歯車1枚目
エピソ-ド 0 第一章
―狂った歯車(運命)―
どれだけの道を歩いたのだろう・・・・・
そんな些細な疑問もこの数日間考える事も出来なかった。
ただ、ただ兎に角、遠くに行かなきゃ・・
少しでも遠くに・・
この場から離れなきゃ離れなきゃ離れなきゃ・・・・
胸が大きな手に握りつぶされるように痛む。
喉に物が詰まった様に息ができない。
それでも体の奥から溢れていく思いに体が震えて足を動かす。
その時の僕にはその思いが『恐怖』だという事に気づかなかった。
いや、知らなかったのだ。
道なき道を歩き続けた結果、小さな体に限界が訪れてた。
体中には無数の傷が付き、服は破れ血や泥で元の色が分からないほどだった。
傷の痛みは感じなかった。
正確に言えば小さな傷には『慣れていた』のだ。
慣れていないのはこの胸の苦しさ・・・
もう息ができない。
もう足が動かない。
もう目が見えない。
止まる・・・何かが止まっていく。
僕の中にある物が部品の取れた歯車の様にどんどん止まっていく。
次の瞬間には根元から折れた木の様に地面に横たわっていた。
もう何も考えられない・・・
いや初めから何も無かったのかもしれない。
その時だった、耳に微かに人の声が聞こえた。
何を言っているのかもわからない。
それでも必死に首を動かす。霞む目に光る何かと動く何かが映った。
無意識のうちに右手を伸ばしていた。
どうしてそんな行動をとったのかはわからない。
だけど・・・
だけど、その時触れた手のぬくもりは一生忘れる事はないだろう。
それが『おじさん』との初めての出会いだった。
僕の意識は深い深い闇に優しく沈んで行った・・・・・