おじさんパート1
この村は私にとって都合がいい。
孤立している訳ではないが交易が無いわけでもない。
不便な山間ではあるが資源や食材が貧しいわけでもない。
熱狂的な宗教や祭りごとは無いが活気が無いわけではない。
簡単に言ってしまえば、どこにも馴染めない人間が集まって村を作ったという感じだろうか。
困っていれば助け合う、だが、深くは干渉をしない。
そんな程よい関係でこの村は回っている。
何より、私の住いに人が近づかないというのが良い。
少し離れた場所になるが、その近辺に『オニ』という化け物が出るという言い伝えがあるのだ。
当然、そんな場所には誰一人として近づこうとはしない。
おかげで誰の目も憚らず研究に集中できるというものだ。
気が付けば数年で村々を転々としていた私が20年もこの場所に居座っている。
何故、数年で転々としていたか気になるとこかもしれない。
だが今はそれを語るのはやめておこう。
それよりも最近穏やかな日々が崩れようとしていた。
この数日、何者かの視線を感じるのである。
巧みに気配を消してはいるが人であるのは間違いないだろう。
いつの世でも〝興味″という名の好奇心は向けられる。
だが、今回は妙にまとわりつくような感じを覚える。
相手が何か仕掛けてくるというのであれば仕方ないと思うが・・・
ある夜の事だった。その日もまた妙な視線を感じていた。
「やれやれ、こんな時間に私の庭をうろつくとは・・・・・・」
少しばかりうんざりしていたのだろう。自然とつぶやいていた。
因みに庭と言っているが手入れされた花壇がある訳ではない。
自分の住む古い館、アトリエから感じ取れる一定の周囲の事だ。
私がドアを開け外に出るといつもはどこかに消えて行ってしまう。そのはずだった。
だが、違和感を覚えた。
いつもなら動物や虫の音が聞こえるはずだが、その日に限って静かすぎたのだ。
明らかにこの地に招かれざる客がいる・・・
害を及ぼす存在なら排除、無害なら放置。私はそう決めていた。
場所を特定するのにより深く意識を周りに飛ばす。
自分を中心に広がっていく水面の波紋の様に。
3か所に反応がある。そのうち2つは野生動物のものだろう。
しかし、もう1つは・・・・
場所がわかると明かりを手に取り駆け出していた。
急がなければ助からない。そう感じたのだ。
理由は他にもある。だが今はそれよりも・・・・
近づくにつれ周囲に血の匂いが漂う。決して大量にというわけではない。
ただ、それに反応して近づく野生動物もいる。
抗う術が無ければ命だって落とすだろう。
そして暫らくの後、一人の少年を発見した。
「私が客を招くことになるとは・・・・」
自ら厄介ごとに足を突っ込もうとしている自覚はあった。
夜に少年が一人で山の中を傷だらけで倒れている。しかもここはいわく憑きときた。
もう、何かがあるのは明確である。
だが、救おうと決意したのも自分自身。
少年の手を取り脈の確認をする。弱いが連れ帰って治療をすれば十分間に合う。
気を失った少年をそっと抱きかかえると、その軽さにも驚いたが・・・
「傷が・・・傷が塞がっているだと?」
あれだけ匂っていたのだ。それなりの傷が・・・あるにはある。
だが、血が止まっているのだ。しかも瘡蓋などではなく別の何かで。
この少年の中から溢れてきたものなのだろう。
「そうか、やはり君も〝化け物″なのだな」
気配を探った時にそう感じていた。確信ではなかったが。
「神なんて信用しては無いが、君も運がいい。目が覚めた時にでも感謝するんだな」
返事のない少年にそう話しかける。
それは皮肉だったのかもしれない。