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黄昏のエッダ  作者: 羽月
終末
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黒龍

「苦しそうだね、元海王。現王の御前だよ、ひれ伏さないでいいの?」


「ここはそなたの領域ではないだろう」


「僕の創造主の空間だよ。つまりは、僕の領域。

 僕は君より、深海の水圧に特化して創られているんだ。

 勝てるなんて、思わない方がいい」


 レヴィがギリ、と、奥歯を噛み、苦悶の表情を浮かべた。その背中の傷から体液が滲み、流れ落ちる。

 現海王と、能力値に制限のかかっている状態の、人に仕える無位の海龍では、操れる海水の差は歴然。黒鋼の現王は嗜虐的な表情でジリ、と、さらに水圧を増す。

 エンの振るうオレンジ色の鞭が飛沫をあげながら伸び、空中の少年を襲った。

 黒鋼の少年はすっと身を躱して溶岩の鞭を避け、レヴィを押していた波は、レヴィの呼んだ海水さえも巻き込んで向きを変え、エンを飲み込んだ。宙に浮いた球形の水の中で、溶岩から陽炎のようにゆらゆらと揺れる水が立ち昇る。


「エン!」


「ヴォルケーノの熱を冷ますために、密封空間を作って火を焚き、酸素を無くして火を消そう、なんて、なかなかいい案だったよね。

 今度は、こっちが同じ手を使わせてもらうよ。

 もっとも、水量も水圧も、さっきの君とは桁違いだけど」


 深い藍色の水球の中で、時折、チラ、とオレンジの光が瞬き、エンが苦しそうにもがくのが見える。

 深海を模すという現海王の水圧はどれ程のものなのか。

 わずかに、はっと目を見開いてただ立ち尽くすレヴィの頭上から、少年の笑い声が降ってくる。


「壊そうったって無駄だよ。

 海が、人の眷属になった君と、神の忠実なしもべたる現王の、どっちの言う事を聞くと思ってんの?」


 少年が右手を振ると、鋭く細い水が刃と化してレヴィを襲った。

 白波の刃はレヴィが咄嗟に作った海水の防御壁を難無く突き抜け、その左肩を深く引き裂いた。


「次は、足だよ」


 再び腕を振り、レヴィの左足を鋭い海水が貫通する。

 驚愕の表情を浮かべたのは、黒鋼の現王の方。

 海水はレヴィ側からバリバリと音を立てて白く固体化し、慌てて海水の放出を止めた現王の右腕ごと凍結させた。

 凍結の浸食は止まらず、苦悶の悲鳴を上げる少年の肩を、頬を、白く、ざらつく霜で覆っていく。


「次に襲う場所を教えていただいたことには、謝辞を述べねばなるまい」


 苦悶の表情のまま、左肩を抑え、荒い呼吸の合間にレヴィがいう。


「そなたが深海を模しているとするならば、私は極寒の不凍海域を模す。

 ほぼ流れの止まった深海の水が、寒暖の差激しく、潮流十ノットを越し、河川すら遡る表層の海水に、勝てるなどと思わぬ方がいい」


 レヴィの言葉が、最後までその耳に届いたかどうか。

 地に落ちた少年は、驚愕と苦悶の表情のまま白く凍りついた。

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