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VRMMOが日常となった世界で青春物語  作者: 金 銀太
VRMMOが日常となった世界で大切な仲間が出来るまで
23/50

22話:本当に必要な勝利

「帰ろうか」


 日も暮れ。明かりもついていない暗くなった部室で、絵里先輩が一言そう呟くとゲーム部の部員たちは荷物を片付け、鞄を持ちそして校門に向かった。

 いつもなら意味の無い会話を和気藹藹と話しながら校門まで向かうゲーム部だったが、その時は誰1人として口を開ける者はいなかった。


 下駄箱を出て、後は校門までの一本道を歩くだけになった時。僅かに残った校舎の光でゲーム部の部員たちの表情が照らされた。

 総司は彼女たちの顔を覗き込む。楓は思い詰めたように暗い表情を浮かべ自分を責める様に目を閉じていた。立花は消沈した表情で普段の様な強気な表情は何処にもなかった。

 そして絵里先輩は――彼女は顔を伏せ、その表情を伺う事は出来なかった。


 総司はそんな彼女たちを見ると、体が熱くそして心が焼かれるようだった。


 (勝てないから楽しいと思い込んでるだと? ふざけやがって……なら勝ってやるよ……)


 総司はポケットからスマートフォンを取り出し、アバターの設定を〈ルーラー〉から〈ベイオネット〉に変える。今から対戦をするわけではない、この行為自体に意味は無い。


 だが、そうしないと心が焼きつくされそうだった。


 総司が無言でスマートフォンを打ち込んでいるとゲーム部は校門に着く。

 いつもならここで別れの挨拶をし絵里先輩と楓は分かれる所だったが、絵里先輩は足を止め振り返った。


 「今日はごめんね皆!」


 彼女は”笑顔”だった。


 「ちょっと上手く行かなかったけど、また明日からも一緒にやろう! あ、そうそう部活動の事だけど安心して! 岡田先生にはまた私から頼んでおくから、だから明日も放課後部室集合で! 楽しい部活動にしよう! おー!」


 拳を上げ、明るい声を響かせる。重く苦しい空気の中でその光景は異様だった。

 彼女は拳を下すとポツリと呟いた。


 「ねぇ皆……ゲーム部は……ゲーム部は楽しい部活動だよね?」


 さっきまでの明るい声とは正反対の――何かに縋るような声で、ゲーム部に問いかける。

 楓は静かに「はい……」と頷いた。立花も同時に無言で頷いている。だが、総司は何もしなかった。「はい」と肯定する事も無ければ、否定する事も無い、頷く事もしなければ、首を横に振る事も無い。ただその場で立ち尽くし……何もしなかった。


 「総司?」


 彼女が総司に近づく。

 総司は彼女の顔を見つめた。

 彼女は笑顔だった。普段通りのいつも通りの笑顔……だが、総司は知っていた。少しでも触れればそれはその場で崩れてしまう程危ういものだという事――


 「……」


 総司は無言で歯を食いしばり拳をあらん限りの力で握る。


 「そ、総司?」


 彼女の笑顔が崩れていく。


 「……」


 だが、答えない。


 「そ、そうじ」


 絵里先輩の目に少しづつ涙が溜まっていく。


 「……」


 総司は答えない――いや正確に言うと答える事が出来なかった。


 ”楽しかったのだ”


 ――1人ではない自分以外に誰かが一緒に戦ってくれる時の安心感。


 ――成功した時、失敗した時に共にそれを喜び、悔しがってくれる仲間。


 ――「明日は皆で何をしようか」と期待に胸を躍らせる日々。

 

