〉は瞬時にクロスを解き。〈猫丸〉の刺突を体を反らす事で回避。勢いが殺されず真っ直ぐ進む〈猫丸〉の首を右腕で掴み上げ、宙に持ち上げる。


「ぐぐっ……」


 苦しそうに呻き声を挙げる〈猫丸〉。呼吸が阻害されたことによるスリップダメージにそのライフゲージはじわりじわりと減っていく。


 地面が震え始める。


 〈ウォーヘッド〉は〈猫丸〉を宙に持ち上げながら、自身の後方を一瞥する。だんだんと振動が大きくなり、轟音が響き始め、角から〈ヴァルキュリア〉が飛び出す。


 2人が視界に入った〈ヴァルキュリア〉は〈猫丸〉の形勢不利を悟ったのか、スラスターを最大出力まであげ、猛加速させたまま、〈ウォーヘッド〉に突進する。

 自身に向かってくる鉄のアバター……だが、〈ウォーヘッド〉はそれを気にする事なく視線を〈猫丸〉に戻す。


 縮まる両者の距離。〈ヴァルキュリア〉の槍の先端が〈ウォーヘッド〉を捉えるその瞬間、〈ウォーヘッド〉は〈猫丸〉を壁に叩き投げ、両肩のスラスターを全開にし、高速でその場をターン。〈ヴァルキュリア〉の側面を取り――


「でぃぃぃやっ!!」


 気迫の籠った掛け声を上げ、肘から爆炎を放ち渾身の鉄拳を〈ヴァルキュリア〉に叩きこむ。

 まるで巨大なハンマーに叩かれたかのように〈ヴァルキュリア〉はバランスを崩し、壁に激突。ガラガラと壁を削りながら停止する。

 最大限まで加速した状態で壁に激突したのだ、仮想世界とは言えその衝撃は計り知れない。


「う……あ……」


 朦朧とする呻き声が〈ヴァルキュリア〉から上がる。

 彼女が抵抗する力を失っていたのはもはや明白だった。だが、無情にも〈ウォーヘッド 〉は追撃を仕掛る為駆け、倒れこむそのアバターに拳を振り上げる。

 だが、腰に何かがしがみつきそれを防いだ。〈ウォーヘッド〉はそれに目をやる。


「やらせない……ッ!」


 そこには〈猫丸〉がしがみついていた。


 〈ウォーヘッド〉との続く戦闘の末。〈猫丸〉のライフゲージは残り2割ほどしかなかったが、〈ウォーヘッド〉を見つめるその金色の目は強く、光り輝いていた。


「行って!!! ユリカちゃん!!!」


 〈猫丸〉が叫ぶと、〈ヴァルキュリア〉はよろよろと立ち上がる。

 攻撃を受けた衝撃で片側1基のスラスターからは黒煙があがり火花が散り、ひしゃげていたが〈ヴァルキュリア〉はそれをパージし、その場を離脱する。


 〈ウォーヘッド〉は視線を〈猫丸〉に移す。


「大した気概だな……だが、それももう終わりだ」


 しがみつく〈猫丸〉を弾き飛ばし地面に叩きつける。足元に投げ出された彼女に〈ウォーヘッド〉は拳を振り上げ――そして振り下ろした。


 石を砕く轟音が響き、土を交えた破片が撒き上がる。〈猫丸〉の命運は遂に尽きたと思われたが……。


 舞い上がった土と破片が収まるとそこに〈猫丸〉の姿は無かった。〈ウォーヘッド〉は立ち直し、自身から”離れた”位置に立つ〈猫丸〉を見る。


「【ライト・ウェイ】か……」


 呟く〈ウォーヘッド〉に〈猫丸〉は返事をせず息を荒げるのみだった。


 【ライト・ウェイ】――補助魔法の一つで速度のステータスに補正が掛るbuff魔法だ。効果時間は20秒足らずだが、その間アバターの速度は大きく上昇する。

 〈猫丸〉は〈ウォーヘッド〉の一撃を受ける前にその魔法を受け、その場を飛びのき攻撃を回避したのだろう。


 〈ウォーヘッド〉は周囲を見回す。


 理由は単純である。この補助魔法を使ったであろうアバター、恵美絵里の〈マリボール〉を探すためだ。補助魔法は対象のアバターを視界に入れなければ発動できない、ならこの場にある家屋のどれかに〈マリボール〉がいる筈である。


