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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

さよなら、キティ

作者: 丸屋嗣也

注意:猫好きの方は読まないでください

   


「おいで、子猫ちゃん(キティ)

 指を何度もくいくい折ると、首元の鈴を鳴らしながらそいつはやってきた。こいつは人懐っこい。椅子から下ろす足元によってきたそいつは、楽しげに僕にすり寄ってくる。ごろごろと喉の奥を鳴らして目を細め、何度も体を擦りつけてくる。

 ふむ。

 ぼくはバインダーの上の書類に丸を付ける。

 『人間への警戒度は低いか』……。ぼく相手にまるで臆さないのだから、丸、だろう。

 ハッキリ言おう。ぼくは猫なんて嫌いだ。ハイ・スクールでの夏のダンスパーティの時に、意中の相手と踊ろうと手を差しのべた瞬間に闖入してきた白猫によってハチャメチャにされて以来、およそ猫という生き物に好意を持ったことはない。その印象は歳を重ねても変わらない。大学受験の直前にぼくの前を横切った猫、プロポーズの直前に窓辺であくびをこいていた猫、そして、アメリカ屈指の生物学研究所行きの切符がかかった面接の直前に僕の顔をひっかいた猫……。そうだった。猫はいつも、ぼくの人生の分岐点でぼくの邪魔ばかりするのだ。みんな、猫ほど邪気のない生き物はないという。かつて愛しのマイハニーだった人だってそう言った。でも、僕は断固として、猫は悪魔の眷属であると疑わない。

 そんな敵意剥き出しのぼくにすら媚を売るこいつは、間違いなくこの計画において有用な猫だ。

 目の前でぼくを上目がちに見据える白猫は、大きく口を開けた。まるで、ぼくに笑いかけているかのようだった。

 だが、それが許せなかった。

「悪いが、ぼくは君を可愛いとは思わない。ぼくがきみを子猫ちゃん(キティ)と呼んだのは、あくまで君たちのことをそういう風に呼べ、と命令があるからだ」

 一瞬、猫は目を細めた。が、またすぐに元の丸っこい目をぼくに向けてきた。だが、ぼくの怒りに気づいたのだろう。俊敏に身を翻して部屋の端っこで丸くなった。だというのに、またすぐに僕の方に寄ってきた。邪魔くさい。仕方なく僕は猫用のボールを投げた。鼠をイメージしたそのボールが部屋の隅に飛んでいくや、猫はそのボールにパンチをくれはじめた。

 それにしても、ばかげた話だ。椅子に座ってぼくはため息をついた。

 猫にさんざん人生を引っ掻き回されてきたぼくが、なぜ今になって猫に関わらなくてはならないのだろう。神様っていう奴はとてつもない皮肉屋に違いがない。

 二流の大学を出て、大学時代からの恋人へのプロポーズに失敗し、一番行きたかった生物学研究所への入所が叶わなかったぼくは、とにかく生物の研究がしたかった。それこそ、大学の研究室や大きな動物園、私立の怪しげな研究機関まで門を叩いた。が、ぼくを雇ってくれるところはなかった。だが、そんなぼくを、なぜかCIAが拾ってくれたのだ。

 CIA。あのCIAだ。ソ連のKGB相手にドンパチやり合ったり、世界中で諜報戦を展開しているとかいうあのCIAだ。CIAのクライアントがぼくに接触してきたとき、僕は彼に云った。『申し訳ないですが、ぼくはスパイなんてできないですよ』と。するとTシャツにジーンズというラフでいかにもアメリカンな格好をしたクライアントはにっこりと笑い、『人間には向き不向きがある』と意味ありげなことを言った。

