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反省会

 金沢が去った後。


 沈黙を破ったのは波潟がノートを取り出す音だった。


 「何?それ」覗き込んで、聞く。


 「フライトの後、ノートを書くようにしてるんです。忘れないように」


 「へえ」


 正直言って、目の前の男がそれほど几帳面な人間には見えなかったから、少し感心する。


 波潟がそれを書くのを見つめる。


 四本のリボンは(もつ)れ合い、絡み合う。


 うち二本は、途中で消えている。消えているのは、私と敵機だ。


 途中で見ている暇をなくしたのだろう。むしろ、そこまで見ていたことの方が驚きだった。


 一段落したようだったので、ペンをとって書き足す。こうやって見るとわかりやすい。


 ……………しかし、慣れていないのか、なんなのか。どちらが書いたのかが一目でわかるような出来だ。


 一部ずつ付け加えていって、空中戦を俯瞰してみる。


 「確かにここは誘導してもらった方がよかったわね」


 特に、と言いながら空中戦が始まってから大体80秒ぐらいの地点を指差した。


 「えぇ、ここで私が敵を左側に寄せることができれば、うまく隊長機の前に誘導できたはずです」波潟がうなずく。


 そのあと……、そう、そのあと、波潟の後方についた敵機を攻撃、離脱した波潟に後方をカバーしてもらう。


 思わず舌打ちしそうになる。あの時思いついていれば……という事は、上空では通用しない。歴史にifは存在しないと言うが、歴史でも日常生活でもifなどと言う物は存在しないのだ。


 亜音速域で行われるドッグファイトには、昔から……それこそ、第一次世界大戦のころから言われていることが通用することが多い。


 曰く、先に見つけ、先に攻撃しろ。


 曰く、太陽を背にして攻撃しろ。


 曰く、六時方向をいつも気にしろ。


 しかし、それらの教訓はいざ飛んでいるときには思い出せないことが多い。


 ()し掛かるG。


 見失いそうになる敵機。


 人間が行うはずのなかった立体機動バーティカル・コンバット


 そんな中で、普段通りに考えろという方が無理なのだ。


 だからこその訓練なのだが……。


 「やっぱり、F−2でF−15を墜とすのは結構きついですね」


 そうなのだ。


 F−2は旧カテゴリーでいうと支援戦闘機。平たく言えば半分攻撃機だ。基本的に、ミサイルを抱えて超低空を突破して、敵艦隊に打撃を与えるという思想のF−2では、純粋な制空戦闘機であるF−15に勝つのはきつい。


 勿論、F−2の方が初飛行は後だ。CCV機動もできるし、主翼は炭素繊維強化樹脂を使っている。しかし。


 「やっぱり、ハイ機とロー機の差ですかね」


 「F−2はもとはF−16だからね」


 F−15は最強の戦闘機を目指して作られた。それによって生じた、値が高くて揃えられない数を、軽量安価なF−16がうめる。これがハイ・ローミックスという考え方だ。必然的に、軽量安価なF−16が弱くなる。


 低空ではF−2だって負けないぞ、という話もある。しかしそれは、F−2の海上迷彩が、日本の空域である海上にあっているからだ。……低空?


 「波潟、低空から上がってきてF−15に対抗できる?」


 「…………どういう事ですか?」


 「私が先行して、貴方は下から回り込む。ただ………そうね、どうしたら相手に見つからず低空まで加速できる?」


 「そうですね………隊長機の真後ろに付けて、隊長機の陰に隠れてます。F−2の前面投影積は結構少ないですから」


 「じゃあ、わたしがクロスして、相手が旋回したら降下。私が左旋回して相手を後ろに付けるから、ビーム上昇で敵の腹をつく」


 「……………そうですね。それがいいのでは。私が攻撃したら、右にブレイクしてください。たぶん、片方を仕留めそこなったらオーバーシュートしますから」


 「よし、じゃあそれで」


 作戦は決まった。

大体八十秒……空中戦は、大抵三分から五分で終わるが、二、三十分戦い続けた例もある

支援戦闘機……旧呼称。F-2は機動性を犠牲にし、主翼を拡大することで燃料と兵装を確保した。

ハイ・ロー・ミックス……ハイだけでいい、というほど金がない場合、高性能高価格機と低性能低価格機を併せ持つことで戦力を確保する考え方。二機種持つことで整備代が高騰するため、そこそこ以上の軍でないと効果が出ない。

炭素繊維強化樹脂……要するに、カーボンファイバーを使ったプラスチック。

前面投影積……前面から見た大きさ。小さいと見えにくく、レーダーにも映りにくい場合が多い。

ビーム上昇……最高速度から引き起こして一気に上昇する上昇

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