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VRMMOが日常となった世界で青春物語  作者: 金 銀太
VRMMOが日常となった世界で大切な仲間が出来るまで
16/50

15話:宇宙に浮かぶ8

 広場から少し歩いたところにそれ(依頼所)はあった。


 石造りの3階建ての役所の様な建物で、他の木造の建物とは違い武骨な印象を受けたが、それが返ってどっしりとした威厳をもっており一目で依頼所だと分かった。    

 扉を開け、依頼所に入る4人。中は多くのNPCがいたが総司達の様なプレイヤーの姿は見えない。人ごみをかき分けつつクエストの掲示板に向かう


 (アレサ人気な割には過疎ってんな……)


 不思議に思う総司。まだ放課後が始まってそんなに経ってないとは言えここまで1人もプレイヤーの姿を見ていなかった。

 疑問に思いつつも(こんな事もあるかと)尋ねるほどでも無く。そのままクエスト用紙が張られた掲示板の前まで行き総司は掲示板を覗き込み視線を走らす。


 【スライム】×4の討伐

 報酬:300Tr(テラ)

 推奨レベル:10

 推奨人数:2人


 【ゴブリン】×3の討伐

 報酬:500Tr(テラ)

 推奨レベル:15

 推奨人数:3人


 【コボルト】×4の討伐

 報酬:800Tr(テラ)

 推奨レベル:20

 推奨人数:4人


(今更こんなコモン級のクエストやったところで……途中で寝ちまうぜ)


 【下位(コモン)級】――モンスターのランクで言うなら最下位である。所謂(いわゆる)雑魚モンスターだ、今回のメンバーなら特に気に留める要素は無い。〈ルーラー〉は流れるように視線を次のクエストに移す。


 【レッドドラゴン】の討伐

 報酬:6000Tr(テラ)

 推奨レベル:60

 推奨人数:4人


 (……ん? 上位(ハイアー)級じゃん。 中位(ミドル)級は?)


 一段飛ばしたかと思い視線を戻す。

 先程見たスライムやらゴブリンやらのクエストが目に映った。


 (……飛ばしたわけじゃないな)


 何かの間違いかと思い【レッドドラゴン】に続くクエスト達に目を移す。


 【ジェノサイドワーム】の討伐

 報酬:8000Tr(テラ)

 推奨レベル:65

 推奨人数:5人


 【竜の卵の納品】

 報酬:7000Tr(テラ)

 推奨レベル:60

 推奨人数:4人


 【薬草取りの護衛】

 報酬:3000Tr(テラ) 薬草×4

 推奨レベル:60

 推奨人数:4人


 明らかにおかしい……並んでいるモンスターは上位(ハイアー)級だしクエストの推奨レベルも上がり過ぎであった。

 

 だが、総司にとってはそんなことよりも気になる事があった――


「どうなってんだこれ……糞クエストばっかじゃねぇか!」


 思わず声が上がる。それもその筈である。今ざっと見たクエストは万を超えるクエストを持つアレサの中でも悪名高いクソクエスト達だったのだ。


 【レッドドラゴン】はその名の通り大きな翼を持つ赤い上位(ハイアー)級モンスターなのだが、問題はその戦い方にあった。

 ”ガン逃げ”である。ひたすら飛んで逃げるのだ。プレイヤーは【レッドドラゴン】が地上に降りてくるほんの僅かな隙を狙って攻撃しなければならない。しかもある一定以上のダメージを受けると、全然地上に降りてこなくなるうえに巣に逃げるのだ。お陰でクエストの成功率は極端に低い。


 【ジェノサイドワーム】は砂漠地帯にいる全長5mを超えるミミズ型の上位(ハイアー)級モンスターでその高い戦闘能力もさることながら、高い腐食属性のある粘液のせいで戦えば戦う程装備がボロボロにされ、せっかく倒しても装備の修繕(しゅうぜん)で報酬がぶっ飛び確実に赤字になるド畜生モンスターで有名だ。


