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黄昏のエッダ  作者: 羽月
百足
34/104

桎梏

魔獣が現れたという警報が響いたのは、賑やかな晩餐から二日後の午前だった。

都市部からもほど近く、ハイキング客で賑わうその山に、巨大なムカデが現れた。

体長は数kmに及び、大きな二本の牙と硬い表皮を持つ。

まき散らす粘液には毒性があるらしく、

周辺の木々が焼けただれた様に変色を始めていた。

たまたま近くにいた高岡が一足先に駆けつけ、雷獣で応戦していたが、

まるで効果がないという。

すぐにロキ達も現場へ向かった。


ムカデは、山に巻きつくように蠢いていた。

木々はなぎ倒され、報告通り茶色に変色し、周囲は重いチェーンを引きずるような、

ジャリジャリという音と異様な刺激臭に満ちている。

合流した高岡から説明を受けた。


「出現は、午前九時少し過ぎ、出現場所は、山頂に近い中腹付近。

 ちょうど、あのあたり。封印伝説のある大岩があったそうです」


高岡の指差すあたりを見ると、

何か巨大なものが麓を目指して滑り落ちたとでもいうように、

土砂崩れのような形で湿った赤土を露出させている。

ここに来る前に資料で読んでいた。

旅の僧が、この地で暴れていた大ムカデの右目をくり抜き、

山に封印したという伝説。

木々がこすれ合い軋む、ギリギリという音を、

ムカデの鳴き声だと言い出したところから生まれた言い伝えだろう、

と書かれていた。


「山頂に、人が取り残されています。

 九時四十分現在で、六名、八歳と五歳の子供が含まれています。

 その子たちの父親と名乗る男性のケータイ電話からの通報だったのですが、

 現在は不通になっています」


大槻は腕時計に視線を落とす。十時四十七分。

ムカデの発現から約一時間半、山頂との通話から一時間以上が経っている。

飛び交うヘリコプターを、ムカデが威嚇している。

山頂に下りる事ができるような状態ではない。

頭を振り、ギチギチという声をあげるたび、粘液が飛び散る。

あんなものを浴びてしまったら。

大槻が呼び出したカマイタチが二匹、白銀の軌跡を残して山へ飛ぶ。

風で飛沫を防ぎながら、二匹目が大きな鎌を振るうと、

ムカデの足が一本切り落とされた。

が、足は無数にあり、それだけでは効果があるようには思えなかった。


「真打登場。やっと俺の出番ってわけだ」


「エン」


ロキの声に、ん、と首をかしげる。


「いや、なんでもない」


「ちょっくら黒焼きにしてくるから、そこでみていろよ」


中空に浮かび上がるエンを眉を寄せて見送るロキに、レヴィがちらりと視線を向ける。

さほど距離を詰める必要もないのだろう、

エンが大ムカデの数十メートル手前辺りで止まった。

これからどう動くのか、どう攻めるのか、全員が固唾をのんで見守っていた。

大ムカデがエンに気付き、激しく威嚇する。

が、エンは動かない。

何か考えでもあるのかと見上げていた者たちも、

不審そうにざわざわとお互いの顔を合わせた。


「主様」


「え」


レヴィが珍しく焦ったように声を掛けると、ロキがびくっと振り返る。

言葉を探すように喘ぎ、何かを言いかけた時、天空から苦しげな声が響いた。


「ロ、キ。てめえ。は、なせ」


ギギギ、ギャアアア。

耳を塞ぎたくなるような叫びをあげて、ムカデが頭を振ると、

エンがその鞭のような触覚に打たれて吹き飛ぶ。

咄嗟に防御はしたものの、ムカデの体液が掛かった肌から、

ジュウジュウと音を立てて煙が上がる。


「ロキ! 離せって言ってんだろ、動けねえんだよ!」


顔色を失くして呆然と眼を見開き、がくがくと震えるロキの肩を、

レヴィが正面から支える。


「主様、やつは大丈夫です。落ち着いて」


「俺、でも」


「気を強く持ち、やつに、妖魔を殲滅せよ、と」


レヴィに見据えられ、そう告げられても、弱々しく首を横に振るだけ。

ロキの息遣いが、浅く速い。

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