紫風
ばさり、と、羽ばたきの音を聞き、顔をあげると、冷たい目で見下す風魔。
ヴォルケーノの時と同じく、先日会った時とは雰囲気がまるで違う。ロキが愕然と見上げる視線の先で、右手を横に薙ぎ、紫の風に乗せた黒い羽を飛ばしてきた。
ロキの半身は、未だレヴィの体の下。避ける事も、レヴィを庇う事も間に合わない。咄嗟にレヴィの肩に手を回し、その部分だけでも庇おうとして身を固くした。
と、オレンジ色の鞭が、黒い刃を飲み込み、驚いて目を見開く風魔に絡みつく。背中の大きな黒い羽が、ばっと炎を上げ、黒髪の少年はキリモミ状態で落下し、地面に叩きつけられた。
ロキが振り向くと、怒りに瞳を燃え上がらせ、右手にオレンジ色に煮え滾る溶岩を巻き付けたエンが立っていた。
「ど、うし、て」
羽のほとんどと半身を焼かれ、口元から血を滴らせた少年が呻くように言う。
「ごめんね、風魔ちゃん。あんたもやらされてんのは、わかってんだけどさ。
主に手を出されちゃ黙ってらんないから」
「こんな、火力、だせるはず、は……」
「ヴォルケーノが、自分の体を使えって。
自分はこの空間でも制限を掛けられていない、だから、使えって、俺に」
最後は、ぎり、と奥歯を噛みしめるように、エンはそう言った。
「あり、がと。焔魔さん」
苦しそうに呻きながら言う風魔を、さあ、と海水が包む。
ロキははっとして、やっと起き上がり、足を投げ出すように座ったままのレヴィをみた。
「とめて、くれて。海龍さん、も、ロキさんも、ごめん。ごめん、ね」
地に倒れ伏したまま、声を震わせる風魔に、エンが寂しげな笑顔を作る。
「ロキ、怪我、大丈夫か?」
「うん、俺は。それより、レヴィ」
「これしき、ほんのかすり傷」
「マジかよ! ケムリ上がり放題だろ!」
「やせ我慢、ハンパねえな」
呆れたように肩を落としたエンが、表情を厳しくしてばっと振り向く。
その視界の先に、レヴィが踊り出るのと、波頭が砕け散るのがほぼ同時。
さらに勢いを増した海流は、ジリジリと苦しそうな表情を浮かべたレヴィを押す。
波の上空には、レヴィによく似た、ロキと同じくらいの年頃の少年が留まり、残忍そうな目つきで見下していた。
レヴィを白銀とするならば、黒鋼色の。