 結論を言えば、ぼくはいま、CIAの研究室にいる。どうやら、ぼくはCIAのスパイのために、その手助けとなる道具を開発する役目についているらしい。

 なのに、ぼくはいま、一月ほどずっと猫をある一定の基準をもとに選り分けている。

 その基準はこうだ。

①人に懐きやすいこと

②健康かつ、人間の目から見ても魅力的であること

③あまり活動的でないこと

 ……いったい、CIAは何をしたいというのだろう。

 だが、ぼくはもう学生ではない。哲学めいた、言い換えるなら深淵すぎて眠気すら催しそうな実験――に学生の四年を捧げさせようとする教授を殴りつけるような真似はできない。上役を殴りつければ色々と支障が出る。それがこの自由の国・アメリカの不自由というものだ。

 いずれにしても、ぼくはひたすら猫を選り分けている。

 もう何百匹見てきただろう。猫、と一言で済む中に、それこそ人間の個性にも似た個性があることを思い知らされた。気まぐれな猫、従順な猫。活発な猫、おとなしい猫。頭のいい猫、頭の足りない猫……。

 そして、猫通になりつつあるぼくは、気づき始めていた。

 今目の前にいるこの白い猫こそが、ぼくの、そして、CIAの探していた猫なのだと。

 ぼくの視線の意味が分からないのだろう、猫は小首をかしげた。

 と、不意に猫がぼくの膝の上に乗った。

「うわっ」

 思わず声を上げる。だが、猫はそんなぼくのことなど知ったことではない、とばかりにぼくの膝をベッド代わりに丸まって寝息を立てはじめた。

 馬鹿な生き物だ。心からそう思う。

 モルモットは決して懐かない。元々モルモットには『懐く』という行動概念が存在しないのだろう。だが、時折、『同胞を殺しまくる人間になんか懐くはずがない』と、いささかのロマンチズムに陥るときがある。

 だとすれば、この猫は本当のバカだ。

 ぼくに懐いたところで、何がどうなるものでもないのに。

 膝の上に体温を感じながら、ぼくはひたすらに戸惑っていた。


「そうか」

 上役のマイクは革張りの椅子の背もたれに寄りかかり、僕のことを下目がちに見た。

 ぼくはいつも、この上司の視線にびくついてしまう。噂によれば、マイクは第二次世界大戦の際に敵国に侵入してアメリカのために情報を幾つも盗み取ってきたという。きっと、ぼくなんかには分からないような地獄のような世界を歩いてきたのだろう。顔の深いしわの奥から、魔がこちらを覗き込んでいるかのような、そんな凄味を感じさせる。なりは、ネクタイにダークスーツ、なんていう普通のおっさんにも拘らず、だ。

 そのマイクは、下目でぼくを睨みながら首をかしげた。

「で、その猫というのは、命令書通りなのか」

「ええ」ぼくは頷いた。「人懐っこいくせにあまり活動的でなく、健康です。ま、可愛いかどうかはぼくには分かりかねますが」

 マイクは小さく笑った。だが、目は笑っていない。

「なんだ、お前にしてははっきりしない言い分だな」

「猫は苦手なもので。どの猫を見ても悪魔にしか見えません」

「そうか」

 マイクは上体を起こして、ぼくの顔を覗き込んだ。

「ところで、お前は大学で何を学んできた」

「はあ、生物ですが」

「一応お前に聞いておくぞ。1965年現在、世界の調和を乱しているのは誰だと考える」

「ソ連、と、アメリカですね」

 マイクは手を叩いた。

「答えの前半は模範解答、後半はいい諧謔(エスプリ)だ。だが、CIAで口にするには少々勇気の要る諧謔(エスプリ)だな」

 嘘じゃあない。

 アメリカとソ連のいわゆる冷戦は、確かに核兵器による全人類の滅亡は防いでいるのかもしれない。しかし、その代償として世界中に戦争の火種を振り撒いている。戦争で死んだ人間にとって、全面核戦争だろうが冷戦の火種だろうが関係はない。一個の人間の死は、いかなる死に方をしようが等しく「死」でしかない。ベトナムの北爆で死んだ人も、収容所で拷問の挙句に殺された人も、結局は、この時代のために死んだ人という点では同質だ。