 しかし、どれだけ周囲を見渡しても影の一つや気配の一つすら感じられなかった。


 (ここまで徹底的に姿を見せないとはな……この場所は奴等にとってのキルゾーンという訳か……)


 〈ウォーヘッド〉は〈猫丸〉に視線を戻す。

 同時に〈猫丸〉は短剣を構え、〈ウォーヘッド〉に向かい走り始める。

 〈猫丸〉は〈ウォーヘッド〉の間合いに入る前に短剣を投擲。〈ウォーヘッド〉はそれを体を後方に逸らし回避。〈猫丸〉は同時に地面を強く踏み込む。

 

 目標に当たらずそのまま飛翔を続ける短剣に”追いつき”。それを掴むと〈ウォーヘッド〉に刺突を放つ。


「チッ……!」


 〈ウォーヘッド〉は自身に迫る短剣を手の甲の装甲で間一髪防ぐも、〈猫丸〉の追撃は更に続く。


 短剣を瞬時に構えなおし横薙ぎの2連撃。〈ウォーヘッド〉はそれを肘のスラスターを加速させ弾くもその隙を利用し〈猫丸〉は間合いを詰め掌底を放つ。

 〈ウォーヘッド〉はそれを腹の装甲で受け、ダメージにはならなかったが、僅かにバランスを崩す。

 〈猫丸〉はその隙に、短剣を逆手に持ち直し、下から上に切り上げた。


 ガギイィン!と鉄と鉄が激しくぶつかり合う音甲高い音が響く。〈ウォーヘッド〉は肩のスラスターを僅かに噴射し、直撃を避けはしたものの装甲に大きく傷がついた。


 〈ウォーヘッド〉は反撃の蹴りを放つ、〈猫丸〉はそれを受ける前に後方に跳躍。蹴りの衝撃を最小限に留め、その勢い利用しバク転、距離を取ったかと思うと一瞬で距離を詰め直し、攻撃を再開する。


 2人のアバターの戦いはその後も続く。両者とも致命的な一撃は受けておらず、戦況は互角……一進一退の攻防に見えたが、実際はそうでは無かった。


 桜木は視線を右端に移す。そこには〈ウォーヘッド〉のスキルゲージが表示されているが、既にそれは半分を切ろうとしていた。


 (マズいな……)


 視線を自身に向かっている短剣に戻しながら桜木はそう考えた。


 〈ウォーヘッド〉が現在使っているスキル――【最大稼働(マキシマムドライブ)】はスキルゲージを大きく消費する。戦闘が長期化すればするほど、スラスター噴射分による消費分が時間経過分によるスキルゲージ回復量を上回るのだ。


 一方で〈猫丸〉に掛っている【ライト・ウェイ】はスキルゲージの消費はそこまで重くない上、戦闘が始まってから直ぐに使われなかった事を考えると、温存していたのだろう。


 このままでは、いずれこちらが息切れする……。


 密閉された空間から、じわりじわりと空気が抜かれていくような焦燥が桜木を襲う。さらに追い打ちをかける様に地面が震え始めた――〈ヴァルキュリア〉が来る合図だ。


 〈ウォーヘッド〉は後方を確認する。一角から飛び出した〈ヴァルキュリア〉はスラスターが6基から4基に減っていたからか、速度は今までより遅くなっていた。

 しかし次の瞬間、青白い放射炎が一際に輝き、通路を埋め尽くすほど広がると〈ヴァルキュリア〉は爆音と共に急加速。周囲の家屋の窓ガラスを粉々に砕き、音を置き去りにする程のスピードで、こちらに突っ込んでくる。


 (奴にも【ライト・ウェイ】が掛ったか!)


 槍の射線から外れる為に跳躍を試みるが〈猫丸〉は攻撃の手をより一層激しくし、それを許さない。


 瞬き一つの合間に縮まる両者の距離。〈ウォーヘッド〉は避けきれない事を察し。背中のスラスターを最大限に吹かし強引に体を捻り上げる。


 何かが弾ける音共に〈ヴァルキュリア〉の槍が背に突き刺さる。体を反らしていたことで、その槍が胴を貫くことは無かったが、それでも背部にあるスラスターは吹き飛び〈ウォーヘッド〉は膝を着いた。

 そこに容赦なく〈猫丸〉の追撃が開始される。〈ウォーヘッド〉は直ぐに体勢を整えそれに応えるが、スラスターの破損により〈ウォーヘッド〉は防戦一方に追いつめられる。


 スキルゲージの消耗、スラスターの破損、敵の波状攻撃……。

 

 ありとあらゆる要素が降りかかり、戦況は加速度的に悪くなる。普通なら逆転の目は無いと考え闘志も萎え始める者も出るほどの状況だったが――


 (舐めるな……ッ! 勝つのは俺だ!)


