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VRMMOが日常となった世界で青春物語  作者: 金 銀太
VRMMOが日常となった世界で大切な仲間が出来るまで
29/50

28話:3対1始まる


 淡い黄色の壁に挟まれた通路。左右にそり立つ壁の間から見る青空は狭く、まるで谷底のようなその場所で、石畳の床を打ち鳴らしながら3人のアバターが中央に向かい走っていた。


「はぁ~……」


 その内の1人、小柄な体躯に鉄製の鎧と巨大な丸盾、幅広の剣を装備したアバター〈スパルカ〉が大きくため息をつくとぼやき始める。


「今頃クソ窮屈なパイプ椅子にむさい男共がアホ面かましておねんねしてるのかと思うとテンションが下がるぜ~……責めてあのかわいこちゃんたちが隣に座ってたらテンション上がんだけどよ~……」


 そんなアバターを群青の装甲に身を包む人型のアバター〈ウォーヘッド〉が横目で見るも、特に反応はしなかった。


 〈スパルカ〉を操る赤井がこうやってぐちぐちという事など特に珍しい事でもない、見慣れた風景だからだ。赤井は誰に言う訳でもなく独り言を続ける。


「第一なんだよあの没個性を絵にかいたようなナヨっとした男はよ……確か名前は~……忘れたからどうでもいいか。あいつに比べたらうちの後輩の方がまだ個性的だぜ――っと! あぶねぇな!」


 町の一角を曲がる途中〈スパルカ〉の足元に石が弾け飛んだ。


「おい! 航! 気を付けろよ!」


 非難する為、後ろを走る人馬が一体となった山中航が操るアバター〈セントール〉を見る。〈セントール〉が持っていたハルバートが方向転換の際に壁を削り、その破片が散らばったためだ。


「……すまない」


 彼は低く唸るよな声で謝ると〈スパルカ〉はバツの悪い表情を浮かべ手をヒラヒラと振る。


「あ~……いいよ、そこまで気にすんな」


 山中が口に出して話す時は大抵本気で気にしている時だ。彼は兎に角責任感のある男だった。

 桜木は後ろを走る〈セントール〉を見ると僅かに眉をひそめる。


 (このステージだと航は動き辛いだろうな)


 桜木がこう思うのも無理は無かった。〈セントール〉の体躯はかなりの大型のアバターで、持ってる得物も3mを超える。この迷路都市ステージだと、道幅は様々だが平均して2mほどでしかなく、このアバターにとっては窮屈な物だった。


 (やはり輝を出すべきだったか――いやそうでもないか)


 桜木は頭の中に浮かんだ後悔を即座に否定する。輝人のアバターである〈ガング〉ならこのステージでも特に不利にはならない。だが、仮に〈セントール〉の代わりに彼を出してしまうと最も警戒しなければならないアバターである立花の〈ヴァルキュリア〉に追いつけるアバターが存在しなくなってしまう。必然的に〈セントール〉は絶対に出さなければならない。


 (このステージなら動きにくいのは向こうも同じ。なら条件は互角か……)


 立花のアバターである〈ヴァルキュリア〉も〈セントール〉ほどでは無いが比較的大型のアバターだ、相手もきっとこの狭い通路で普段通りに動く事は出来ないだろう。

 桜木はそう考えながら町の角を先程よりスピードを落として曲がる。今度は〈セントール〉がハルバートを引っ掛ける事も無く、無事曲がれた。


 後は町の中心であり、このステージ唯一の広場までの一直線の道に入る。中央を抑えるのはこのMAPにおけるセオリーだ。全力で3人は駆け広場に躍り出る。

 広場には既に3人の人影が立っていた。桜木は順々にその3人のアバターを見る。


 一人は半獣人型、武装は腰に付けた短剣のみの井口楓のアバター〈猫丸〉


 次に、人型、武器は杖、魔法使い型の恵美絵里のアバター〈マリボール〉


 最後に機械系人型、武器は槍、立花優理香のアバター〈ヴァルキュリア〉


 簡潔に特徴を分析する桜木だが、何処かに違和感を感じる。


 (連中の方が俺たちより早く着いているとはな……)


 それはゲーム部が自分たちより早く着いている事に対する違和感だった。桜木はアバターのレベル差から考え自分たちの方が中央に着くのが早いと踏んでいた。


 だが、ゲーム部は自分たちより早く着いている……。


 (航に合わせ過ぎたか? いや……)


