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VRMMOが日常となった世界で青春物語  作者: 金 銀太
VRMMOが日常となった世界で大切な仲間が出来るまで
19/50

18話:ひび割れる心

「でよ~昨日【ジェノサイドワーム】狩ったんだけどよ。全員装備ボロボロにされて、修理に出したらここ一週間の儲け全部吹き飛んだんだわ。マジ爆笑だった」

「すっかりクソクエストハンターになってんなゲーム部……」


 ゲーム部の初クエストから1週間ほど経った日の放課後。帰宅準備をしながら話す総司と俊。内容はゲーム部の活動記録のようなものだった。


「いや……それがよ、やってみると結構楽しいもんだぜ。クソクエストでも何か新鮮な感じがして、(たま)にやる分なら全然ありだな」


 そう言い笑う総司に俊は口角を上げうっすらと笑い返す。


「総司、お前が楽しいのはクソクエストだからじゃないぜ?」

「どういう意味?」


 つい意味が分からず問いかける総司。俊はフーッと息を吐き答える。


「そんなもの説明しなくてもお前が一番よく分かってる筈だ」

「……なんだそれ」


 意図がつかめず、悩んでいると背中から声が掛けられる。


「総司君!」


 振り返ると楓と立花がいた。


「私達、購買でちょっとおやつ買っていくから先に部室行っててもらっていい?」

「了解!」

「中田さんと盛り上がりすぎて遅れないでよ」

「おうよ! 今日こそあのガン逃げチキンドラゴンに引導を渡す日だからな! 立花こそ遅れんなよ!」

「分かってるわよ!」

「ふふ……じゃあ部室でね総司君!」


 軽く別れの挨拶を済ませ、足早に教室を出ていく2人を見送る総司。視線を俊に戻すと俊はニヤニヤした表情を浮かべていた。


「……なんだよ」

「いや、随分と仲良くなったな~って思ってさ」

「そりゃあ同じ部の部員と仲良いに越したことはないだろ」

「おっかしいな~俺の知る総司さんはギルドとか嫌がってた筈なんだけどな~」

「……雰囲気が良ければ、その分部員が増えて辞めやすくなるだろ」

「そう言う割にはここ1週間勧誘活動をしてないように見えるけど?」

「そ、それは……」


 言葉に詰まる総司。自分が勧誘活動をしてなかったのは毎日放課後、楓と立花にすぐ誘われるからで――いや……本当はそんな事忘れていた。


「……」


 何か理由を見つけようと考え込み始める総司。俊はため息をつく。


「まあさ、勧誘活動なんかしてもなかなか入ってくれる奴は見つからないだろうし。ここは待ってみても良いんじゃねーの? それまでは参加する事にして、誰か入ったのならその時に辞めたいのなら辞めればいい」


 俊の言葉に誘導されるように出口のない総司の考えは流れる。


「……そうするかな」


「よし! じゃあさっさと行けよ! 遅れると立花に怒られるぞ。あいつ怒ったら怖そうだし」


 そう言いながら手で鬼の角を作る俊に総司はフッと笑い「そうだな」と返すと鞄を掴み、教室を出た。 



 ※



(俊の言う通りだな暫くは部員が集まるのを待ってみてそれまではゲーム部にいよう)


 そう思いながら部室に向かうため気持ち速度をあげて歩く総司。


 早く行かないと皆を待たせたら悪い、それに今日はレッドドラゴン戦なのだ、長丁場になそうだから出来る限り早く着いて準備をした方がその分長くプレイ出来るのだ、急がない理由が――

 だんだんと駆け足気味になっていた足をその場で止める。


「……何やってんだ俺?」


 突然夢の中から醒めるような気分になる。


「なんで……部活に急いで行こうとしてるんだ?」


 体の中がジワっと熱くなる。


 俺は1人(ソロ)プレイヤーだ……誰を気にする事も無く誰に気にされるまでもない、自由に気ままに……自分の望むまま自分の為に戦う……それが俺だ。

 それなのに今の俺はなんだ? なんで部を辞める事をズルズルと先延ばしにした挙句、部活に急ぎ足で向かっているんだ? 辞めたいんだろ? 1人(ソロ)なんだろ? 何してるんだ俺は?


 突如として湧き上がってくる自己矛盾に総司は思考を乱される。


「……」


 最近の自分は何かがおかしい。


 立花と和解した時はゲーム部を辞めたいと思っていたのは事実の筈だ、その時は部活を辞めようとする意思があったのは間違いない。


 だけど段々と日が経つにつれて”辞めたい”と思っていた事すら頭から抜け落ちていた。入部してた時に感じてたゲーム部への嫌悪感や拒否感など今や存在するかどうかすら怪しい。


 俺は何がしたい? 俺が求める物はなんだ?


