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三機

 「実はな……高幡さん、二次日本戦争で僚機を3機失くしたんだ」


 聞いて驚く。僚機をなくしたことにではない。3機、という部分だ。


 「普通に考えて。3機も一回の空戦で失うのは珍しい。第二次世界大戦のころはともかくな。それだけなら偶発的な不幸で話が済む。それだけじゃなかったんだ」


 多少語り方が回りくどいが我慢する。聞いているのはこちらなのだ。


 「それで、どうだったんですか?」


 「敵は3機。二機フランカーで、1機がフォルクラム。二機編隊と単機だった。【政治的理由】でスパローは使えなかった」


 そういって、金沢は手で敵編隊を表した。一本指が二本指の上後方に位置する形だった。


 「それだけでも大分ありえないだろ?単機なんて。四機編隊だった高幡さんは二機フランカーに、二機フォルクラムで対抗した」


 「編隊を先に崩したの?」


 隣の笹原が訊く。金沢は頷いて、視線を返した。


 「編隊四機で当たるにはフォルクラムは離れすぎていた。高幡と二番機はアフターバーナーを炊いて上昇、三,四番機はそのまま突入。ここで問題だったのは西には絶対に撃てなかったことだ」


 「西に撃てない?」


 思わず訊く。


 「そうだ。本土に近く、ミサイルが到達する恐れがあった。サイドワインダーの射程は18キロだが、戦闘空域は高く、偏西風やモンスーンの影響もあって……という事らしいが。少なくとも、後になって電卓を叩けば届かないとわかる。でもコックピットでも司令部でも、悠長に電卓をたたいている余裕なんてなかった。だが相手は違う。ミグはミサイルを発射。一発ずつな。避けないわけにはいかない。フレアを放出して左右に逃げる」


 金沢は手でクロス・ターンするイーグルを示した。


 「……で、クロス・ターンをし終えたときには二番機の後ろに絶好の射撃ポジションについたミグがいた。…………脱出する暇もなく、バラバラに散ったらしい」


 そろえていた指を開いてから引っ込めた。あと残っている手は一番機と、ミグだけ。


 「――――そのあとミグを撃墜するまではまだ話してくれていないんだが……何とかミグを撃墜して、体勢を立て直した後に見えたのは火を噴いたイーグルとバーナーを炊いて逃げていくフランカーだったと。生き残ったのは、その二機だけ。追いかける燃料もない。スパローは撃てない。サイドワインダーは届かない」


 「それは………」


 悔しいのか、情けないのか。どんな気持ちだったかはわからないが。


 「だがもっと酷いのはそのあとだ。僚機を三機失った高幡さんは大分マスコミに叩かれた。墜ちていった内の一人の親も非難して、な」


 金沢は手を解いて、頭を掻いた。


 「その時はその親の気持ちが理解できなかったな。お前らは子供がいないからわからんかもしれんが。親は、子供がどんな職に就いたとしても死んでほしくないって思うんだよな。幸か不幸か、高幡さんは子供がいた。親の気持ちが痛いほどよくわかった。しばらくは子供が死ぬ夢を見たらしい」


 笹原は目を伏せている。軍でも自衛隊でも、敵に勝つ強さだけあればよかった時代はもう終わっている。


 「上は高幡さんを降格させた。それ以来だよ。高幡さんが大分後輩にきつくなったのも。分かってやれとも言わんが、教えは聞いておいて欲しい」


 話が大分重い。席を立って去る彼を、見送るしかできなかった。

フランカー……ロシア・スホーイ製製大型双発戦闘機。格闘戦能力はF-15と同等、アビオニクス(電子機器)などで劣る場合が多い

フォルクラム……ロシア・ミヤコン・グレヴィッチ製小型双発戦闘機。他は上と同じ。

スパロー……やや旧式の中距離セミアクティブ・ホーミングミサイル。誤射を避けるため、この時代、よっぽどのことがないと撃たせてもらえなかった。

単機……戦闘機の最小単位は二機編隊。それ以外は偵察か訳ありか僚機を失った帰り。

フレア……熱源。赤外線探知ミサイルをごまかすために使う。

クロス・ターン……編隊のお互いがお互いに向かってターンすること。死角が生まれないという利点がある。

ミグ……製造元の名前がニックネームになることはよくある。


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