 【竜の卵の納品】は神殿の奥地にある竜の卵を盗み、それを納品するというクエストなのだが、その神殿を警備する上位(ハイアー)級モンスター【竜騎兵】がやたら強い上にうじゃうじゃいる、さらにとんでもなく広い警戒範囲(サーチゾーン)のせいで、プレイヤーは並みの潜入工作員を超えるスニーキングプレイを強いられるのだ。通称:イライラ棒。


 【薬草取りの護衛】――クエストの内容自体は、薬草を取りに行くNPCのおじいさんを護衛するというものだが、このクソじじい……何をトチ狂ったのか、そこら辺の草むらで取れる様な薬草を最上位(エスト)級モンスターの巣を突っ切って取りに行くという脳筋ぶりを発揮する。さらに少しでもダメージを受けるとぶつぶつとプレイヤーの悪口を言いだすという性悪っぷりで、凄まじいヘイトを稼ぎ、アレサはっ倒したいNPCランキング10年連続トップの座を維持していた。


 どれもこれも難易度や報酬……精神的苦痛レベルにおいてそびえたつ糞なクエストを前に顔が歪む。ふと後ろから呟くような声が掛けられる。


「……良いクエストは上位のギルドが独占しているのよ。だからこういう所で受けられるクエストは誰もやりたがらないような物しか残ってないわ」


 立花だった。


「ふ~ん……説明どうも」

「別に……楓と約束しただけだから」


 フイっと顔を逸らす立花のアバター〈ヴァルキュリア〉に総司は(真面目だね……)と思いつつ横目で彼女を見ていると〈マリボール〉の声が聞こえた。


「でも! 探せば結構良いクエストあるよ! ――ほら!」


 早くも不満顔な総司に、掲示板を覗き込みながらウキウキ顔で一枚のクエスト用紙を差し出す〈マリボール〉。総司はそれを見る。


 【ヘルハウンド】×8の討伐

 報酬:7000Tr

 推奨レベル:65

 推奨人数:4人


(これも大概クソモンスターなんだよなぁ……)


 【ヘルハウンド】――”ワンチャンわんちゃん”の異名を持つ上位(ハイアー)級モンスターである。

 非常に高い俊敏性と攻撃力を誇り、数多のプレイヤーを地獄に引きずり込んだ猟犬……。だが、このモンスターの真の恐ろしいところはその機敏さでも攻撃力でもなく”隠密性”にあった。


 ”全く音を立てないのだ”足音はもちろん、攻撃する際に吠えるなどそういった動作がない、その為その攻撃を完全に回避するのは困難を極め、油断するとクリティカルダメージを受け死亡……そんな事が珍しくないモンスターだ。レベル80を超える熟練したプレイヤーですら稀に倒されてしまう、そしてその時倒されたプレイヤーの台詞は決まって”わんちゃんにワンチャンされた”……である。故に”ワンチャンわんちゃん”と呼ばれていた。


 (……まあでも消去法的にこれしかないか)


 とはいえ、確かにこの中なかでは比較的マシな部類ではあった。報酬はそこそこ良いし理不尽な要素も他と比べれば少ない。だが――


「いいんですか? 結構難しいですよこれ?」


 総司は問いかける。推奨レベル65のクエストだ、ゲーム部のアバターの平均レベルより10程は上回っている。

 総司の問いに絵里先輩のアバター〈マリボール〉は胸を張った。

 

「記念すべきゲーム部第一回狩りだからね! やり応えがないと!」

「まあ、俺は……皆がいいならこれで良いすっけど」


 視線を〈ヴァルキュリア〉と〈猫丸〉に向ける。〈ヴァルキュリア〉は特に気にした様子も無かったが〈猫丸〉は違った。


「……わ、私はもうちょっと簡単なのがいいかな」


やや声のトーンが落ち、伏し目になる〈猫丸〉。それを見た〈マリボール〉は別のクエスト用紙を差し出し言った。


「じゃあ【レッドドラゴン】とかにする!?」

「……そ、それもちょっと」

「じゃあ【ジェノサイドワーム】?」

「……」


 俯く〈猫丸〉。総司は彼女をチラリと見る。


 総司は直感的に理解していた。きっと彼女は自信が無いのだ。今あげられたモンスターのどれもが今のメンバーの平均レベルよりも推奨レベルが高い。倒せない事は無いが難易度は高いと言えるだろう。レベルを隠している自分はともかくレベル38の彼女には荷が重すぎる。