 目を閉じ、自分自身に問いかける。


 俺が望む物……それは身を焦がすようなギリギリの戦いと自分以外の誰も気にしない自由だ……ゲーム部にそんな物はあるのか? 


 ゲーム部での出来事を思い出す。


 竜の卵を納品するクエストで、失敗して敵モンスターに皆で散々に追い回された事。


 薬草取りの護衛でぶつくさ言う薬草じいさんを皆で青筋立てながら護衛した事。


 【ジェノサイドワーム】と戦ったせいで皆で一生懸命貯めたお金(Tr)がすっからかんになった事。


 逃げ回る【レッドドラゴン】をフィールドの端から端まで皆で追いかけた事。


 他にも山の様に色々な出来事があったが、どれもこれも碌な思い出ではない……狩りの効率も悪いし、無駄だらけだった。


 ゲーム部には俺の望む物なんて存在しない筈だ……じゃあなぜ俺はゲーム部に足早に向かっているんだ?


「……」


 目を開き廊下を見つめる。


 ゲーム部に入部した時の絵里先輩の言葉が思い出される。


 『本当に楽しい仲間と一緒にやれれば、人間関係と義務とかそう言うのは全然気にならないよ。一緒に失敗したり成功したり、喧嘩したり仲直りしたり本当に楽しいんだから。清宮君も一緒にやってればそう感じるよ』


「……違う」


 否定する。


「俺はゲーム部を楽しくなんて感じてない……ッ!」 


 総司は自分に言い聞かせるように呟いた。ゲーム部での活動が楽しいと認めるのは何処(どこ)か今まで1人でやってきたという、自分のアイデンティティを侵害するように感じられたからだった。


 総司は頭の中で自分に言い聞かせるように自分の考えを反芻させる。

 俺は1人プ(ソロ)レイヤーだ……誰を気にする事も無く誰に気にされるまでもない、自由に気ままに……自分の望むまま自分の為に戦う……それが俺だ。


 今までだってそうして来たし、これからだってそうするつもりだ。だってそれが一番楽しいんだから、それが効率的なのだから。ゲーム部には俺が望んでいる物なんて何もない、俺が急いでいるのもあくまで、待たせたら悪いっていう罪悪感からそうしているだけで、別に俺自身が望んでしてる訳じゃないんだ。



 俺は”仕方なく”この部活をやっているんだ。



 頭で何度もそう念じ、総司は顔を上げ、姿勢を正す。


 (次で最後だ、どんな理由も無い……次部員が一人でも増えたら辞める……必ず……)


