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VRMMOが日常となった世界で青春物語  作者: 金 銀太
VRMMOが日常となった世界で大切な仲間が出来るまで
13/50

12話:総司と掃除

「動けこのポンコツが! 動けってんだよ!!」


 古びた冷蔵庫を叩く総司。威圧的な口調と裏腹にその叩き方はぺチぺチと優しかった。  


 (これで動くなら誰も苦労しないよな)


 ため息をつき、立ち上がる総司だったが――


 ゴウン!!!


「お、おお……なんだよ、動くんなら動くって言えよ」


 突如動き出す冷蔵庫にビビりながら、言葉を投げかける。そんな総司に後ろから絵里先輩が話しかけてきた。


「動いた?」

「冷蔵庫は動きましたね。ウォ―タ―サーバーはご機嫌斜めみたいですけど」


 親指でウォ―タ―サーバーを指さす総司に絵里先輩は「そっかー」と言った。


 掃除が始まってから10数分後。ゲーム部の面々はまず部室の備品の整理から始めていた。

 今はその第一段階である捨てる物と捨てない物の選別だ。


「ウォ―タ―サーバーの方は下のゴミ捨て場に持っていっちゃいますね」

「うん、了解! 私も手伝うよ!」


 そう言い絵里先輩は総司と共にウォ―タ―サーバーを挟んで持ち上げようとする。


「ぬぬ……ふんぬ!」


 およそ女の子らしくない声を上げ、持ち上げようとする彼女の顔は真っ赤だった。どうやら押し出す力はあっても持ち上げる力は無いようだ。


「……絵里先輩は持っていくやつとそうでないやつの分別をお願いします」

「ぬぬ……待って、今持ち上げるから……ッ!」

「1人でも大丈夫ですから」


 言い聞かせるように言う総司に絵里先輩はようやく諦め、息を切らした。


「俺はゴミ持っていくのに専念しますから井口と立花にもそう伝えて下さい」


 淡々と言う総司。絵里先輩は息を整え総司を見る。


「優しいね総司は」

「……効率主義者なだけです」


 プイっと顔を逸らす総司に絵里先輩はニコリと笑った。


「ふふ、分かった! 頑張ってね総司!」

「頑張るのは絵里先輩もですよ」

「そうだね! 一緒に頑張ろうね!」


 絵里先輩に見送られながら総司はウォ―タ―サーバーと共に部室を出た。



 ※



 幾つか粗大ごみを下の集積場まで運び、次の獲物を求め部室に戻る総司。

 部室の中では絵里先輩はモップを持ち部室を右往左往し、立花は雑巾で窓を拭いていた。

 チラリと井口を見ると彼女は背の低い木製の長机を見ながら悩んでいた。


「どうかしたの?」


 声を掛ける総司。井口は振り向く。


「うん……この机結構良い感じだから使えないかな~って思ったんだけど」


 井口の前にあるその机はシックな作りで傍目(はため)から見ても高級感がある物だったが、


「ボロボロだなこりゃ……足もガタガタだし」


 机を触る。表面は傷だらけで、足回りも不安定だった。


「そうなんだよね……ちょっと勿体ないな~って」


 確かに勿体なく感じる……高そうだし。総司も含め2人でう~んと頭を悩ましていると後ろから声がかかった。


「……何とかなるかもしれないわ」

「ユリカちゃん!」


 遠目からこちらを伺っていたのであろう立花だった。彼女はそのまま机に手をあて、足回りを覗き込む。


「表面の傷はパテで埋めるとして……金具の部分は取り換えないとダメね……。私、家近いから工具と使えそうな部品を取ってくるわ」


 立花はそう言うと部室から出ていった。面食らう総司、井口に尋ねる。


「……立花ってああいうの得意なの?」

「ユリカちゃんの家って工務店なの。おじいちゃんに教えてもらったって言ってたよ」

「見た目はなんか外国のお嬢様っぽいのにな」

「ふふ、ユリカちゃんああ見えて江戸っ子だからね」


 (え!?)


