帰郷
数日後、ロキと大槻、薗田が並んで立つ特務本部の玄関前に黒いリムジンが横付けした。SPがドアを開け、クリスが乗り込むのを待っている。
「帰っちゃうなんて、急だね」
微笑みながら腕を組んでそういうロキに、クリスが笑みを返す。
「故国の事も心配だし。私だって、これでも優秀な戦士なんだもの」
「うん、わかっている。せっかく来てくれたのに、無駄足になっちゃったね?」
「ううん、そんな事ないわ。いろいろ、ありがとう。みなさんも、本当にお世話になりました」
クリスは、心からこの国に来て、ロキ達に出会えてよかったと思った。いろいろ考える事ができたし、気付けた事も多かった。
「それに、まだ諦めたわけじゃないもの。ロキは、地球から出て行かないのでしょう? 私の国では、ほとんどの者が地球に残るつもりでいるわ。何年か後、日本に誰もいなくなったら、ロキ、私の国に来て」
「え、まじで? いいの?」
「もちろんよ、ロキだったら大歓迎」
そういってクリスが差し出した手を、ロキが握って握手を交わした。
「そうしたら、その時こそ、子供作ってもらいますからね。五年後だって、私たちは二十一歳と二十二歳だし、十年後だって二十六歳と二十七歳よ。まだ間に合うわ。私、ロキが私や子供にひどい事をしようとしたら、黙ってやられてなんていないわ。叩き返してやるから、覚悟してね」
ロキは一瞬呆気にとられてぽかんとして、そっか、なら安心だね、と恥ずかしそうに笑った。と、ふいに握手したままの手を引かれて前のめりになったロキの頬に、クリスの唇が触れる。
「またね!」
ロキが我に返った一瞬後には、クリスは車のガラス越しに手を振っていた。走り去る黒いリムジンのリアウインドウの向こう、一度も振り返らずに遠ざかるクリスの後姿を見送った。
「行っちゃったね」
「俺も結構、もてるもんだね」
ぽつりと呟く薗田の言葉に、そう続けたロキの笑顔は、穏やかで、どこか寂しそうだった。