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黄昏のエッダ  作者: 羽月
終末
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瑞獣

 ふと、すぐ耳元で、ハッハッハという息遣いが聞こえた。はっと目を開け、顔を巡らせると、涙で滲んだ景色に、白と黒のブチ犬がみえた。


「アキ? どうして、ここに」


 アキは、くうんと鳴いて、ロキの頬を舐めた。傷を癒そうとしてくれているのだろうか。くうん、きゅうんと鳴きながら、しきりにロキを舐める。


「ごめん、アキ、もういいんだ。もう、わかったから」


 そっと愛犬に頬ずりし、終わったんだよ、と言いかけた時、アキが光に包まれた。

 光は太陽の様な、僅かに黄色を帯びた光球と、漆黒の光球に分かれて上空をくるくると周り、ロキの両側に降り、見る間に、それぞれ、水干姿の、年の頃十にわずかに満たない少年になった。

 ロキの左側に立つのは、日の光色の髪に、緋色の目、右側に立つのは、漆黒の髪と目、その色の違い以外は、全くそっくりな二人。彼らは、鏡で合わせた様に、同時に胸の前で両手を合わせ、右手を間接一つ分引下げ、すっと開いて打ち合わせた。


 パアァアァアァァァァン。


 柏手かしわでの音は美しく響き渡り、ロキの上空に、ひび割れた様に光の筋が走る。そこから漏れた光が円筒状に広がり、ロキと少年たちを包んでいった。

 呆気にとられていると、エンが光の中に滑り込んできた。右腕にレヴィを、左腕にオルトロスを抱えている。


「ふいー、助かった。ギリギリセーフだな。

 アキがこのタイミングで覚醒とは、まったく、お前の悪運にはほとほと呆れるぜ」


 エンたちを追ってきた妖魔が、光の中に入ろうとしてその姿を消し、反対側から現れる。きょろきょろと不審そうに見回し、再びロキ達に襲い掛かろうとするが、やはり、光を通り抜けてしまう。


「アキ殿たちは、結界の瑞獣。ここには主様に悪意あるモノは入れぬ」


 エンに傷を縛られながら、レヴィがそう言う。二人の少年は唖然とするロキの左側に並んで座り、それぞれ左手の人差し指の爪をすっと抜いた。

 彼らはロキの服を捲り、レヴィの鱗の隣に、白と黒の、勾玉の形の爪を咬み合せて押し付けた。ロキが自らの腰を見下ろすと、それは一組で陰陽の紋章となっている。レヴィと契約した時と同じく、そこから暖かいものが全身に広がり、傷が癒えていく。

 二人の少年は、そっくりな顔でにこりと微笑んで立ち上がる。


「ボクはアキ。狛犬の阿」


「ボクはフユ。狛犬の吽」


「ロキが名前をくれたから」


「ボクは死の闇から戻って来られた」


「それから、ずっと、一つの体に二つの魂」


「一緒に宿って育ってきた」


「やっと、幼獣から成獣になれた」


「やっと、ロキの本当の眷属になれた」


「ロキと、弟たちを傷付けるものは許さない」


 少年たちは、獰猛そうな獅子に姿を変え、咆哮をあげ、湧き上がる瑞雲を蹴って駆け出していく。二人の襲いかかる牙と、体から放つ光に照らされ、妖魔が混乱の中を逃げ惑う。


「おとうと、たち?」


 ぽかんとしたロキの言葉に、レヴィとエンが気まずげに小さく咳払いをする。


「アキ殿たちは、主様の眷属の第一位、ゆえ」


「まあ、俺たちの事だろうな」


 上空で神が目を見開く。


「なぜ、人ごときに、このような。

 狛犬は代々、神と神域を守護する眷属だったはずではないか。かくなる上は」


「そこまでだ」


 神が怒りに震える拳を握りしめ、右手を上げようとした時、よく通る声が空間に響き渡った。

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