 それでも桜木は勝利への可能性を諦めない。幾度となく修羅場を潜ってきた彼にとっては、敗北への恐怖程度ではその心の火は消えなかった。


 桜木は探す。この状況を生み出したものを――〈マリボール〉の姿を。


 (15、16――)


 無意識の内に続けられていた〈猫丸〉のライト・ウェイの効果時間のカウント。これが20になる時、魔法を掛け直す為に隠れている〈マリボール〉は姿を現す。


 桜木は〈ウォーヘッド〉を通じて〈猫丸〉の攻撃を防ぎつつ思考を加速させる。

 目まぐるしく位置が変わる〈猫丸〉、そして〈ヴァルキュリア〉のbuffが掛った位置……その全てを共通して視界に入る場所の候補地を絞り上げる。


 (18、19――)


 候補地の一つ一つに視線を移すそして――


 (20――捉えたぞ!!!)


 前方、2つ目の曲がり角、左の窓から僅かに赤い魔法のエフェクトが視界に入る。


 同じタイミングで〈猫丸〉の短剣が、〈ウォーヘッド〉の装甲の無い脇腹に向かうが、〈ウォーヘッド〉はそれを避けずに受け止めた。

 攻撃が入ったことへの驚愕で、顔を歪める〈猫丸〉を〈ウォーヘッド〉は太陽を背に見下ろす。その両腕には白いエネルギーが竜巻のように渦巻いていた――


「【応龍嵐爪】!!!」


 〈猫丸〉に向け〈ウォーヘッド〉の全力の一撃が放たれる。〈猫丸〉は短剣を手放し急いでその場を飛びのいた。


 それでいい。


 〈ウォーヘッド〉から放たれた強大なエネルギーの渦は地面を穿ち、その場の全てを吹き飛ばす破壊の嵐となる。崩壊していく家屋、舞い上がる石畳と砂が爆発のように周囲に拡散し、煙幕のようにその一帯の視界を埋め尽くした。


 その中から一つの人影が、飛び出す。それは群青の装甲を持つアバター――〈ウォーヘッド〉だった。肘と両肩のスラスターを全開にし弾丸のように〈マリボール〉の潜む家屋の壁に突撃する。


 轟音と共に家屋に突入する〈ウォーヘッド〉。


 壁に追突したことによるダメージ、ひしゃげる肩のスラスター、尽きるスキルゲージ……。だが、そんな事など最早桜木にとってはどうでもいい事だった。なぜなら――


 その視界の先には怯えた表情を浮かべ、立ち尽くす〈マリボール〉の姿が見えたのだから。


「取ったぞ!!!」


 〈マリボール〉に向かい腕を振り上げ、体ごとぶつかりに行くつもりで全力の一撃を放つ――


「ああああああ!!!」


 突如腕に何かがしがみついてくる。重さで体勢が崩れ攻撃が中断される。


「……!?」


 咄嗟に腕を見る〈ウォーヘッド〉。


 そこに居たのはクリーム色の髪と猫耳を持つアバター――〈猫丸〉だった。


 (馬鹿な!? 視界ゼロの状況で俺を追って来ただと!?)


 驚く桜木。〈猫丸〉は華奢な体をフルに使い〈ウォーヘッド〉を全力で止めに掛る。


「……ッ!!! 本当に邪魔だな!!! 貴様は!!!」


 声を荒げ〈猫丸〉を振り払おうと、もう片方の腕で拳を放とうとするが――


「うわあああ!!!」


 〈マリボール〉がその腕にしがみついてくる。そのアバターの表情は恐怖に震え、目を赤くしていたが、それでも自分に出来るであろう全力を出して〈ウォーヘッド〉の動きを止める。


 2人のアバターのその捨て身とも言える行動からは尋常ではない気迫が感じられた。


(なんなんだ……こいつら!?)

  

 たかだか1か月にも満たない関係なのに、一体何がここまでさせるんだ!?


