VSベテラン
『オウル・ワン、空域の西端で反転、後続のシルバー編隊と対向せよ』
「了解。波潟、空域でレフト。いつも通り行くわよ」
「ツー」
打てば響くように返事が返ってくる。後続のシルバー編隊、編隊長は四期先輩の高幡二尉。僚機は金沢一尉だ。F-15J二機。F-2AとF-15Jのオウル編隊よりも向こうの方が有利。それに高幡はベテランだ。多分、セオリィ通りに攻めれば間違いなく負ける。
そのために、作戦を考えてきた。
操縦桿を左に倒し、旋回。
二番機は何も言わずについてくる。
コントロールからの通信。
『両編隊、対向を確認。状況開始、状況開始』
マスター・アームズ・スイッチを中距離AAMに入れて、歯噛みする。
F-2Aのレーダーは、10マイルに接近するまでコンタクトできない────戦闘機としてはあまりにも致命的だ。原因もわかってきて、改修すれば直る、と言われてはいるけど…………
何にしても、今役に立たない。
レーダーをスーパー・サーチモードに。
編隊を組む二つのダイヤ型のサークル。
ロックオン。すぐに、AIM-7スパローを模擬発射する。
当たり前だが、【最大射程】、つまりミサイルの最大距離で発射したので、ブレークする機体には当たらない。
だが、こうするしかない。F-15のAN/APG-63パルス・ドップラーレーダーは一度に一機しかロックオンできない。ミサイルで脅して距離を縮め、F-2の攻撃可能範囲まで接近するしかない。
接近しても、相手はベテラン。
波潟機が先行。作戦通りだ。
一瞬だけ、エアブレーキを立てる。
たちまち、F-2の青く小さい機影が前方に小さくなる。
瞬発性に優れるF-2の初撃は早い。左右にブレークした敵編隊は、こちらに機首を向ける。
だが、そこはもうすでにF-2の戦闘範囲だ。
アフター・バーナーで突入。増槽装備のF-15の最高時速、マッハ1.4だ。
F-2は機首を鋭く上げ、急上昇する。
F-15の片方がそれを追う。バック・アップに一機。こちらに向かってくる。
--------------------------------------------------
パワーで勝るイーグルに上昇をかけるとは────。
高幡は目の前で急上昇するF-2を見て思う。
すぐに追いついてゆく。
敵の速度は結構、落ちている。
戦闘中にエネルギィを損失することは、死につながる。
近い。マスター・アームズスイッチを〈GUN〉に。
サークルが青い小さい機体を捉える。
射程に入る────そう思った瞬間。
青い塗装の機体は突然、空中で停止するかのように機首を上げる。宙返りにいれる気か?
──いや、違う!
F-2は水蒸気を引く。まともな機動じゃない。
CCV────運動能力向上機だからできる技だ。速度を落とし、失速して自由落下に入れる。
だが、エネルギィも機首方位もこっちの方が有利だ。反転して立て直す!
操縦桿を引き、急降下する。F-2はそこにいた。
しかし、そこにいたのは逃げるF-2だけではなかった。
---------------------------------------------
「ツーは二番機を!」
Gがかかるコックピットで叫ぶ。叫んでも小さい声しか出ない。でも、ちゃんと聞き取れたはず。
青い小柄な機体とすれ違う。真上を向いたF-15の先にはこちらに機首を向ける高幡機。
向こうは高度が高いが、高G機動で速度が無い。
こっちは高度が低いが、水平加速で超音速。
戦える。機体を傾け、斜めに回り込む。
向こうは真っ直ぐに引き起こして、こちらの後方に回り込もうとする。
このままじゃ後ろ上方につかれる。絶好の射撃ポジション。
引き起こしながら機体を捻る。
バレル・ロール。
相手も同じような機動を繰り返す。
息が苦しい。
腹筋に力を入れる。
堪える、キャノピーの上の方に何とか青灰色の機体を睨みつけながら。
あきらめた方が負ける────。
機体の速度はどんどん減っていく。
相手の後ろに、相手の上に。
息が苦しい。
二番機の援護にも行かないといけないのに……。
反転……180度回頭すること
レフト……ここでは左旋回
僚機……二番機
セオリィ……常識。
コントロール……管制センター
マスター・アームズ・スイッチ……火器管制選択スイッチ。これで使用する武装を選ぶ。一度に二つは選択できない。
中距離AAM……中距離射程空対空ミサイル
コンタクト……発見、探知
スーパー・サーチモード……最初にコンタクトした敵機をロックオンするモード
AIM-7スパロー……ベトナム戦争時から使われている旧式中距離AAM
ブレーク……急速離脱
AN/APG-63パルス・ドップラーレーダー……F-15搭載のレーダー
エア・ブレーキ……空気抵抗で減速する。F-15は背面、F-2は機体後部にある。
イーグル……F-15
GUN……機関銃
CCV……運動能力向上機。コンピューター制御で機動性が高くなっている。
超音速……音速(音の速度)よりも速い速度
コックピット……操縦席
バレル・ロール……樽の内側に沿うように横転する事。螺旋状に起動する。
キャノピー……戦闘機の風防。窓




