少年の過去
夢を・・・・いや走馬灯なのかもしれない、ただ何もない思い出・・・・
決して出ることを許されなかった部屋。窓から見える景色、遠くから聞こえる音、そして数えるぐらいしか会ったことのない人たち。
一番古い記憶は身動きができないように縛られ体を傷つけられることだった。
痛い、止めて・・・・・・
何度も叫んだ。でも口を塞がれ声にはならなかった。
周りにいた大人たちは誰一人として助けてはくれない。
奇跡だの神のお力だの聞こえてくるばかり・・・
そんなことがどれぐらい続いただろうか。
他に覚えている事は豪華な服を着せられただ座っているだけ。
いや、少し違うか。
正確にはうっすらと向こうが見えるぐらいの布に囲まれた部屋に座っていた。
近くには白い服を着た大人が2人ほど。
そして布越しに人が出入りする。顔なんて見えない。ただ声が聞こえるだけ。
決まってこう言うのだ。
「神の御慈悲を」
そうすると後ろに控えていた二人が近づき僕の指を小さな刃物で切る。
そして中から出てきたものを小皿に取り顔の分からない人に渡す。
その頃には痛みは感じていなかった。いや、痛みだけではなく他の色んな事を感じていなかった。
時には髪の毛を切られたり、爪だったり、尿だったり・・・
もう、何もかもが色あせていく。
何も残らない、残っていない・・・
まるで人形だった。何もない場所での思い出・・・・・・
あの瞬間まで何も変わらなかった思い出・・・・
静まり返った夜の事だった
何も変わらない、何もない1日が終わろうとしていた時だった。
突然大きな地鳴りが響いた。
続いて泣き叫ぶ人の声。
大人か子供か男か女かわかりはしなかった。あちらこちらから聞こえてくる。
そして夜明けの様に徐々に窓から見える空が明るくなっていく。
だが、そんなはずはない。
日は沈んだばかり・・・
やがて朝霧のように煙が広がり始める。
ドクン・・・
胸が大きな鼓動をたて始めた。
それに合わせるかのように人の足音が近づいてくる。
それも一人二人なんて数ではない。見えなくても聞こえるほどだ。
口々に「御助けを、御慈悲を」と叫んでいる。
いつもは一人づつ通される場所に人々が集まりだす。
まるで砂糖菓子に群がる蟻のように・・・
締め切られていた扉の隙間から人の手が生えてくる。
一本、また一本。まるで一つの何かをつかむように手が伸びてくる。
徐々に壁にも穴が開き手が伸びる。
そして時折見えるキラリとしたもの。
まるで星空の様にも見えるが、そんな綺麗なものではない。
獲物を狙うかのような人の目だ。
そんな視線が集まってくる。
ゾワッとしたものが背中を走った。
続けて汗が体中からあふれ出してくる。
今まで感じたことのない・・いや思い出したくない感覚が体の中を駆け巡る。
ドクンドクン
胸を叩くように波打つ
やがて隙間から一人入り込んできた。
もう一人もう一人・・・
僕の元へと駆け寄ってくる。
その時だった。
建物の一部が燃えていたこともあったのだろう。
何かが軋み割れる音が響いた。
一瞬、目の前が真っ白になった。
次に見えたものは瓦礫の山だった・・・いや、瓦礫に埋まった人の山だった。
埃と煙と焼けた匂いと血の匂いそして声にならないうめき声が広がる・・
幸い自分の体は無傷だった。
それでも足が動かない。まるで何かに縛られたような・・・
・・・・・・違う
それは人の手だ。
人の手ががっちりと自分の足を掴んでいる・・・
嫌だ・・・いやだ・・・イヤダ・・・・
その時にどんな考えだったかよくわからない。
それでも・・・・・・〝逃げなきゃ″・・・・
それは本能だったのかもしれない。
人が押し寄せた方向とは逆の方に走り出していた。
ここよりもどこか遠くへ・・・
そして気づいた時には知らない男が顔を覗き込んでいた。