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デブリーフィング

 「あの動きは何だ!」


 高幡二尉の怒号が飛ぶ。白いホワイトボードが揺れる。


 「えぇ?途中で相手を変える?二機で戦う方法もあるだろうっ」


 確かに、そうだ。あの時両方がブレイクするのではなく、一機は直進して囮になる手もあった。


 「波潟!お前も旋回に気をとられてのこのこスパイラルダイブについていく馬鹿があるか!」


 作戦は斬新だった。だが、2対2であることを活かす方法はもっとあった。F-2だからと言ってF-15に勝てないわけではない。囮になって左右に振ることはできた。CCV機動は即応性が卓越している。


 F-15は通常の油圧方式だ。アシストは入るが、フライ・バイ・ワイヤ方式に勝るわけではない。その後ろをF-15で狙い、撃墜する方法があったはずだ。


 「何とか言ったらどうだ?」


 「あの交差の時、波潟機を直進させ、囮にすれば戦えたでしょうか?」


 「無理だ」


 即答される。急いで理由を考える。高幡が睨みつけてくる。


 「元々後ろについていた敵機に撃墜されるからですか?」


 「そうだ」


 高幡二尉が目を細めて頷く。


 「オーバーシュートたらどうしょうか。ブレイクする間に急旋回して、できるだけ早く後方につけば……」


 「それが駄目だと言っているんだ!分かっているのかこの野郎っ」


 野郎じゃない……そう思ったが、言っている以上何かあるはずだ。何か……。


 「編隊長、私が振り切るふりをしてうまく編隊長の前に誘導することもできると思います」


 波潟が言う。


 「そうだ。今のデブリーフィングもお前一人で考えて話していた。なぜ僚機と相談しない?」


 分かってる。これまでも何回か言われていたことだ。


 「いいか?戦闘機一機が飛んでいるとき、百億円以上かかってるパイロットが、百億円の機体に乗って飛んでいるんだ。整備費もそれこそ何十、何百億とかかる。緊急脱出できても復帰できる確率はあまり高くはない」


 「単純に、戦闘機が一機墜落すると三百億円は失う。そのうえ他のパイロットにも迷惑がかかる。絶対に墜落してはいけない。絶対に被撃墜されてはいけない。多少脅迫観念があるくらいがちょうどいい」


 高幡は睨みつけてくる。拳を握りしめたことに遅れて気づく。


 「頼れるものは限界まで頼れ。頼り散らせ。迷惑は三百億円よりは安い」


 高幡が出て行ってブリーフィングは自然に終わった。会話を反芻する。


 金沢三尉がこちらを向いた。


 「せっかくだから、食事一緒にしないか?」


 「えっと……」


 「あぁ、ナンパじゃない。三人でだ」


 「僕もですか?」


 波潟が訊く。


 「そうだ。……高幡二尉、ちょっと事情があるんだよ」


 声のトーンを落として、金沢が言った。


 「その説明もかねて、だ」


 金沢は微笑んだ。

ホワイトボード……どうも、黒板よりもホワイトボードを使うらしい

ブレイク……鋭い旋回で相手の追尾をかわそうとすること

CCV機動……機体をわざと不安定に作り、それをコンピューターで無理やり飛ばすことによって機体がすぐに運動に移れるように作られた機体のこと

油圧方式……正確に言うと、操縦桿と舵面を機械的につなぎ、それをコンピューターで補助しているので、フライ・バイ・ワイヤと通常の油圧の中間の方式のようなもの

フライ・バイ・ワイヤ……機械的にはつながずに、電気的な配線でつなぐことで舵面を動かしている。操舵自体は油圧アクチュエータで行われている。操縦しやすい。

オーバー・シュート……相手の前に出てしまうこと

緊急脱出……ロケットモーターのついた座席ごと、機体から脱出すること。生存率や復帰率は高いものではない。

ナンパ……航空自衛隊では実は非公式のブリーフィングをナンパという、訳ではない。

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