 ま、こんな言葉遊びはさておいて、だ。そうマイクは切り出した。

「いずれにしても、アメリカの研究は常に世界の安定のためにあると言っても過言ではない。NASAの金食い虫事業……もといアポロ計画だって、アメリカの科学技術を世界に見せつけて威圧する意図がある」

「へえ、ということは」ぼくは両腕で天秤を作った。「ぼくの今やっている猫の世話にも、何かその『世界の安定』とやらのために役に立つのですかね」

「立つ」

 真面目くさって頷いたマイクは、机の端に置かれていた書類をぼくに回してきた。そして、意味ありげに顎をしゃくって見せた。読め、ということだろう。

 堅苦しい行政文書だ。これなら理論物理学者の論文のほうがまだインタラスティングの欠片があろうというものだ。それに、行政文書には独特の修辞があって、その文章を読んだ後、自分の言葉に変換してやらなければはならない。翻訳みたいなものだ。とにかく、一度通読してから、頭の中にこの文書の意味するところを浮かび上がらせた。

 そうして初めて、ぼくはぼくが関わっている仕事の全容を知った。

 何も言えずにいると、マイクは口角を上げた。

「どうした? なにか不都合なことでも書いてあったか」

「いえ、別に」

「読んでもらって分かったと思うが」マイクはその鋭い目を僕に向けた。「この計画にお前が選ばれたのは、ひとえにお前が猫嫌いだからだ」

「でしょうね」ぼくは同意した。「もし猫好きがこの仕事をしていたら卒倒するでしょう」

「そういうことだ。とにかく、上はお前に相当の期待を置いているということだ。当然私も期待している」

「――ええ」

 この計画が成功すれば、ぼくのCIAの中での地位は上がることだろう。もちろん、ぼくは技官だ。技官の上がりなどたかが知れているが、内部で出世すれば、やがてどこかの大学から招聘されることだって十分にあり得る。そうなれば、研究者として左団扇の研究が出来るようになるという寸法だ。

「で、いつからこの計画に着手すれば」

「ああ、そうだな」マイクは顎に手をやった。「もう既に予算は下りている。猫の選別は済んだ。あとは、機械部門の連中の開発がどれほど進んでいるかだが――」

「あと、ぼくらがやらなくてはならないのは、猫の気まぐれで移り気な性質を、どうこの計画に沿うように矯正するか、ですね」

「ああ。その通りだ。そこはむしろお前の管轄だろう」

 勝算はある。

 

 研究室で書類を読んでいると、猫がぼくの顔を見上げてきた。

「どうした、子猫ちゃん(キティ)

 だが、猫は答えない。ぼくの顔を見上げてみゃあとも鳴きはしなかった。その目はまるで、ぼくのことを恨みに思っているかのようだった。その視線が怖かった。

 ぼくは彼お気に入りのボールを部屋の隅に向かって投げた。しっかり見えるように投げたはずなのに、猫はそのボールに反応することはなかった。

 そうか、そうだった。

 ぼくは、ぼく自身がやってのけたことをすっかり忘れていた。

 猫の気まぐれな性質は、食欲に起因するものだ。猫が移り気なのは常に己の食事を捜し、隙あらば鼠を捕えてやろうという本能による。つまり、裏を返して食欲そのものを破壊してやればおとなしい猫が出来るのではないか――。そう思い立ち、ぼくは外科的な方法で以て猫の食欲を破壊した。その結果は上々だった。前までの落ち着きのなさは鳴りを潜め、むしろ鈍重にさえなった。

 そうして機敏だった猫は、のろのろと歩く猫ではない生き物になった。

 けれど、猫(もう猫ではないのだけれど、便宜上そう呼ぶ)の人懐っこさは消えなかった。

 猫はのろのろとした動きで僕の脇に寄るや、とん、とジャンプして僕の膝の上に乗った。膝の上からぼくの手に持っている書類とぼくの顔を見比べて、「何を読んでいるんです?」と言いたげに大きな目をこっちに向けてくる。