 驚愕の事実に固まる総司。てっきり留学生か何かだと考えていたのだ。


「……そうなんだ凄い外人っぽいのにな」

「ハーフとかじゃないんだけど偶々(たまたま)先祖返りしたんだって」

「そんなん起こるもんなんだ」


 まあ、確率的には無いわけではない。父、母、両方の血筋の何処かに金髪で碧眼(へきがん)の因子があるのなら発現することもあるのは事実だ。


「さて私はこっちを直そうかな!」


 そう言うと井口は瓦礫に埋まっていた2対のソファをみる。それはソファーカバーが破け中のスポンジが何か所も飛び出ていた。


「え!? 中身飛び出てるぜ? 直せるの?」


 思わず指摘する総司だったが、井口は全く気にせず鞄から裁縫道具の様な物を取り出す。


「大丈夫! あて布した後新しいソファ―カバーで覆うから」

「新しいソファーカバーなんてあるの?」

「実はさっき使ってないカーテン何個か見つけたんだ~! それで作るよ!」


 そう言うとソファの陰に隠れていた袋詰めされたカ―テンを取り出し、彼女は大きな鋏で何の躊躇もなくカーテンを切りだした。


 ((たくま)し過ぎだろ……)


 余りにも手慣れた手つきに総司は驚く。井口は淡々とカーテンを切り進めていたが、それはソファ全体を覆うには小さかった。


「それ小さすぎない?」


 ついつい口を挟む総司。井口は切りながら答える


「ここの部分はテーブルクロスにするつもりだから」


 (……もう立花が直せる事前提なんだな)


 井口の答えは2人の付き合いの長さを感じさせた。総司は真剣に作業しだす彼女の邪魔をしないようゴミ運びの仕事に戻った。



 ※



「やっと終わったか……」


 ゴミを全て運びきりヘロヘロになりながら階段を登る。長時間のリンクに耐えられるよう体は結構鍛えていたつもりだったが、流石にこう何度も階段を昇り降りすると体の(すじ)から悲鳴が上がるのを感じた。


「ゴミ運び終わったよ~……」


 部室に到着し中に入る。


「なんだよ……凄い良い感じじゃん」


 そこには誰もいなかったが、部室はすっかり綺麗になり開放的な空間が漂っていた。


 部屋全体は夕日の明かりを取り込みオレンジ色に染まり。中央には全盛期を取り戻した長テーブルとそれを挟む形で綺麗に修繕されたソファが置かれ、入り口から入って左側には棚と小型の白い冷蔵庫が並び、部屋の(すみ)には木で作られたスタンドライトのような物が立っていた。


 ふらふらと窓まで行く。ガラクタから解放された窓からは二子玉川(ふたこたまがわ)の町並みが見え、遠目には多摩川すら確認できた。


 窓を開け身を乗り出すと吹き抜ける風がとても心地よかった。視線を下に向けると芝生で整えられた大きな校庭に、今ではすっかり少なくなったアウトドア系の部活動に勤しむ生徒の姿が見える。


 (わざわざ疲れる活動を好き好んでやるなんて変な奴等だなって思ってたけど……今なら少し気持ちが分かるな)


 そんな事をボケーっと考えながらソファまで向かいドスッと座る。新品同然に生まれ変わったそれの座り心地は最高だった。


 (絵里先輩達は何処に行ったんだろ……手でも洗いに行ったのかな……それ……とも……)


 吹き抜ける風とフカフカのソファは疲れた総司にとってはまるで揺り籠だった。意識が段々と遠のいていく――……


 ピタッ!