 思考する桜木。

 アバターの性能差を覆すように移動するとなると、相手側に何か未知のスキルが働いている可能性がある。もしくは何か特別な抜け道やショートカットを――


「ねぇ~この戦いが終わったら遊びに行こうよ! 昨日の敵は今日の友とも言うじゃん? お互いの健闘を称えあってゆ~っくり、じ~っくりさ~」


 赤井が猫なで声を上げゲーム部を口説き始めた。


「……」


 思考が中断される。


 ゲーム部のアバターが目に入るなり、ニヤニヤと下品な笑いを浮かべる赤井にゲーム部の3人はジリっと後ずさりし、反転。蜘蛛の子を散らすように広場から続く道にそれぞれバラバラに逃げていく。


「つれないねぇ~。まあ、そっちの方が興奮するけど」


 手を上げへらへらと言う赤井に桜木は小さくため息を突いた。


「……追うぞ」

「いいのか大将? あれきっと罠だぜ? 俺たちを分断させる為の動きだ」

「……この戦いも宣伝として公開する以上、間延びする戦いは避けたい」

「あいさ、じゃあいつも通りチャチャッとやりますか」


 首を鳴らす赤井と黙して佇む山中に、桜木は簡潔な指示を出す。


「航は〈ヴァルキュリア〉を追え、和人は――」


「あ、俺あのおっぱいちゃん追うから!」


 赤井はそう言うなり〈マリボール〉が逃げていった道へ駆けていった。


「……好きにしろ」


 走り去る〈スパルカ〉の背に呟くと航に目をやる。航は頷き〈ヴァルキュリア〉が逃げていった道を追うため走り出す。同時に桜木は〈猫丸〉の逃げていった道へ駆けた。



 ※



 (追ってきたわね……これで作戦の前提は整った……)


 槍を抱え、鋼鉄のドレスに身を包んだアバター〈ヴァルキュリア〉を操る女生徒――立花優理香は自身を追ってくる、馬の下半身と巨人の上半身を持つアバターを一瞥するとそう考えた。


 次はあのアバターを指定された場所まで誘導しなければならない。


 彼女は猛追してくるアバターに焦ることなく駆け足を早め、小さくジャンプ。同時にスラスターを展開し滑空状態に移行する。


 複雑な構造であるこのステージは〈ヴァルキュリア〉にとって最初は飛び難い物だったが、この1週間練習を重ねた彼女にとっては、まるで自身の家の庭を飛んでいるかのように飛ぶことが出来た。

 飛行しながら、彼女は〈セントール〉の状況を逐一確認する、大型の人馬は〈ヴァルキュリア〉を追うため全力で駆けているようだが、時々石を砕く派手な音を響かせていた。


 彼女は相手と距離を離さない為、違和感を感じさせない程度に速度を緩め飛行する。町の一角を曲がる際は自身もこのステージに慣れてないかのように槍を壁に掠めさせ、スラスターを減速させたり、直線になったら急加速させるなどして追いつめられている自分を演出した。


 そうして2人はこの広大なMAPの端まで到達する。〈ヴァルキュリア〉は迷宮の終わりである壁を背に足を止め、〈セントール〉の方に振り返った。


 〈セントール〉は持っていたハルバートを縦に構える。〈ヴァルキュリア〉はそれを見るとフェイスマスクを降ろし、そして叫んだ。


「【ドリル・ランス】!」


 けたたましい金属音が鳴り響き高速回転する槍、〈ヴァルキュリア〉はそのままスラスターを全開にし〈セントール〉に迫る。


 〈セントール〉はより一層構えを堅くしそれに備える。


 鋼鉄の巨槍と化したそのアバターはそのまま〈セントール〉に直進し、このまま突撃する……そう思われた直後――


 ブオン!


