逃亡
車が公園の入り口あたりで止まり、バタン、とドアが閉まる音がする。
ほぼ無意識に視線を向けると、屋根にスピーカーを取り付け、
ボディに市のロゴが入った白いライトバン。
スーツ姿の男性が二人、怒っているような表情を張り付かせ、大股で近付いてくる。
(やべ、避難指示無視しちゃっているんだった。捕まったらまずい)
咄嗟に寝ているナツの子をタオルに包みなおして抱き上げ、柵沿いに駆けると、
スーツ姿の男たちも走り出す。
「君、待ちなさい!」
(待てって言われて、待つヤツいるかよ)
公園の端までたどり着き、柵を乗り越えて斜面を下り、雑木林の中を走った。
ここを西側に向かって走り下りれば、山之上病院の敷地にでる。
山之上病院は、カーテンが閉められている以外、
季実が抜けだした時のままそこにあった。
建物の中に入ったら、自分はずっとここにいたとしらばくれてしまおう。
間に合った、多分、もう大丈夫だと窓枠に手をかけて力を込め、愕然とする。
鍵がかかっている。
(ちょっと、ばあちゃん!)
心の中で叫びながら、何度かガタガタとチャレンジしてみたが、開く気配はない。
地震で歪んだのでもなさそうだ。
他の窓をあたってみよう。移動しかけた時、
建物の角からスーツ姿の男が飛び出してきた。
咄嗟に反対方向に逃げようとして振り返れば、そちらにも。
もう逃げられない。ナツの子供を抱きしめたまま、がっくりと項垂れた。