創造の閨房の奥秘で
悪霊のアスモデウスが、同じく悪霊の同僚のクラゲモエルに声をかけた。
「おい」アスモは、悪霊にしては澄んだ声をしている。心魂的な身体の咽喉の奥で、気息がごろごろと鳴った。「お前、ほらあの、なんだっけ、あれやってるんだろ、同人創作。あれどうなってるんだ」
「あれか」クラゲムスは、蚊の鳴くような声で答えた。「いや、なかなか。うまくいかなくって。」
「創作なんて、簡単にできるんだろ。だって、おれたち悪魔主義文芸の本家みたいなもののはずじゃないのか?」アスモはちょっと悪魔的にいじわるな気分だった。
「それが」クラゲムスは、からだごと蛍光灯の下の影のように、消え入りそうだった。「スランプでね。書いても書いてもだめだ。じつはぼくは-自然主義のほうなんでね。」
「ふうん、大変なんだな」アスモは、人間界でもしばしば大きな悲劇のもととなる、移り気の早い無関心さを発揮した。
「だめなんだ。-文体に生活感覚がついていかないんだ。」クラゲムスがぽつり、ぽつりと話しはじめたときには、もうアスモの姿はそこにはなくて、空気中の放射能と電磁波とPM2.5と量子化された重力をすべてひっくるめた、「空中の権威の全体社会」システムは、次なる憐れな獲物となる人間を捜して、豹のように飛び掛かる身構えを、夜明けのない諸世紀にわたる薄明のなかで整えつづけるばかりなのだった。
アスモは、軸非対称な羽毛をばさり、と動かして、ちょっと不思議に思った。-自然主義文芸なんて、簡単じゃないか。新聞を読めよ。