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生物的、機械的、精神的、音。

作者: ヒロヲ

音を聴いている。私は二階建ての一軒屋、それの二階にある和的寝室に置かれたマットレスの上で左耳を下にして体を横たえている。冬の寒い日で、自分の体温の熱さがすこし心地良い。スマートフォンを見るともなく電源を付けたまま持っている。

そんな中、音が鳴りだす。とても機械的で、潜水艦が深海で周囲の闇を慎重に測る音に似ていた。ぽぉーん……。ぽぉーん……。靄のかかっていた意識が、水中で力を抜いた身体のように浮き上がる。

きっと耳鳴りと同じ類いの現象だろうと思う。この家屋には少なくとも潜水艦のソナー音を集めたLPレコードもCDもないはずだから。ぽぉーん……。 左耳は闇の中の一点の光を辿るようにその音を必死に追いかけている。その音には不思議なカリスマ的とでも言えるような魅力があった。

左耳の下は枕ではなくクッション、更にその下にはマットレスがあり、その下は和的畳があった。10畳の部屋には煩雑に置かれた服や段ボールなどの荷物たちと少し大きなテレビ、ウィンドウズエクスプロウラの箱……。クッションには綿が詰まっている。私は昔からクッションが好きだった。プラスチックのストローを雑に切ったような筒や鳥のはねが入った枕よりは綿のつまったクッションの方が好きなのだ。例えばベッドメイクされ整然とした枕やシーツは妙に排他的で落ち着かない。綿のつまったクッションはどことなく受け入れてくれるような気がするのだ。わたしは綿のつまったクッションが好きだった。

私はそんな綿のつまったクッションを左耳の下にして横になっている。ぽぉーん……。音はまだ続くようだ。音はとてもクリアに私の内側へと突き刺さり、次第に現実味を失っていった。音はまるでクッション、綿、マットレス、畳の更に下、和的建築を越え、落ち着きや排他的な部分も乗り越えて、非現実の潜水艦から現実の私へ聴こえてくるようだった。ぽぉーん……。 音は機械的で、丸い心を少しずつ、確実に、撫でるように私に刺激を与え続けた。機械的で優しさはないものの、不思議と落ち着く音だった。

時計の音に耳を傾けていると自然気分が落ち着いてくることを思い出し、人間は刺激の小さな音を断続的に聞き続けると落ち着きを覚えるのかもしれないな、とそう思った。


ぽぉーん……。

音を聴いている。私は二階建ての一軒屋、それの二階にある和的寝室に置かれたマットレスの上で左耳を下にして身体を横たえている。まるで身体の動かし方を忘れたように動かず、小さな音が身体を支配している。冬の寒い日だが、気にはならなかった。

その音はいつまでもいつまでも定期的に機械的な響きでやって来るように感じられた。 ぽぉーん……。 すると自分も少し機械的になったような気がした。横になったまま見ること無く開いていたスマートフォンの画面が映像編集のように遠くなる。意識に靄がかかり、遠くに大きなものを感じる。ロボットのように重い身体が泥の中へ沈んでいくような感覚を覚える。ぽぉーん……。深海を漂う潜水艦など気にも留めずに沈んでゆく。ぽぉーん……。ぽぉーん……。ぽぉーん……。



私は

充電が切れたように

眠った。

挑戦の習作です。少しでもお楽しみ頂けたならば光栄です。

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― 新着の感想 ―
[一言] とても惹きつけられる作品でしたっ! 枕から綿のクッションに変えてみようかな……? 『音』を基調とした描写が素晴らしいです(*´∀`*) 素晴らしい作品を生み出してくれてありがとうございます…
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