「クソが!!!」


 2人のアバターを振り払おうとする〈ウォーヘッド〉。だが、2人のアバターはそれに怯むことなくを渾身の力を込めしがみつきそして叫んだ――


「「ユリカちゃん!!!」」


 その声に応えるように舞い上がっていた白塵を切り裂き、鋼鉄の姫が――〈ヴァルキュリア〉が現れる。


「【ドリル・ランス】!!!」


 高速で回転する槍が白塵を跳ね飛ばし、一直線に〈ウォーヘッド〉へ迫る。

 〈ウォーヘッド〉は回避しようと体を動かそうとするが、〈猫丸〉と〈マリボール〉。2人のアバターが全力でそれを止めに掛る。


 (やられる!?)


 驚愕と共に全てが終わった事を桜木は悟る。

 あと数秒後と経たないうちにその槍は〈ウォーヘッド〉のライフゲージをゼロにするだろう、スキルゲージが尽き、抵抗の手段を失った桜木はそれをただ見る事しか出来なかった。



 しかし、それはなされなかった。



 突如として三日月型の閃光が目前を走り――〈ヴァルキュリア〉を切り裂く。片側のスラスターが爆散し、左右のバランスを失った鉄のアバターは急旋回し墜落。激闘の末に撒き散らされた瓦礫を掻き分け、埋まる様に止まった。


「ぐっ……あ……」


 倒れこんだ〈ヴァルキュリア〉から呻き声が上がる。

 突然一転した状況に、その場にいた人間は何が起きたか分からず、驚愕に固まる――ただ一人を除いて。


「……輝」


 それは桜木だった。彼は三日月型の光波が飛んできた場所に、視線を向ける。

 じゃりじゃりと瓦礫を踏み分けて、人型のアバターが姿を現した。そのアバター人型で、近未来的な印象を受けるダークグレーのライトアーマーに身を包み。腕の先には手の甲全体を隠す程のアーマーに覆われた大きな柄を持ち、その先からチリチリと青白い光の粒子が散っていた。


 見間違う筈が無い……そのアバターはアミックス・テラのメンバーであり桜木の後輩、田口輝人のアバター――〈ガング〉だった。


 〈ウォーヘッド〉は愕然とする〈猫丸〉と〈マリボール〉弾き飛ばし。その場を跳躍、〈ガング〉の元に着地する。


 佇む〈ガング〉の耳元で〈ウォーヘッド〉は言う。


「……どういう事だ?」

「僕が勝手にやったことです、」

「理由を聞いている」


 咎めるように言う。3対3と事前に打ち合わせている以上、〈ガング〉が途中で参戦するのは明確なルール違反だからだ。


「……理由なら用意してあります」


〈ガング〉は間を置き答える。桜木はそれに眉をひそめる。


「歪な根拠を並べた所で人間は納得しない」

「それでも、負けるよりはマシです」

「ただ勝てば良いというものではない!」


 強く言う桜木に淡々と輝人は答える。


「『俺たちの国を作る』そうでしょう?」

「……ッ!」


 輝人の言葉に桜木は押し黙った。『俺たちの国を作る』それはアミックス・テラが抱く唯一の目標だった。


 ”国を作る”などと大それた事を言ったが、大したことをするわけでは無い。ただこの学校のサーバーに領地を持って、そこを自分たちの望むように発展させていく……。ただそれだけの事である。


 最初はただの冗談から始まった話だった。日常の雑談から偶然話題に出た”自分達が領地を持ったら何をする?” という何気ない会話からだ。

 だが、その何気なく、冗談の域を出なかった筈の会話は、次第に熱を帯び、話していた人間を夢中にさせ、そしてそれはいつしか彼等にとって”夢”となっていた。


 元は敵で、何度も戦った赤井和人(あかい かずと)


 口下手で実力があったにも関わらず、前のギルドに馴染めずにいた山中航(やまなか こう)


 自分を慕い尊敬してくれた後輩、田口輝人(たぐち てるひと)


 そんな3人と桜木が中心としてその”夢”をかなえる為に作ったギルドが友の国(アミックス・テラ)だったのだ。


 桜木は全てを察する。今目の前で立つ人間――田口輝人は、そんな夢を終わらせない為に汚名を被り、戦いに介入したのだと。


俺はなんて愚かなんだ......


もっと練習するべきだった。


もっと研究するべきだった。


もっと警戒するべきだった。


そしてーー


もっとゲーム部の事を知るべきだった。


桜木に後悔と懺悔の念が体の奥底から湧き出る。

相手を侮り、慢心した自分のツケを後輩にーー大事な仲間に背負わせてしまった。


「……すまない」


 掠れるような声で桜木は小さく言うと〈ガング〉は無言で頷く。そしてゲーム部のアバターに向かい歩き始めた。


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