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第六話

エマは光が収まる前に、自分達三人と魔核を囲う土壁を作る。村の家屋や畑に被害を出さないようにするためだ。

エマによって大きく囲われたそこは、まるでバトルフィールドのよう。


このようなそこら一体の土を動かす大掛かりな魔法は、エマはあまり使わない。魔力消費が多いから、という理由も勿論だが、あまり土に介入しすぎると、元々の地形や質に戻らないときがあるからだ。


しかし、今はそんなことは言っていられない。家屋や畑が潰れれば、村は終わりも同然だ。生活基盤がなければ、人は生きられない。その事を、平民のエマは良く理解していた。


ただ。エマは眉尻を下げる。土壁はたった四メートルほどだ。すこし心もとない。しかし、畑の肥沃な土や、家屋を支えている土は使いたくなかった。それでは本末転倒である。

自らの魔力で土を創造するのも手だが--エマはちらと魔核を見る。

恐らく、それはあまり良くないだろう。


レオやリカルドの魔法は、やはり何時もより精度もその効果も悪い。魔核と魔法合戦を繰り広げて魔核から魔力を引き出す。計画通りだ。しかし、二人の魔法は魔核から魔力が引き出される度に精度や効果が落ちていく。

魔核の物理的な魔法は光魔法(白い光)だが、恐らくそれに魔法阻害が付与されているのだろう。それも、創造魔法への阻害だ。


レオやリカルドが好んで使う魔法は、自らの魔力を核として現象を起こす創造魔法だ。

一方エマは、自らの魔力を物質に宿す含有魔法を好んで使う。と言うのも、土という特性上は含有魔法の方が便利なのだ。


エマは、この村の中で一度も魔法を使いづらいとは思わなかった。魔力阻害なら創造魔法でも含有魔法でも等しく阻害されるはず。にも関わらず、魔法の精度や効果が落ちているのはリカルドとレオだけだ。ならば恐らくはあの魔核は創造魔法を阻害しているのだろう。


エマの眼前では、レオが魔核の光魔法を炎の剣でいなしている。いなされた光が土壁へとぶつかって消滅した。リカルドはその間に風と水の魔法で魔核の光魔法を相殺している。


二人が連携して交戦していることもあり、今のところ怪我を負う様子はない。しかしやはり、魔核の圧倒的な魔力量。このままでは効率が悪い。


エマは浮遊する魔核を眺めながら、一体どうすれば良いのかと唇を噛み締めた。そもそも、こんなに高濃度の魔力がずっと垂れ流されているのも環境に悪い。魔力エネルギーは、多くても少なくても異常をきたすものなのだ。


せめて、一度にもっと多くの魔力を引き出せれば。自分にその手助けが出来れば--


だが、いくら阻害されていない土の含有魔法と言っても、その本質は攻撃ではない。その上、今動かせる土は既に壁にしてしまっている。


「エマ。」


冷たい声が降ってくる。はたはたと自らの魔力にマントを揺らめかせながら、リカルドがエマを見ている。


「交代しろ。」


冷静に転がり落ちてきたそのリカルドの言葉に、エマが目を見開く。


そんな、馬鹿な。


言葉にならぬ恐怖が、口の端から漏れ出た。エマは、魔法使いとしては致命的な程に攻撃する事を恐れていた。


「私が周囲に障壁を張る。阻害魔法が邪魔だ。君の土(含有魔法)の方が効率が良い。」


「…そんな、」


「前衛は変わらずレオだ。私は援護に回る。」


言外に、分かったかと言わんばかりに土壁より外にリカルドが障壁を張り直す。


魔核の魔法を一人で捌くレオが、エマに吠える。


「さっさとしろてめぇ!それでも魔法使いかっ!」


ちらとリカルドを見る。空間を囲むように障壁を張ったとは言え、まだ彼は余裕そうなのに、レオを手助けするそぶりもない。


「…う、」


眉尻を下げ視線も下がる。分かっている。自分はどうしようもなく意気地無しで。

でも。でも。どうしても、攻撃の魔法が怖いのだ。そもそも土魔法は攻撃には向いていないのに。だから土が好きなのに。


視線を上げられないエマに、やはり何時も通り冷たい顏のリカルドが何でもないことの様に紡ぐ。


「攻撃でなくても良い。君なりにレオを手伝えば良いだけの話だ。」


それが出来たらやっている。エマは溜め息を吐きたい気持ちで土に呼び掛け土壁を崩した。


今やりたいのは魔核に魔力を、つまるところ魔法を使わせたいということ。もっと効果的に、効率的に魔法を引き出したい。


攻撃に向いていない土魔法で、どうそれを現すか。ふと思い出したのは先程の光景。

あの時、土は光を覆っていた。ほんの一呼吸の間だけだったけれども。

いなす事でも、相殺でもない。土はただ、光を覆って---そしてそれ()を壊すために白い光が苛烈を極めたのだ。


エマは震える両手を握りしめ、全力で土に声掛ける。何時だって、とは言ってもそうそう無いことだが、エマが何かに向かって魔法を放つ時には、緊張と恐怖で糸が張りつめるのだ。


土よ。土よ!安寧を、均一を、あるべき姿を…!


エマは願い、思考し、そしてそれが土に添う。


ぐっと土が隆起し、空へと昇る。拳ほどの魔核を、圧倒的な土が覆う。


術者エマには、分かる。魔核の側にある土から、ぼろぼろと魔法が壊されているのを。エマの制御から離れて崩れ落ちようとする土に、エマは強引に己の魔力を取り付ける。


土を循環させて魔法を使う事も出来る。そちらの方が術者(エマ)にとっては楽なやり方だ。しかしそれでは、たくさんの土がこの苛烈な光魔法を浴びることになる。


それならまだ、一部の土を変えずに使い続けた方が良い。土だって、いくら魔法でその質が変わっていても、魔法を受ければダメージを受ける。


土は、命だ。


エマは奥歯を噛み締める。怖い。とても。何故かは分からないけれど、何時からかは覚えていないけれど--魔法で何かを削ることは、エマにとっては恐怖以外の何者でもない。


しかし。土は命だ。エマは心の中で何度も何度も反芻する。それは、エマにとっては数少ないポリシーであった。


だから、少しでも土を壊さないやり方を。少しでも土を守れるやり方を。


エマは夢中で土に魔力を添わし続けた。








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