 自分自身と堅い約束を結び、総司はそのままゆっくりと部室へ向かい歩み始めた。



 ※



 部室の前に着き鉄の扉を開ける。


「……おはようございます」


 気乗りしないような態度で挨拶し、部室を見渡すと中にいるのは絵里先輩だけだった。


「や! 総司!」


 彼女は軽く手を挙げ総司に返す。


「あれ? 絵里先輩だけですか」

「そだよ! 楓ちゃんとユリカちゃんは?」

「2人なら購買にお菓子買いに行ってますよ、俺よりも早く着いてる思ったんですけど、まあいいか」


 そう言いながら鞄を降ろす総司。その時絵里先輩が何か抱えてるのを見つける。


「それなんですか?」

「あ~……これ実は皆の分の入部届……実はまだ顧問の先生に渡してなくて」


 目を逸らしバツの悪そうな顔を浮かべる。総司は呆れ顔になる。


「何やってんすか、4月末までに部員集めないと廃部なんでしょう? しっかりしてくださいよ」

「うう……だって、毎日楽しくてすっかり忘れてたんだもん」


 そう言うと絵里先輩はちょんちょんと互いの人差し指を突き合わせた。


「……そっすか」


 それ以上追求する気を失い、呟くように言うと絵里先輩は胸を張る。


「でも大丈夫! まだ4月末まで10日くらいあるから今から渡せばセーフ」

「なら俺も着いていきますよ」


 同行を提案する総司、絵里先輩はふるふると首を左右に振る。


「え!? いいよ、いいよ私一人でも大丈夫!」

「途中で立花と楓さんに会ったら渡しに行くこと忘れて戻ってきちゃいそうじゃないですか?」

「うっ……そうかも」

「だから俺も行きますよ折角部員が集まったてのに、こんなつまんないことで廃部になったら寝覚めが悪いですからね」


 出来る限りぶっきらぼうに答えると絵里先輩は静かに笑う。


「そうだね、一緒に行こうか総司」


 2人は並んで部室を出て、職員室に向かって歩き出す。


「そう言えば顧問の先生って誰なんですか?」


 頭を傾け隣を歩く絵里先輩のつむじに問う。彼女は精一杯首をあげ総司に答える。


「岡田先生だよ」


 その名前は聞き覚えがあった。やや肥満気味の中年教師を思い出す。


「岡田先生って……俺のクラスの担任じゃないですか」

「え!? そうなの?」

「そうっすよ」

「そう言えば楓ちゃんとユリカちゃんも同じ1年5組だし……これって凄い偶然じゃない!?」


 まるで凄い発見をしてしまたっかの様に驚いた表情を浮かべる絵里先輩に総司は苦笑する。


「俺がクラスメイト誘ったんだから当然でしょう」

「それもそうだね!」


 絵里先輩はニカっと笑い肯定すると総司の表情も釣られて緩む。絵里先輩は顔を前に戻し、しっとりとした口調で囁くように言った。


「……そう言えば総司にお礼を言ってなかったね」

「お礼?」

「うん……総司が楓ちゃんとユリカちゃんを誘ってきてくれて事」

「あ~……別に良いっすよ俺大したことしてないし」


 頭をかく総司。実際あの2人を誘えたのは偶然に近かった、感謝されるような事などしていない。彼女はそれを優しく否定する。


「ううん。総司がいなかったらきっと誰かと一緒にチームプレイなんて出来なかったから……」

「別にチームプレイしたいのなら他のギルドに入れば良かったんじゃないですか?」

「私がゲーム部のギルド抜けちゃったらゲーム部無くなっちゃうからねそれは出来なかったの」

「……どうしてそんなにゲーム部に拘るんです?」


 彼女の言葉を聞くと総司は前々から疑問だったことを質問した、どうして彼女はそこまでゲーム部に拘るのだろう? 絵里先輩は間を置いてそれに答えた。


「……私にとってゲーム部は思い出の場所だから」


 絵里先輩はポツリポツリと語りだした。


「私ね、この学校に入学した頃――中学1年生の頃ね。クラス戦で全然勝てなくて、これじゃあ何処のギルドにも入れないと思って隠れて泣いてたの」

「……」

「そんな時にゲーム部の先輩が私を誘ってくれて、ゲーム部に入部したんだ! 毎日楽しかったな~」


 そう言い宙を見上げる絵里先輩は笑っていたが、どこか一抹の寂しさを感じた。それだけ彼女にとってはゲーム部というのは思い入れのある場所なのだろう


「だけどね、当たり前の事なんだけど皆卒業しちゃって。ゲーム部私一人になっちゃて……。絶対ゲーム部を残してやる! ……って思って頑張ったんだけど全然人が集まらなくて……本当はもうゲーム部は廃部になるかもって思ってたの。」


 彼女は足を止めた、総司もそれに合わせて足を止める。彼女は顔をやや伏せる。


「そんな時に総司が入ってくれて、楓ちゃんとユリカちゃんを誘ってくれて、本当に……、本当に嬉しかっただからね――」


「ありがとう総司」


 彼女は顔を上げ、総司に向けて笑った。その表情はまるで陽だまりの中にいるような温かく優しい微笑みだった。


 総司はその笑みを見ると体が熱くなった。まるで火が付いたようだった。思わず顔を背ける。


「そっすか、なら良かったです……」


 そんな総司を見ると絵里先輩は不思議に思ったのか総司と目を合わせようと顔を覗き込もうとする。


「……」


 総司は無言で顔を絵里先輩から離す。彼女は再び覗き込もうとしたが、それも回避した。

 彼女の表情は柔和な微笑みからニヤ―っとした笑みに変わる。


「もしかして総司……照れてる?」

「……照れてないです、くしゃみしそうなだけです」

「そんな事言って~総司は可愛いな~」


 彼女は総司の脇腹をつつく


「ちょ、やめて下さい!」


 驚いた拍子に顔を上げるとつい彼女と目が合ってしまった。彼女はニコリと笑う。


「ふふ、本当にありがとうね総司!」


 総司は返事はしなかったが直ぐ視線を逸らし、頷いた。彼女は満足したのか歩き出すと総司も一緒に歩き出した。職員室までの間、総司は彼女と目を合わせられなかった。


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