その全ては……ゲーム部での出来事は紛れもなく今まで1人だった総司にとって体験した事の無い……楽しく満ち足りた物であった。


 だからこそ出来なかった。本当に楽しかったからこそ、彼女を憐れみ”嘘”でも楽しかったと肯定できる今の状況でそれを答える事がどうしても出来なかったのだ。


 もう自分の心に嘘はつけなかった。


 「う、うぅ……」


 彼女の瞳から涙が零れ落ちそうになる。だが、それよりも早く総司は口を開いた。


 「戦いましょう」


 総司が一言そう言うと、絵里先輩は予想していた物と異なる答えが返ってきたためなのか、ポカーンとした表情になりその場で立ち尽くしていた。


 いや、彼女だけでなく楓と立花もそうだった。


 あっけにとられる3人を尻目に総司は飄々と言葉を重ねる。


 「そうですよ、今思えばあの性悪野郎の言う通りさっさと戦って、俺たちが勝って6位になれば良かっただけの話です。ちょっと平和主義者過ぎましたね」

 「で、でも総司……私達じゃ……」

 「ああ、大丈夫っすよ。俺が適当に作戦考えてくるんで、絵里先輩は今日は何か美味しい物でも食べて寝ててください」

 「え! あ、うん……」

 「じゃ、俺は一足早く帰るんで! さよなら! また明日部室で!」


 その場に立ち尽くす3人に軽く手を上げそう言うと総司は足早にその場を去って行った。


 彼の心から黒い炎は既に消え去っていた。だが、ただ一つもっと輝く強い光が宿った。


 


 

 1人帰路を歩く総司。後ろから声が掛けられる。


 「ちょっと! どういうつもりなの?」


 振り向くと立花が息を切らせ、総司の横に着く。


 「どうするもこうするも戦うつもりだよ」

 「戦うって……本気で言ってるの?」

 「本気だよ。あ、そう言えば相手のギルド名前何だっけ?」


 あっさりと言う総司に、立花はあっけにとられつつ答える。


 「……アミックス・テラよ」

 「あんがと」


 総司は鞄からタブレット端末を取り出し、打ち込み始める。学内のギルドの情報とそのメンバーの情報は学校内のローカルネットで登録されていたからだ。詳しい情報は無いが、クラスランキングとアバター名とレベルくらいなら検索すれば出てきた。


 検索結果が出るまでの間に総司は立花に一つ質問した。


 「そう言えばギルドランクってどうやって決まってんの?」

 「……ワールドモードに領地を持ってるならその広さで順位が決まるわ」

 「ふ~ん……じゃあ持ってないギルドはどうなるんだ?」

 「ギルド戦って言ってギルドの中から特定の人数を選んでチーム戦をするの。それの勝敗によって決まるわ」


 「特定の人数って何人くらい? 対戦ステージとかはどうなってるんだ?」

 「……基本的に対戦人数とステージは挑戦者側が決める事が出来るの。ただ人数に関しては3人以上が原則で相手のギルドより多い人数は選べない仕組みよ」

 「なるほどねじゃあ3対3でも出来るんだ」

 「ええ……そうね」


 平然と問いかけてくる総司に立花はいよいよ怪訝そうな顔になる。総司はため息を突く。


 「なんで皆そうビビってるんだ? 絵里先輩もネガってたし」

 「理由なら前も言ったと思うけどアミックス・テラは元幹部で構成されてるのよ……」

 「元幹部がどうしたってんだ? 精々レベル60後半くらいだろ? 超絶望するような相手でもない」


 レベル60程でもこのゲームにおいては上級者にカテゴライズされる。いくらこの学校の平均レベルが高かろうがレベル70台、80台のプレイヤーなんてそうはいない筈なのだ

 そんな事を考えながらタブレットに検索結果が表示されたので視線をそちらに移す。


 【アミックス・テラ】

 構成人数:4人

 ギルドマスター:桜木 進

 クラス:2年1組

 アバター名:〈ウォーヘッド〉

 レベル:89

 クラス戦順位:1位


 副ギルドマスター:赤井 和人

 クラス:2年3組

 アバター名:〈スパルカ〉

 レベル:86

 クラス戦順位:1位

 

