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黄昏のエッダ  作者: 羽月
百足
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吐露(2)

「前、東京駅が襲われた時、人が、たくさん死んで。

 高岡さんの雷獣も怪我して。

 俺さ、十二人死んだって聞いたとき、それだけ? って思ったんだ。

 あれだけ化け物が暴れて、たった十二人で済んだんだ、って。

 けど、違うだろ?

 あの後、重体だった人が二人死んじゃって。

 二十二歳の女の人と、四歳の男の子。

 男の子のお母さんはさ、重傷だけど、生きている。

 お母さん、たまんないよね。

 それとさ、本当は、こいつら戦わせるの、嫌だった。

 ヴォルケーノと会って、話して。

 そういえば、レヴィも、同じだなって思って。

 あの、東京駅の化け物も、山にいたムカデも。

 何が違うんだろう、こいつら何なんだろう、今までいなかったのに、

 意味があってでてきたんじゃないのかな、

 あいつらだって、殺していいのかなって。

 エンが、誰かの命を奪うっていう事は、それは、俺が殺すって事で。

 なんか、すげえ、俺がそんな事していいのかなって、ぐるぐるして。

 怖くなった」


彼は、年相応に、自らの感情を言葉にするのがあまり得意ではなかった。けれど、大槻には、彼の言いたい事がわかる気がした。ヴォルケーノの一件でも感じていた。ロキは、優しすぎ、考え過ぎるのだ。大槻は、いや、彼だけでなく他のジェーナホルダーも、魔獣を排除する為に眷属を使う事、人類に害をなす魔獣の命を奪う事を躊躇ったりはしないだろう。エンとロキの繋がりは、多分、ロキの遺伝子情報の多さ故であろう、他の者たちより強固にみえる。言葉でのコミュニケーションが取れるためか、他の眷属と比べて、エンの知力が高いためか、精神の繋がりも強い。そうして、起こってしまった悲劇。

ロキの戸惑いや恐怖心を責められるはずもない。が、エンとレヴィの二人が魔族であり、ロキがジェーナホルダーで、エンとレヴィの主である以上、逃げる事はできない。乗り越えなければならない。何よりも、彼ら自身のために。


「ロキ。割り切る事はできないか?

 人類に害をなす者は敵、人類を守るためには、敵を倒すしかない、と」


「レヴィも、人を殺しているんだろ?」


咄嗟に、水色の髪の青年を見る。表情を変えずにロキの傍らに立つ。


「ヴォルケーノも、あのまま噴火を起こして、誰かが犠牲になったかもしれない。

 エンとレヴィに、ヴォルケーノを殺せ、なんて言えない。

 あの子はだめだけど、ムカデとか、鬼みたいなやつはいいなんて言えない。

 誰かが、レヴィは悪い奴だから、って言い出したら。

 お前だって、ムカデは殺しただろって、言われたら。

 今は人間の役に立つから、邪魔じゃないからいいの?

 生きていていいかどうかの基準って、それでいいの?

 人間だけが決めていいの?」


大槻は、十七歳ってこんな風だったかなと考えていた。自分が十七歳だった頃、何を感じ、何を考えていただろう。ロキは、怯えている。彼の感性は、純粋で真っ直ぐで、幼い、と思った。世の事象を、白か黒か、善か悪かで分けずにはいられない幼さがある。そのどちらともカテゴライズできない矛盾の苛立ちをぶつけてくるのは甘えだ。縋るように見つめる彼の目を見返す。


「ロキは、どうしたいんだ?」


「どう、って」


「前に、彼らと、敵の事を知りたい、勉強したい、と言ったね?

 その時は、どんな思いだった? 守りたいものはあるか?

 誰かを、救いたい気持ちは?

 周りの事情や状況を考え、合わせよう、

 期待に応えようとしてくれているのはわかる。

 それは君の美点だけれど、

 人の眼や意見を気にしすぎる部分があると思わないか?

 君が守りたいものは、君が決めろ。何が敵で、何が味方かは君が判断しろ。

 君の持っている力は甚大だ。

 私は、君がその力を、誤った使い方はしない事を知っている。

 君は大丈夫だ。自分で決めていいんだよ。

 ただ、とりあえず、君の眷属は信用するべきだ。

 自分は一人じゃないという事を受け入れて、その上でもう一度考えてくれ」


ロキは視線を逸らし、どこか不機嫌そうに口を結んだままでいた。偉そうに、説教臭くなってしまったな、と、自己嫌悪を覚える。沈黙に耐えきれず、話題を変えた。


「あのムカデの、遺骸のようなものが発見されなかったんだが」


体液は採取し、専門機関での解析が進められている。が、あんなに大きな物体が、忽然と消え去ったまま。あの巨体は幻影だったのだろうか。


「やつは死んではいなかった。一時的に、逃げただけの事。

 あれが致命傷になっていればいいが、

 いずこにて傷を癒しているやも知れぬ」


レヴィが静かに告げる言葉に、思わず立ち上がる。


「死んでいなかった? ということは、また襲撃される可能性がある、と?」


「今も生きているならば、その機会を虎視眈々と狙っているだろう」


さっと血の気が引く。あの山は、確か、まだ立ち入り禁止になっていたはずだ。けれど、調査員は? もう現地での調査を終え、撤収しているだろうか。立ち入り禁止は山道の入り口からだったはず。麓の集落には、まだ住民が。抜け道を知っている地元の人間が勝手に入山していたとしたら?


「すまない、今の話、上に報告させてもらう。また、後で来るから」


大槻は慌ただしくロキの部屋から廊下へ駈けだした。

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