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黄昏のエッダ  作者: 羽月
蠱惑
55/104

冷徹

「わかった。ご苦労だった」


 大槻達との通信を切った吉井が、大きく息を吐く。エンからロキの作戦を告げられた時は、さすがに肝を冷やした。蟲が園児たちと入り混じっているうちは、攻撃する事はできなかった。とにかく、引き離す事が先決。幼虫は、一匹でも取り逃がせば成虫となり、また子を増やしてしまう。危険を察知すれば、逃げて隠れてしまうだろう。なので、冷静さを失わせ、一カ所に集めて一気に駆除するのがベスト。ロキは自らを囮にし、あの隧道を殲滅の地と決めた。ぎりぎりまで、エンとレヴィの存在に気付かれないようにしなくてはならない。結果、作戦はうまくいった。

 が。吉井は指を組み合わせ、瞠目する。

 途中でトラブルが起きてしまった。うまくいったのは、偶然と言ってもいい。もし、後ほんの少し、薗田たちの到着が遅れていたら。クリスが同行していなかったら。わき道にそれる幼虫は、大槻が駆除しながら後を追っていたとはいえ、一人では制御に限界がある。高岡と薗田がいればさらに確実になっていただろう。本来なら、彼らが現場に到着するのを待つべきだった。何より、ロキの怪我がいたい。次に戦闘に戻れるのはいつになるのか。もし、万が一、命を落とすような事にでもなったら。


(ジェーナの保有率が高い人間の重要性を、ちゃんと理解している?)


 クリスがここへ来た日、ロキに言った言葉が過る。自分たちは、ロキを甘やかし過ぎてしまっていたのかもしれない。いや、甘やかしていたというより、自分たちこそロキの価値を軽んじていたのかも。改めてきちんと話し、自覚を持ってもらわねばならないだろう。大勢をみて行動せよ。己が死なぬことを優先せよ。そのために、時には他者の犠牲に目をつぶれ、と。


 救急車で運ばれたロキは、二日ほど高熱を出してほとんど意識なく眠り続けていたが、三日目には熱も下がり始め、少しずつ食事もとれるようになった。退院し、自室に戻ったロキは、眷属たちやクリスの看護のおかげもあってか、ぐんぐん回復していった。大槻は、吉井の言葉を噛みしめながらロキの部屋を訪れた。吉井に言われるまでもなく、大槻自身、ロキは無謀すぎると感じていた。エンに招き入れられると、ロキはダイニングの椅子に腰掛けてスープのようなものを飲んでいた。


「具合はどうだ?」


「や、もうずい分すっきりして。なんだか体力が落ちちゃったけど」


 またトレーニングして戻さなきゃ、と、へらりと笑う。


「なぜ、囮になんて」


「んー、前に、エンから聞いた事があったんだ。

 俺の血は、魔族にとってうまそうに見えるって。

 じいちゃんの血が濃いから、欲しくなるものなんだって。

 あいつらを子供から引き離すのに、手っ取り早いかなって」


 クリスが傍らに座り、レヴィアタンは出かけているのだろうか、姿は見えない。大槻が、話があると切り出すと、気配を感じたのか、ロキの表情が変わった。


「率直に言う。ロキ、君はちょっと無謀すぎる。

 慎重な行動を心掛けるようにしてくれないか」


「具体的には? 俺、どうすればよかったの?」


 ロキに強く見据えられ、それまで以上に冷静さを心掛ける。


「いきなり、妖魔の群れに飛び込むような真似はするな」


「子供を見捨てろって言うの?」


「そうじゃない」


「子供が死んだよ。今回は五人。あと、子供を守ろうとした先生が一人。

 重傷、重体の先生は七人。

 あの人たちだって、子供を置いて逃げれば助かったかもしれないのに、

 妖魔の群れに飛び込んで子供を守ろうとして怪我したんだよ。

 それって、責められる事なの?」


「彼らの使命は子供を守る事だ。君の使命は、世界を守る事。

 今、君に万が一の事でもあったら、日本はどうなる。この地球は?」


きゅっと結んだロキの唇が震え、はあ、と大きく息を吐いて、再び大槻を見る。


「世界を救うとか、地球を守るとか、ぶっちゃけ、わかんねえよ。

 強い力を持っているから、目の前の子供を助けようとしちゃいけないの?

 だったら、力なんてない方が良かったよ」


「ロキ、それはねえよ」


意外な方からかけられた声に、大槻は少し驚いてエンを見た。

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