「ヒエッ!」


 突如首筋にあたる冷たいものに意識が急速に戻され、跳ね起きる総司。急いで振り返る。


「あ、ごめんね清宮君! もしかして寝てた?」


 ペットボトルのお茶を手に持った井口が立っていた。


「ん? あ? 寝てない寝てない」


 総司は目をぱちくりさせながら首を横に振ると井口は微笑む。


「ふふ、お疲れ様!」


 そのまま、お茶が手渡される。


「これは?」


 だんだんと目が覚め、再び体温が上がっていきながら尋ねる総司。


「清宮君頑張ってくれたから皆からそのお礼!」

「マジ!? ありがとう!」


 渡されたお茶の蓋を空け、一飲みで飲み干す。重労働の後のこれは素直に嬉しかった。


「そう言えば、先輩たちは?」

「ユリカちゃんと絵里先輩は今掃除道具を片付けに行ってるよ! 私は清宮君にそれを伝えるために一足先に帰ってきたの」

「あ、そうなんだ、時間かかりそう?」

「ううん、多分すぐ帰ってくると思う」


 そう言うと彼女は周囲を見渡し。一呼吸置いてから口を開いた。


「それにしても綺麗になったね、思ってたよりもずっと広かったし」

「そうだな、備品も使えそうなのが結構あったお陰で利便性も良さそうだしね、なんか見たことないものもあるし」


 部屋を2人で歩いて回りながら、総司は視線を部屋の隅に置かれた木で作られたスタンドライトに向ける。井口は笑いながら答える。


「あのスタンドライト、ユリカちゃんが余った木材と部品で作ったんだよ」

「すげぇな……」


 素直に関心する総司。井口は一頻り笑った後、じっと総司の事を見つめ――


「ねぇ、清宮君」


 井口はポツリと呟くように言った。


「は、はい?」


 雰囲気が変わった彼女にかしこまる総司。暫く沈黙が続いた後、彼女は口を開く。


「総司君って呼んでいい?」


 そう言うと照れたように笑った。


「……え!」


 総司は驚いた表情を浮かべたままフリーズする。


 夕暮れの部室女子と2人きりで名前呼び……。水飴にハチミツを混ぜ込んだような甘い展開に総司の脳は一瞬にして焼き付いてしまったからだ。

 

 ちょっとばかし異性との関係がある人間だったら笑顔で「いいよ」と返す場面だったが、私生活でもソロプレイヤーな総司にとって、このての耐性はスライム以下だった。


「……もしかして嫌?」


 井口が覗き込んでくる。総司は一瞬で思考を現実に戻し首を縦に振る。


「――い、いやいやもう全然オッケー!!! 好きなように呼んで!!!」


 井口はそんな総司の様子にほっとした表情を浮かべた。


「良かった~。絵里先輩も総司君の事名前で呼んでたから、そっちの方が良いのかな~って思って。あ! 私の事も楓でいいよ!」

「あ、そういう……」


 理由を知り、盛り下がる総司。楓はそんな総司の事など気にせず笑う。


「ふふ、よろしくね総司君!」

「……よろしく楓さん」


 臆面もなく言う彼女に総司は余計に恥ずかしい気持ちになった。


 ガチャ! っと音を立て扉が開く。


「お待たせ~!」


 音の鳴った方を見る総司と楓。扉の向こうから絵里先輩と立花が、お菓子やら飲み物やらが入った袋を抱えながら部室に入ってきた。楓はパアっと笑顔になり2人を迎える。


「お帰りなさい絵里先輩 ユリカちゃん!」

「ただいま楓」

「ただいま! 楓ちゃん!」


 絵里先輩は楓に返事をした後、袋を長机に置きササッと総司の横に移動する。


「総司! どうよ? 言った通り快適空間でしょ?」


 精一杯背伸びをし耳打ちする彼女に、総司は視線だけ向けぶっきらぼうに答える。


「……まあ、そうっすね。昨日の時点でこれならもっと良かったんですけど」

「でしょー! あ! 色々買ってきたから皆で打ち上げやろう!」


 皮肉交じりの答えだったが、絵里先輩には後半の言葉は聞こえなかったようだ。

 そのまま彼女は長机の方に小走りで向かい打ち上げの準備を始める。


 (……相変わらず人の話を聞かないな)


 総司はその様子を見ながらフッと鼻を鳴らした。彼女はソファの陰から顔だけだす。


「ほら総司も早く~!」

「今行きますよ!」


 返事をする総司の表情は柔らかかった。

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