(しゃーない……俺が適当に【ゴブリン】とかが倒したいとか言うか……)


 フーッと息を吐く。あまりこういうことはしたくないのだが、俯いていく彼女を見るとどうにも見ていられなかった。総司が提案をするため口を開い――


「大丈夫だよ楓ちゃん! 皆でやればきっと出来るよ!」


 総司が言葉を発する前に絵里先輩のアバター〈マリボール〉が励ますように声を掛ける。〈猫丸〉は少し顔を上げる。


「でも私弱いから……、私のせいで負けちゃうかもしれない……」


 ぽつぽつと言う言葉は呟く〈猫丸〉に〈マリボール〉は満面の笑みを浮かべる。


「いいじゃない負けたって! それならもう一度やればいいよ!」

「で、でもまた負けちゃうかも……」

「大丈夫だよ! 成功するまで何度だって挑戦すれば良いよ!」

「で、でも失敗し過ぎると皆のレベルが下がっちゃうから……」


 申し訳なさそうに目を逸らしながら言う〈猫丸〉に〈マリボール〉は胸を張り言った。


「そんなの私は全然気にしないよ! もしレベルが下がっちゃたら皆で一緒にレベル上げしよう! そして皆でどうすればいいか考えようよ! どうすればいいか話し合って、新しい作戦を練ってもう一度、皆で挑戦するの! その為のゲーム部! その為の仲間なんだから!」


 〈マリボール〉の言葉を聞くと〈猫丸〉のこわばった表情は和らいでいく。


「じゃ、じゃあ頑張っちゃおうかな」


 〈猫丸〉の表情に色が戻る。〈マリボール〉は満足気に頷く。


「よ~し! じゃあ皆最初のクエストは【ヘルハウンド】でいい!?」


 ゲーム部の部員を見回すように〈マリボール〉は言った。


「はい!」


 元気よく返事をする〈猫丸〉。


「……ええ!」


 〈ヴァルキュリア〉は〈マリボール〉と〈猫丸〉を見ながら微笑みながら答えた。


「……良いっすよ」


 〈ルーラー〉はボソッと呟くように答えた。


「よ~し! じゃあしゅっぱつだ~!」


 〈マリボール〉は腕を振り上げる。〈ヴァルキュリア〉と〈猫丸〉もそれに応えた。〈ルーラー〉もワンテンポ遅れそれに続く。


 (……ご立派な事で)


 〈マリボール〉を見ながらそう思う総司、何かに負けたような口惜しさがあった。



 ※



 ヘルハウンドがいる森に行くためセーフゾーンを出て、草原のあぜ道を歩くゲーム部4人。

 暖かい日の光が4人に降り注ぎ、吹き抜ける風が草木を撫で穏やかな音色を奏でていた。


 【ワールドモード】での時間帯や天候は、日によって決まる。サーバーによってまちまちではあるが、専ら朝、昼、夕、夜を日毎にローテーションし、天候はランダムに決まるのが一般的だ。


 今日のこの学校でのサーバーの設定は昼で天候は青:7白:3と言った過ごしやすい物だった。


「……結局一人も人に会わなかったな。いつもこんな感じなの?」


 横を歩く〈猫丸〉に総司は尋ねる。ここで言う人とはNPCの事では無く総司達の様なプレイヤーの事を指していた。


「皆、自分たちの安全地帯(セーフゾーン)でスポーンしてるんだと思う」

安全地帯(セーフゾーン)? あそこ以外にも安全地帯(セーフゾーン)があるの?」


 総司は後ろをチラリと見る。先程までいた町が見えた。


「うん。このサーバーの設定は領地戦設定だから領土が沢山あるギルドは安全地帯(セーフゾーン)が拠点として持てるの」

「へ~……」


 このゲームに慣れた総司にとっても領地戦設定のサーバーは始めてだった。

 アレサのサーバーはこの学校以外にも大量にあり、そしてその設定もそれと同じく大量にある。


 攻撃的なモンスターが存在しないピース設定、プレイヤーを領主としてNPCを経営し街づくりを楽しむクリエイティブ設定、自分以外全て敵、安全地帯(セーフゾーン)も存在しない自分以外は全て敵(フリーフォーオール)の設定などなどだ。


