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黄昏のエッダ  作者: 羽月
強襲
32/104

晩餐

数日間、特に大きな動きもなく過ぎた。

エンはロキからの何度目かの血液提供を受けていた。本人いわく、成長度は、


「順調、順調」


という事だった。


「こうなってくると、早いトコ、俺様の実力を発揮したくなってくるね」


カフェエプロンを身に着けたエンは上機嫌そうに、

うきうきと煮物を盛りつけながら言う。

大きなトラブルもなく、

比較的早い時間に仕事を切り上げた大槻と薗田を夕食に招待していた。

レヴィとロキも配膳を手伝って、テーブルには目を見張るような料理が並んでいた。

炊き込みご飯、根菜の味噌汁、茶碗蒸しに鯛の塩釜焼、

筑前煮と、山菜の炊き合わせ、その他、一口ずつの箸休めが数点。

高価な食材をふんだんに使った豪華な料理というより、どこか素朴で懐かしい。


「ビールでいいだろ?」


よく冷えたビールの栓を抜き、大槻と薗田のグラスに注ぐ。


「立派な鯛だね」


「うちは、凄腕の漁師がいるからね」


大槻の言葉に、ロキが笑いながら答えると、レヴィが微笑みながら目を伏せる。

なるほど、海龍がいれば海産物には不自由しないだろう。


「でもさ、あれは驚いたよな、なんだっけ」


「リュウグウノツカイだろ? あれはないわ」


「エンがなかなかとれない、大きな魚を取ってこいと言ったからだろう」


「すげえんだ、この部屋いっぱいになるくらいでかくってさー。マジ焦った」


「そうは言ったってでか過ぎだろ。長さ、五mくらいはあったぞ?

 せめて、マグロとかハマチとかそういうのだって。

 さすがの俺も、なにやってんだよ、速攻返して来いっつったね。

 こいつ、ほっとくと何捕まえて来るかわからないからさ、

 とりあえずクジラは禁止って話」


「カジキマグロと、サメもだめなんだそうだ」


「大王イカも」


「シーラカンスもだ」


真顔でそう言いながら頷くレヴィに、ロキがけらけら笑う。


「うわ、どれもおいしい。これ、全部エン君が作ったの?」


「おうよ。健康は食からっていうだろ?」


薗田の感嘆の声に、エンが得意気に返す。


「いいなー、エン君みたいな、お料理上手な旦那さん欲しい。」


「魅力的な話だけど、俺はロキ専属。味付けもロキの好みにしているしね。

 ま、もう一杯」


エンは満更でもない風にそう言いながら、

残念そうに口を尖らせる薗田のコップにビールを足す。

夕食は、和やかに過ぎていった。

エンが食器を下げ、お茶を淹れて各人に出す。至れり尽くせり。


「ロキ君」


「ロキ」


「じゃあ、ロキ」


大槻の呼びかけに、満足そうに首をかしげる。


「ここでの生活、辛くないか?」


その問いには、え、という表情を浮かべ、答えに詰まる。

大槻が言葉を続けた。


「今までの生活と一変して、学校も、職場も辞める事になってしまって。

 外出も、外部との連絡も制限しているから、友人とも話していないだろう?

 毎日、ずいぶんと根を詰めて勉強をしているようだし」


ロキは湯呑に手を伸ばし、そっと触れ、その淵を撫でた。


「辛く、ないっすよ。むしろ」


湯呑を撫でながら、言葉を途切り、ゆっくりと続ける。


「なんか、これでいいのかなって。贅沢し過ぎているんじゃないかなって感じ。

 俺さ、勉強、嫌いじゃなかったみたい。

 今までは、仕事と家の事で忙しくて。

 ばあちゃん、家の事、あんまりできなかったから。

 勉強すんの、面倒だなって思っていたんだけどさ。

 夜は学校で、寝る時間もちゃんとしてなくて。

 まあ、なんていうか。辛くないっす」


大槻は、ロキはまだ何かを言い淀んでいる、と感じた。

けれど、無理をしているわけでも、ウソをついているようでもなかった。


「そうか、それならいいんだ。何か不都合があったら、いつでも言ってくれ」


「ういっす」


そう笑顔を見せてお茶をすする彼を、言い表せない複雑な思いで見ていた。

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