男子三日会わざれば、刮目して見よ
不正によるランキング操作――。
そんなものを駆使しても、あなたにとって何の役にも立ちません。
利用規定に違反するからというのではなく――。
手を染めた時点で、見えない爆弾を心に抱えることになるからです。
自分の可能性を信じられず、機械に頼り――。
はかなき喜びのあとに停滞し、退化したあなたは……。
本物の『龍』に出会ってしまったとき――簡単に心が折れるのです。
こんな方法でしか評価を貰えない作品を、自分は書いていたのだ、と。
何度倒されても、立ち上がれる魂を持っていたはずなのに……。
いつわりの光をもとめ、たった一撃で砕け散るガラクタへと変えてしまう。
愚か……それは実に愚かな行為なのです。
× ×
ある日――。
とうとう異変が起きてしまいました。
「なんだ……なんだこいつは……」
青ざめた顔となった魔王は、声をふるわせながら水底を覗きます。
そこには……水圧という鎖を引きちぎりながら、猛スピードで水面へと昇ってくる一匹のお魚の姿がありました。
「あいつは……まさかそんなッ!」
魔王は悲鳴じみた声を張り上げます。
そのお魚は……魔王が気まぐれでブックマークをつけた稚魚が成長した姿だったのです。
そのウロコは――どこもかしこも傷だらけ。
何度も誘惑という釣り針から逃れたその唇は……ボロボロです。
「ハ、ハハッ……お、おまえも工作をしたのか?」
かすれた笑い声を上げながら、魔王は震える指でマウスをクリックします。
そうだ、そうに決まっている”
結局あいつも、あの深海の冷たさに耐え切れなかったのだ。
そうだ……それでいい。
このクソったれなサイトでは、それしか浮かび上がる方法などないのだから!
「な……」
そして魔王は――稚魚の作品に戦慄を覚えます。
「馬鹿な……まるで、まるで別人じゃないかッ!」
魔王は“愚か”ではありましたが……
相手の力量がわからないほどの“阿呆”ではありませんでした。
「なんだよこの作品のレベルは……感想は……」
評価数やブックマーク数は、工作をしていた魔王のほうがずっと上でした。
ですが……感想の“質”がまったく異なっていました。
稚魚に送られた感想は、何行にもわたり思いが書き連ねられ……。
良いことばかりではなく、しっかりと改善点の指摘もあったのです。
対する魔王の感想は……。
どれもこれも一行程度しかない薄っぺらいものばかり。
あっても決して魔王を認めない――オブラートに隠された皮肉ばかり。
そこから導き出される答えは、たったひとつ……。
『ルオオオォォーッッ!!』
そして気高き咆哮と共に稚魚の姿が……
なろうという名の世界に棲む――本物の『龍』へと変わっていきます。
「あっ、ああ……うああっ……!」
この世界の摂理すら変えかねない龍の咆哮に、魔王はすくみあがります。
戦闘力とは――。
本当は何であるのか、魔王は気付いていました。
「……勝てない……」
作品に注がれた“愛”に、絶対的な差がありました。
磨き上げ、選び抜かれた言の葉に、しっかりと伝えたいという心が宿っていました。
いつわりなき魂の咆哮は、幻想と夢想で作られた闇の衣を掻き消し――。
魔王は龍と戦うことなく……ただのお魚の姿に戻っていました。
「俺の力では……俺の作品ではあいつには勝てない……」
彼我の差は、もはや歴然でした。
ポイントに固執していた魔王に比べ……稚魚は、確実に進化していたのです。
いくども押しつぶされそうになりながらも――。
誘惑に負けることなく、稚魚は己の可能性を信じ続けてきたのです。
『……いい夢は見れたか?』
打ちひしがれた魔王の背中に、冷たい声が届きます。
「あんたは……」
『私は……悪魔に堕ちてしまったお前の“影”だよ』
そこには……真のラスボスが立っていました。