表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄昏のエッダ  作者: 羽月
浄土
66/104

浄土(1)

 ミーティング開始前、書類をそろえている大槻に、薗田が声を掛けた。


「大槻さん、ちゃんと寝ています? 目、腫れていますよ」


「え、そうか? 昨夜、いろいろと考えてしまって」


「ロキの事は心配だけど、その分、僕らが気を引き締めていかないと。でしょ?」


 そう話に加わった高岡も、どこか疲れた顔をしている。次々にいつものメンバーが入室して来て席に着く。そろそろ吉井が来て、ミーティングが始まる時刻。終わったら、昨日エンたちと話した内容を、吉井に報告しよう。もう、時が残されていないという事を。


「おはようございまーす」


「ああ、おはよう」


「おはよう」


「急に留守しちゃって、すんませんっした」


 ざわざわしていた会議室の空気が、ぴたりと止まった。入り口に立つ者へ視線が集中する。


「ロキ!」


「え、ちょっと、本当にロキ君?」


 駆け寄って取り囲む大槻達に、当たり前じゃないっすかーとへらりと笑い返す。ばあん、と勢いよく開いた扉の向こうに、愕然とした表情のエンとレヴィが立っていた。


「主様」


「ロキ、てめえ!」


「んだよお前ら、ドア壊れんだろ。開け閉めは静かにしろよ」


「谷城君?」


 二人の背後から、吉井が覗き込む。


「あー、吉井さん、いきなりなんも言わないで帰れなくて」


「ケガはないか? 今まで、一体どこに。ああ、とりあえず、話を聞かせてくれ」


 ばたばたと、ロキも含めた全員が席に着いた。吉井が最初に話し始める。


「どこか、具合が悪いという事は」


「平気っす。ケガ、ひどかったんすけど、治りました」


「三週間も、どこにいたんだ?」


「さんしゅうかん? いやいや、五日くらいっしょ?」


「意識を失っていて、気が付いてから五日ほど、という事か」


「え、いや、そんなはずは」


「ロキ、どこにいた?」


 エンの問いに、すっと表情を変え、


「じいちゃんとこ」


 と答えた。会議室がひそやかに騒然とし、エンが深く息を吐く。


「吉井ちゃん、ロキが言っていることは、マジだわ。異次元は、基本、時間の流れる速さが違う。ロキにとっては、五日しか経ってねえんだろ」


「つまり、神と共に過ごしていた、というわけか。そこにたどり着き、そして、ここに戻るまでの経緯を話してくれ」


 ロキは少し考え込んでから話し始めた。


 アキの散歩の途中、名を呼ばれ振り向いたら、視界全てが赤かった。その後、意識が途切れた。時折、意識が戻る事があったが、やはり世界は赤いまま。ずっと感覚がおかしかった。普通、うたた寝しても、夜中に目を覚ましても、なんとなくだいたいの時間の経過がわかるものだ。もちろん、完全ではないが、三時間くらい寝たな、とか、まだ夜明けまでには時間があるな、とか。それが、全くなかった。いつ目を閉じて、目を開けたのか。一瞬前なのか、何日も前なのか。音もなく、鼓動の感覚すらなく、ただ赤いだけの世界。突然、それまで無だった世界にベクトルが生じた。空に放り出され、重力に従って、落ちる。視界は相変わらず赤かったが、その色は薄くなっているようだった。音と感覚も、ぼんやりと戻りつつあった。遠く、爆発音が響く。霞む視界の先、丘の向こうで煙が立ち昇る。全身がひどく痛み、ひたすらに寒い。なんとか仰向けに寝返ると、赤いセロファン越しに空が見えた。色が識別できず、朝なのか昼なのか、夜だったのかはわからない。自分の体は、雪に埋もれているのだと知った。冷水が浸みて来て、その冷たさに肉体を削られるようだった。すぐに、再び意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