 団員:山中 航

 クラス2年7組

 アバター名:〈セントール〉

 レベル:82

 クラス戦順位:1位


 団員:田口 輝人

 クラス:1年8組

 アバター名:〈ガング〉

 レベル:76

 クラス戦順位:2位


 「……なんだこいつら超ガチ勢じゃねーか!!!」

 「だから言ったでしょう……」


 驚き目を見開く総司に立花は頭を抱えながら呆れた表情を浮かべた。


 「いや……でも……え~???」


 もう一度画面を見つめる総司。

 レベル80以上……これはもうプロゲーマーの一歩手前のハイレベルプレイヤーだ。野球で例えるなら甲子園出場レベルである。そんな奴が4人中3人を占めているのだ驚かない筈はない。


 「……貴方、昨日相手の事調べなかったの?」

 「ああ……そのまあうん……」


 立花の最もな質問に言葉を濁す総司。本当は昨日調べようとした。が、自分がいなくった後のゲーム部のことを意識しているようで、女々しく思えて途中で辞めたのだ。まあ……今になってはどうでもいい話だが。


 「……どうするのよ?」


 立花が深刻そうな顔で尋ねてくる。想定外の事態。総司も深刻な顔になるかと思いきや、この男はあっけらかんと再び言い放つ。


 「戦うつもりだよ?」

 「貴方ね……」

 「そう言ったからな、何とかするさ。さて、どこかに詳しいアバター情報とか乗ってないかな?」


 総司はそう言ってアミックス・テラのギルド情報を探る。だが、何処にもそれらしき情報が無い。


 (情報は無し……当たり前か)


 期待していた訳では無いが落胆する。自分のアバター情報を公開するという事はそれは手の内を晒す事に他ならない。そんな事を進んでやりたがる奴などいない。

 どうやってアバター情報を知ろうか次の一手を考えていると立花がそれを察したのか声を掛けた。


 「アバターの詳しい情報は無いけどバトルビデオならあるわよ」

 「バトルビデオ?」

 「ええ、昨日色々探ってみたんだけど、どうやらアミックス・テラは学内のローカルネットでギルド戦の対戦動画を上げてるみたいなの。パスワードが着いてて一部の人にしか公開してないようだけど、そのパスワードを手に入れたわ」