 ぼくは答えた。

「君が、猫でなくなる研究さ」

 今読んでいるのは機械部門からの仕様書だ。とてつもなく馬鹿げた内容に目に指を宛がう。性能を担保したいのは分かる。だが、その担保のために重さ一キロの機械を作りたい、とは。顔も見たことのない機械部門の連中に毒づく。あいつらは本当にあの命令書を読んでいるのだろうかと。

 ぼくはその仕様書にばってんをつけ、「重さを検討、最低でもこの半分を希望する」と書き添えて、書類ボックスに投げ入れた。

 猫はぼくの腹に寄りかかってきた。

 重いんだけど。そう文句を言っても、猫はやめようとはしない。みゃあ、と短く鳴いて、自分の重さをぼくにぶつけ続けた。

 不思議なもんだ。

 猫としての本能である気まぐれを奪った。それゆえに、今目の前にいる猫はその人懐っこさだけが純化しているかのように思える。それは、かつてぼくの人生を邪魔してきた猫のそれとはまるで様相が異なる。人間の、つまりはぼくのいうことを聞くように作られた生き物は、ただぼくの膝の上にあって微睡の世界とこの世界を行き来している。

 ふいに、ぼくが一生を添いたかった、あの相手の顔が思い浮かんだ。ぼくのプロポーズを袖にした人だ。

 あの人は、ぼくを振った時、こう云った。

『あなたは、誰も彼も自由になると思ってる。でも、わたしはそれが我慢ならないの』

 そうかもしれない。

 でも、この世界を自由に動かしてみたい、というのは人間の本能と呼ぶべきものだ。その志向があったからこそ人は自然を征服し人間のテリトリーを広げ、やがて異民族をも征服した。アメリカの例で言えば、卑しくもアングロサクソンに挑んできた東洋の島国を圧倒的な物量で押し潰したのだ。

 アメリカの夢? 違う。人類の夢だ。

 そして、そのために科学技術はある。

 膝の上に乗っている猫は、人類の夢を形にするためのキメラだ。

 神の御心? そんなもの知ったことか。そんなもの、人類の夢を前にすれば古ぼけた懐中時計よりも無価値なものだ。

 ぼくは、膝の上に乗る猫を撫でた。

 初めて、猫という生き物を可愛いと思えた瞬間だった。膝の上に座るそれが、ぼくが作ってしまった猫のキメラだということを棚上げしながらも。


「ついに、この日が来たか」

 マイクと僕は、ワシントンの真ん中に立っていた。ダークスーツにハット姿のマイク、そしてくたびれたスーツ姿のぼく。どちらもワシントンDCでよく見る人々の姿だ。ぼくの手には猫用のゲージがある。

「実地の最終試験だ。成功させろ、必ずだ」

「はい」

 ぼくは頷いた。

 と、ぼくらの後ろにいた男が割り込んできた。アングロサクソン、ということ以外に何ら特徴がないひょろりとした男だ。マイク曰く、CIAのさる部門で名の知られた人らしい。技官のぼくからすれば、二度と会うこともない雲の上の人だろう。

