因子
ドアがノックされ、白衣姿の男が入ってきた。医務局の菅原。
書類をばさりと大槻の机に置き、ロキと名乗った少年の目の前に仁王立ちになる。
「最後に血液検査をしたのは、いつだ?」
「え? えっと。二年になった時、かな」
「いままで、何回血液検査をした? ここ三年くらいで」
菅原の勢いに気圧されたように目をおろおろと動かし、指を折る。
「施設で、二回くらい。それと、中学でも、年に一回か二回?
全部で、十回まではしていないかもしれないけれど。
他の人と同じくらいだと思う」
「その検査結果は、どうした?」
「どう、って。聞いてないよ。
何にも言われてないから、健康だったんじゃないの?」
菅原がイライラと大きくため息を吐く横で、
大槻は新たに届けられた資料を捲り、目を見開く。
「そうじゃない。どこへやったんだ、と聞いている。
一緒に受けたはずの他の奴は全員分の結果が残っているのに、
お前の分だけないんだよ。一件もだ」
「はあ? ないってなんだよ。俺が知るわけないだろ。
勝手に失くして、人のせいにすんな」
「なんだと!」
「待って、二人とも落ち着いて。菅原さん、この結果」
大槻の声に、二人同時に、ふん、とそっぽを向く。
「こいつは、ジェーナホルダーです。
しかも、三親等以内で、全くの新種か、もしくは遡れば少なくとも二種以上の」
吐き捨てるような言い方に、少年は敵意を隠しもせずに睨み返す。
菅原は腕を組み、そんな彼にさらに詰め寄る。
「血液検査の結果は、政府の特殊機関で厳重に管理されている。
どうやって抜き出して隠し通してきた?」
「知らねえって言ってるだろ!」
「菅原君」
割って入った大槻のきつい言葉に、無言でにらみ合ったまま、
菅原は一歩下がって距離をとる。
「彼が個人的にどうこう出来るはずがないのはわかるだろう。
悪いが二人で話させてくれ」
訪問者は、バタン、と大きく音を立ててドアを閉めて出て行った。
廊下を遠ざかっていく菅原の足音が響いてくる。
「なんなんすか、あいつ。マジむかつく」
「谷城君」
トーンを落とした大槻の声に、気まずそうに黙り込んで表情を窺う。
一体、どこから話したらいいんだ。
再び菅原の持ってきた書類に視線を落とす。
保有率、17.338%。適合種、該当なし。