 「そいつは朗報だな! そんなの何処で手に入れたんだ!?」

 「私も一応トリナシオンの幹部候補だったから……」

 「ああ、なるほどね」


 そのツテか。てか立花ですら幹部”候補”なのか……。総司は静かに驚いた。

 早速立花に教えてもらったパスワードでタブレット上にアミックス・テラの対戦動画の一覧を表示させる。


 「結構あるね」


  ざっと見10数分のチーム戦の対戦動画が数十はある、多分ギルド戦のみでは無く、模擬戦や野良試合なども含まれているのだろう。試しに一つ動画を再生してみた。

 そこにはアミックス・テラのアバター達が敵対するギルドとの対戦……いや、一方的な蹂躙が行われていた。


 「言うだけあるな……」


 画面上で縦横無尽に暴れるアミックス・テラのアバター達を見ながらため息を突くように総司は呟いた。立花も暗い顔になる。


 「正直今回は相手が悪すぎるわ……とても私たちで勝てる相手ではない……」


 いつになく弱気な立花。総司は食い入るように画面を見つめる。


 「何とかするさ……絶対に」

 「無理よ……いくら今回は貴方が本気で戦うと言っても、平均レベルで80以上の相手が最低でも3人よ……どうにかなるレベルじゃない……」


 目を伏せ嘆くように言う立花に総司は驚愕の発言をする。


 「……何言ってるんだ? 俺は戦わないぞ」


 「え?」


 「俺は戦わないよ3対3が出来るんだろ? ならメンバーは絵里先輩と楓さんと立花……君だ」

 「……ッ! 貴方は戦うと言っておきながら、自分は戦わないつもりなの!?」

 「そうだよ」


 平然と答える総司に立花は目を見開き、声を荒げる。


 「そんなの無責任よ!」

 「俺が戦って意味のない戦いに、俺が出る必要なんかない」


 突き放すように言う総司に、立花はその場で足を止め怒りと悲しみが混じった目で見つめる。


 「貴方はそう言う人なのね……見損なったわ……!」


 総司もその場で足を止め、身を震わす彼女を見ると低く、僅かに怒りの色が混じった声で応えた。


 「勘違いするなよ。俺だって戦いたくてうずうずしてるのを抑えてるんだからさ」

 「じゃあなんで!?」

 「俺が戦ったて意味が無いって言ってるだろ!」


 強く言う総司に立花はそれ以上に強く返す。


 「どういう意味よ!」

 「俺が戦えば奴等に勝てるだろうよ……だが、そんな事しても何の解決にもならないって事だ!」

 「勝てるって……本気で言ってるの!?」

 「ああ、勝てるよあのくらいならな、4対1でもやれる。本アカウント使えばな!」


 吐き捨てる様に言う総司。立花は目を赤く腫らし、振り絞るような声を挙げる。


 「じゃあ尚の事貴方が戦えばいいじゃない……貴方が戦って、勝って……そうすれば絵里先輩も楓も……私だって……! 一体何が問題なの……ッ!」


 総司は顔を歪め歯を食いしばる。


 「もし、もしだ、仮に俺がアイツらと戦うなら、俺が単独で行動する事が前提になる。俺の戦闘スタイルには味方との連携は想定されてないからな……。それはつまり、味方を無視するってことだ。居ても居なくても変わらない扱いをする……。そういう戦いをするんだ」


 段々とその声色に熱が帯びてくる。


「そんな戦い方してみろ! 楓さんや絵里先輩に『お前たちなんか必要ない』って言ってる様なもんだ! それで勝ったところでそれは俺が奴らに勝つだけでしかない! そんな勝利に一体何の意味がある!? 楓さんはこのままずっと自分に自信がないまま過ごすことになるだろう! 絵里先輩は延々と桜木の言葉に怯え続けるだろう! そんなのは俺は嫌だ! 俺は、俺はな――」




 「ゲーム部に勝って欲しいんだ……!」




 総司の言葉は声こそ大きなものでは無かったが、それはまさしく心の底から絞り出したような叫びだった。


 2人の間に静寂が包む。


 沈黙は長く続いたが夜風が肌寒く感じられてた頃、先に口を開いたのは総司だった。


 「……ごめん怒鳴ったりして」


 直ぐに消えてしまいそうな掠れてた声で謝ると立花は首を横に振った。


 「ううん……気にしないで、貴方の考えは分かったから……」


 そう言って優しく笑う立花に、総司は急に照れ臭い気持ちになり頭をかいた。


 「その……ありがとうパスワードの事……これで明日までに何とかなりそうだ」

 「明日までに何とかするつもりなの?」


 問いかけてくる立花に総司は真面目な顔になる。


 「ああ、4月末までに時間が無い、作戦を立てるなら出来る限り早い方がいいからな」

 「でも結構動画の数はあるわよ? それを分析して対策を練るなんて時間は足りるの?」

 「徹夜すりゃあいい」

 「……私も協力する」

 「いいよ、1人でもなんとかなる量だし」

 「睡眠不足で立てられて作戦なんてたかが知れてるわよ。それに、視点は1つじゃなくて幾つかあった方がいいわ」


 立花の正論に答えを窮する総司。立花は総司の横に並ぶ。


 「ほら行きましょう、出来る限り早い方が良いんでしょう?」

 「ああ、そうだな――ってちょっと待て!?」

 「え!?、どうかしたの?」

 「協力するって家に来るって事か!? いや流石にそれはマズいでしょ……一つ屋根の下男女2人っきりになって一夜を過ごすなんて危険過ぎる! こういうのは段階ってものが――」


 ドス


 「ウボァ!」


 横腹に立花の鋭い肘うちが刺さる。


 「何言ってるのよ貴方は……ッ! 喫茶店でもレストランでも深夜まで空いてる所はいくらでもあるでしょ! ほら! もう行くわよ!」


 悶絶する総司の手を掴み歩き出す立花。


 (ちょっとした冗談だったのに……)


 総司はそんな彼女に引きずられるようにその場を後にした。


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