相似
清羅は真っ直ぐにロキの前に立った。
「このような状況は、私だけに非ず。そなたの眷属たちも同じ事」
「え? どういう」
顔をあげ、振り向くと、エンとレヴィが痛みに耐えるような表情で立っていた。ロキの問いかけるような表情に、エンがため息を吐き、言った。
「太古より、人々は火に畏怖の念を抱き、神格化して奉ってきた。
人々を暖め、口にするものの中の毒素を浄化し、夜を明るくし、田畑の草を養分に変え、そんな風にして生活の中である程度の距離を保ちながら寄り添ってきた。
最近は、忌み嫌われ、疎まれ、生活から排除されるほどだ。
今では火と言えば、人に管理され、ねじ伏せられて利用される道具でしかない」
エンをちらりと見て、レヴィが言葉を引き継ぐ。
「先程の汚染された川の水は、やがて海に至る。
都市部にほど近い海岸線は、ゴミで埋め立てられ、踏み固められて命無き土地となる。海すら、削られている。
海水温は制御が効かず、南極の氷を溶かし、磁場は狂い、様々な命が息絶えた。我らの力も、弱まるばかりなのは同じ」
「人間のせいで、力が弱まっているって言うの?
エンもレヴィも清羅も、人間を守ろうとしているのに?」
ロキは愕然とした。自然破壊だの、そんなのは自分には関係ない、遠い世界の、まじめな奴が騒いでいるだけの事だと思っていた。
「ロキ」
エンが呼びかけたまま、言葉を失くして視線を逸らす。
「ロキ殿」
静かな清羅の声に、びくっと振り向く。
「どうか、気に病まぬよう。ロキ殿のせいではないのだから。
ただ、覚えておいて欲しい。
魔族も神も、本来、人を愛さずにはいられないという事。
赤子を見れば、自然と微笑んでしまうように、例え蔑にされようとも、見守り、手を伸べ、支えたがっているという事を」
胸に迫る何かを抑えるように、唇をかみしめる。
清羅が、ふっと空を見て、息を吸い、瞠目した。意を決したようにロキに向き直り、
「神を凌ぐ力が欲しい、と、仰られましたね?」
と言った。
ぞくり、と、冷たい血液が背を走る。無意識に息を飲み、清羅を見据えたまま頷いた。