 領地戦設定はその中でも珍しい設定だ。そこに所属するプレイヤーはギルドないしクラン、連合を組みサーバー内の領地を奪い合い、全領地を獲得した勢力が最終的に勝利するというものだ。


「領土って持ってたらなんか良い事あったりするの?」


つい気になり尋ねる〈ルーラー〉に〈猫丸〉はにこやかに答えた。


「色々あるよ! 支配している領地のクエストが独占出来たり、NPCを経営して領地が発展すればお金が貰えたり、アイテムとかが安くなったり、色んな施設が建てられたり、スキルの開発とか装備の改良とかが出来たり……他にも一杯!」


「より取り見取りだな」


 まるで”国”だ。総司はそう思った。今更ながらどうしてこの学校がギルドやらクラスランキングやらに拘るのか分かった気がした。こんなにメリットがあるなら領地が沢山ある良いギルドに入りたくなるのも当然だ。


「じゃあこの学校には沢山勢力(ギルド)があるからそれと同じくらい安全地帯(セーフゾーン)があるの?」

「そうだよ。でも領地が持てるのは学校に認められたギルドだけだから”部活動”として認められてるところだけなんだけどね」

「同好会とかだと領地は持てないって事?」

「うん」

「へ~じゃあ俺たちは一応、部活動だから領土持てる権利があるのか~……絵里先輩、ゲーム部に領土ってあるんですか?」


 前を歩く〈マリボール〉に総司は問いかける。彼女は胸を張る。


「ないよ!」

「ですよね」


 聞いても無駄だった。


 ため息をつきながら、ふと空を見上げる。雲の中から数字の8の字の様な物が浮かぶのが、視界の端に映ったためだ。


「あれはなんなんだろ?」


 指を指しながら再び〈猫丸〉に問う〈ルーラー〉。〈猫丸〉は一瞬戸惑うような表情を浮かべた。


「あ、あれはね……――」

「説明なら私がするわ」


 〈ヴァルキュリア〉が遮るように会話に割って入る。


「あれはこの学校のギルドの一つ”トリナシオン”の安全地帯(セーフゾーン)”メビウスリング”よ」

「……安全地帯(セーフゾーン)?」


 空に浮かぶ数字が? いまいちピンとこない総司。立花はそれを察したのか言葉を続ける。


「メビウスリングは衛星軌道上に浮かぶ人工天体なの。総全長8kmを超えるから昼設定で天気が良いときは地上から見えるのよ」

「じ、人工天体って……宇宙ステーションってこと!?」

「そうよ」


 あっさりと答える彼女に総司は目を見開く。


「宇宙空間に安全地帯(セーフゾーン)なんて作れるのか!?」


 声を荒げる総司に〈ヴァルキュリア〉は困惑した表情を浮かべる。


「……私はここ以外のサーバーにあまり行かないから特に変に感じたことはないけど」


 (マジか……)


 驚愕し固まる総司。

 総司はこのゲームに慣れていたが、1人(ソロ)で戦い続けていた弊害か、あんなものを作る事が可能だという事を彼は知らなかったのだ。


 総司は荒れる感情を抑え思考を整理する。


 (ここ(新台学校)の生徒は2000人を超えるし、全校生徒が全力で安全地帯(セーフゾーン)の開発をすればあれくらい行くのかもな……)


 静かに息を整え、呟いた。


「……まあ、トップの勢力だったら仕方ないか」


 〈ヴァルキュリア〉は表情一つ変えずに答える。


「3位よ」

「は?」

「あれギルドランク3位」

「……」


 完全に面食らう総司。呆然としたまま固まるしかなかった。


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