策略
「少し、話しを変えます。
我々の星では、最近、永遠に近い命を持つ事は自然ではない、子孫を残し、限りある命を生きるべきだと主張する者たちが現れ始めました」
それは、静かに、大きな論争を巻き起こした。
もちろん、賛否両論。しかし、賛同者であっても、実際に自分が老い、命を失う日が来るという事には、否定的な者がほとんどだった。が、それが許される環境が整えば、すぐにでも限りある命を謳歌したいと願う者も少なくない。
そこで、不老不死を一切排除した環境の惑星を作り、そこに居住する権利を販売しようというビジネスの波が起こった。
「そこの者、ソウシは、EARTHに目を付けた」
「それは、いくらなんでも勝手過ぎませんか?」
大槻の言葉に、高城は深く頷く。
「もちろん、その通りです。
EARTHは、保護され、ヒト族の安全を優先的に守るべき不可侵の場所。
が、その者は、ヒト族さえ一掃すれば、この惑星は金になる、と、秘かにヒト族を絶滅させるべく動き始めた。
私が最初に感知した不正アクセスは、その者がEARTHに自分の分身を作った、まさにその時でした」
「そんなの、単なる邪推だろ? 儂はただ、EARTHで遊びたかっただけ。
不正アクセスは、確かによくないが、ちょっと遊んだだけだろ。
何の罪になるって言うんだ」
バカにしたように吐き捨てるソウシを、高城が正面から見据える。
「なぜ無闇にヒトを襲い、命を奪う必要がある?」
「遊びだって言っているだろ。
いらなくなって忘れ去られたおもちゃ、踏みつぶして何が悪い。
儂が殺さなくたって、どうせ百年も生きないで死ぬんだぞ?」
「ヒトはおもちゃじゃない!」
高城の怒声に、ソウシは一瞬、目を見開き、さらにいきり立つ。
「こいつらは、EARTHから出る事すらできないんだぞ?
最近は少しずつ宇宙空間に進出してきているらしいがな。それでも、次元を超える事はできない。この、三次元の宇宙空間から出る術までは、遥か遠い。
我ら一族の居住する場所まで到達する事はできない。
そんな奴ら、バーチャル以外のなんだというんだ」
「お前のような者が同じ一族だと思うと吐き気がする。
申し訳ない、全く、情けない限りだ」
「たかだかEARTHのゲームキャラに頭を下げるとか、ばっかじゃねえの?
こんなゲームにマジになって。擬人化とかおめでてえな。
何の証拠もないのに、人を犯罪者扱いしやがって」
ソウシの言葉を無視し、高城は話しを続けた。
「EARTHに不正アクセスし、自らの分身を作ったり、魔族を具現化させたり、操って人を襲わせたり、そう言った事は、多少システムに詳しいものだったら、実は難しい事ではありません。
が、中枢プログラムは厳重に管理され、ごく一部の者以外、アクセスは認められていません。
例えば、魔族は我々の一族には、絶対に危害を加えない、命令には服従する、といったものであったり、この星の生態系が一変するような重大なデータにはプロテクトが掛かっています。
アクセスできるのは、惑星の開発者の中でも、上位幹部のみ。
そのアクセス権限があれば、EARTHを思いのままにする事もできる。
この者は、そのアクセスキーを手に入れようとした」
「アクセスキー?」
大槻の問いに頷き、ロキを見る。
「アクセスキーは、開発者の退去に際しそのほとんどが持ち帰られ、現在、この星にはただ一つしか残されていません。
ロキ君、君が今手にしている、覇天だ」
ロキは、戦闘が終わり、黒い鞘に納め、清羅の証に戻しておいた刀を思い、胸元の灰色の石に触れた。