 〈ヴァルキュリア〉は左右のスラスターの出力を操作。自身の推力ベクトルを〈セントール〉では無く壁に向ける。


 槍が壁にあたると同時に、岩盤を砕くような重低音が響き、白い石片が撒き散らされ、粉塵で視界が効かなくなる。


 〈セントール〉は咄嗟に体をハルバートで隠し、〈ヴァルキュリア〉の次の一手に備える。これは目くらまし、本命は次にある……そう思っての行動だろう。


 だが、いつまで経っても〈ヴァルキュリア〉が突撃してくる気配はない。撒き散らされた石塵が落ち着き視界がクリアになると――そこに〈ヴァルキュリア〉の姿は無かった。



 ※



「待ってよ~」


〈スパルカ〉は〈マリボール〉を追い、町の一画を走っていた。

 しかし、2人の距離はなかなか縮まることは無い。〈スパルカ〉もどかどかと石畳を打ち鳴らしながら懸命に走り、〈マリボール〉との距離を縮めに入っていたが、簡易MAPを確認するため目を離した僅かな合間に距離が離されていたり、通路に転がる小物に引っ掛かっていたりと色々な要因が重なり中々追いつけずにいた。


「俺ちゃんのアバターあんまり足早くないからさ~もうちょっとゆっくり走ってちょ」


 しかし赤井はそれをストレスにも感じない、彼にとって好みの女性を追いかけまわすのは至福の一時であったからだ。


 町の角を曲がる〈マリボール〉。ニヤつき顔を浮かべながら〈スパルカ〉もそれに続く。


「おっ!」


 〈スパルカ〉が足を止める。その目にはこちらを振り向かず立ち尽くす〈マリボール〉の姿が映った。


「追いかけっこはもうお終いかな~」


 ニヤニヤと笑顔を浮かべながら〈スパルカ〉は〈マリボール〉の背にゆっくりと近づく。


「俺さ~初めて見た時から君の事良いな~って思ってたんだよね~、なんかこう……君には感じるんだよね! 包み込んでくれる優しさとか俺のママになってくれそうな母性っていうか~……主に一部に!」


 近づくたびに〈スパルカ〉の顔は下品に歪んでいく。後、もう少しで〈マリボール〉にその荒い鼻息が掛かるほどの距離に入るというのに彼女は微動だにしなかった。


「グヒヒ! つ~かまえた!」


 遂に〈スパルカ〉は〈マリボール〉を射程に収め、後ろから抱き着くように抱擁を仕掛ける。彼女の豊満なな双丘に手が触れるその瞬間――


 バシュン!


 〈マリボール〉は光の粒子となって消えた。

 〈スパルカ〉はハァ~とため息をつく。


「んだよ【デコイ】か……」


 それは〈マリボール〉の魔法の一つ【デコイ】だった。自身と瓜二つの分身を魔力で作りだし、ターゲットを釣り上げる補助魔法の一種である。


 〈スパルカ〉はがっくりと項垂れつつも気を取り直し探索に入る。【デコイ】の性質上、効果時間はそこまで長くない、なら近くに〈マリボール〉はいる筈だ。


 取り合えず来た道を折り返そうと踵を返すと、地面が小刻みに振動しはじめ、石壁を砕く重低音と噴射音が轟き、こちらに何かが近づいてくる気配があった。


 〈スパルカ〉は特に焦りもせず、音の鳴る方向を見つめる。


 目の前の石壁が砕け散り、粉塵の中から大きな槍を持つドレス姿の女性のシルエットが浮かんだ。


「……なんだよ航の奴逃げられてんのか、めんどくせーな」


 誰に言う訳でもなく愚痴り。シルエットに問いかける。


「で、俺の相手は君かな? 立花さん?」


 粉塵が落ち、その中から鈍い鉄の光を放つアバター――ヴァルキュリアが現れる。〈スパルカ〉はちょっと残念そうな表情を浮かべた。


「君、超美人なんだけど、あんま好みじゃないんだよね~。俺、自分より身長高い子ダメなタイプなんだ」


「……」


 返事も無くただ立ち尽くす〈ヴァルキュリア〉に〈スパルカ〉はため息をつき、盾を構え、右手を剣の柄に当てるとシュタっと自身の後方に何かが降りた気配を感じ、振り返る。


「おいおい、大将まで逃げられてんのかい……」


 呆れる〈スパルカ〉の視線の先には人の体と猫の耳を持つ半獣人型のアバター〈猫丸〉が立っていた。

 〈猫丸〉は〈スパルカ〉に何か言う訳でもなく無言で腰に着いていた短剣を抜く。同時に後ろに立つ〈ヴァルキュリア〉も槍を構えた。〈スパルカ〉はそれを見ると頭を抑える


「なるほどね~俺ちゃんまんまと罠に嵌っちゃた訳か~……だけどさ――」


 〈スパルカ〉は剣を引き抜き天に掲げ、そして振り下ろす。


「2対1程度で勝てると思うなよ」


 ゲーム部とアミックス・テラ――今ここに”3対1”の勝負が始まった。

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