「さあ、早く、結果を見せてもらいましょう」

「ええ」

 きっとこの人が試験官だ。この計画が有用なものであったかどうかの。

「手筈は先の打ち合わせ通り」

 ひょろり男の言葉にぼくらは頷き、大通りの向こうにある大きな建物――ソビエト大使館を見上げた。

 計画はこうだ。

 ゲージに入った猫を解き放ち、ソビエト大使館の敷地内まで走らせる。そして、辺りを散策させてまたこのゲージにまで戻ってくる。

 ただこれだけのことだ。

 ぼくはゲージを地面に下して、入口を開いてやった。すると、猫がのろのろとゲージから出てきた。

 頷き合ったぼくらは、猫に命じた。

「行け」

 が、猫はぼくのことを見上げるばかりで動こうともしなかった。

「どうした、行け」

 猫には命令を聞くように様々な訓練をさせている。その辺の犬よりもはるかに従順になっているはずだ。

 だというのに、猫は動かなかった。

「行けと言ってるだろう!」

 ぼくは怒鳴った。

 すると、猫はその大きな瞳をさらに大きくして、みゃあと鳴いた。そして、くるりと踵を返してソビエト大使館へと走って行った。

 ようやく動いたか。ぼくが胸をなでおろした、その瞬間だった。

 大きなブレーキ音があたりに響いた。

 あ。

 ぼくは声を失った。ぼくだけではない。マイクも何も言わずに目を見開いた。

         ○

 研究室の空気はどこまでも重かった。

「実験は、失敗か」

 明らかに肩を落とすマイクの言葉に、空っぽのゲージを持つぼくも同意するしかなかった。

「ええ、失敗でした」

 あの時――。

 猫はソビエト大使館へ走って行った。だが、ぼくらのいた地点とソビエト大使館の間には二車線道路が横たわっていた。大使館の前で不審な行動はとれない、という判断のゆえ、道路を挟んだ反対側から猫を解き放つことになったのだ。

 とにかく、猫は二車線道路に駆けていった。だが、そこに猛スピードを上げるタクシーが迫っていた。

 ぼくの目から見ても、猫は避けようと思えば避けられる位置にいた。だが、猫は一直線に前に駆けていき、自らタクシーにぶつかっていった。

 結果、猫はタクシーに跳ねられ後続の車に轢かれ、原形をとどめない肉塊となった。

「なぜだ」マイクは頭を振った。「普通の猫ならあんなタクシーなど避けられるはず」

「二つあると思います」僕は答えた。「一つは、猫の本能である移り気を奪ったこと。これによって、猫の俊敏さが奪われたのでしょう。そしてもう一つは、機械の重さでしょう」

 機械部門の連中は、結局700グラムのものしか作れなかった。盗聴器っていうのはそんなに重いものなのか、といぶかしんだほどだ。ぼくとしては、マイクを耳に、中枢機械を胃に、そしてアンテナを尻尾に仕込むことによって重さを分散させる形を取ったが、それでも、猫にとっては相当な負担だったはずだ。

「だが、それは言い訳だろう」マイクは顎に手をやった。「お前も私も、相応の覚悟が要るだろうな」

「でしょうね」

 他人事のような受け答えに気分を害したのか、マイクは何も言わずに部屋から去った。

 誰もいない部屋の机の前で、ぼくはあの時の光景を思い出す。

 行け、と怒鳴った後の、あの猫の表情。

 あれは、ぼくをあざ笑っていたのではないか。わたしを支配することなんてできない。食欲を奪ってお腹に盗聴器を仕込んだって、お前になんて屈することはない、という、猫の昏い笑いではなかったか。自分の自由に動く世界なんてありはしないんだ、そう自分の体で示したのではなかっただろうか。本能を失ってもなお、猫は自分の気まぐれを通したのではなかったか。

 なんとなくやることがなくなったぼくは、机の上のラジオをつけた。

 そのラジオからは、ベトナム戦争のために南シナ海に展開する空母が爆発炎上したニュースが流れ始めた。

 ため息をついて、ぼくはラジオの電源を切った。

 そういえば――。いつもあったはずの何かがない。部屋を見渡してしばらくして、その正体に気づいた。

 いつもぼくの膝の上に乗っかるあの体温が、もう、今はどこにもない。

 ぼくは哭いた。ただただ、一人で。

 さよなら、キティ。

 もうどこにもいないぼくのキメラに別れを告げることだけが、今の僕に許された唯一の自由だった。


参考「アコースティック・キティ」 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC

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