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黄昏のエッダ  作者: 羽月
強襲
31/104

好転

数日後、ロキと、エン、レヴィはとある火山島にいた。


「ここでも、あの子に会えるの?」


「ま、溶岩帯の上だったらどこでもいいんだけど。

 溶岩が地表に近いところにあれば、わりと負荷をかけずに呼びやすいだろ」


「固い岩盤を突き破る事になれば、影響が大きいので。

 それに、ここは街もなく、奴が暴れても人への影響は少ない。

 海も近く、私の領域」


エンとレヴィの言葉に頷き、手荒な真似はしないでよ、と釘をさす。

エンが、呼ぶぞ、と声を掛け、一歩前へ出て意識を集中すると、

やがて噴煙が濃くなり、少女の姿が浮かび上がってきた。


「またあんたたちなの? 何の用?」


「この前は、アキがごめん」


ロキの言葉に、勝ち気そうな大きな目に、哀しそうな影が過る。


「あの、さ、この子、よかったら預かってもらえないかなって」


ロキが視線を落とすと、足元に黒い犬が現れた。少女の目が大きく見開かれる。

頭が二つあり、まだ成犬になりきらぬ若犬で、大きめの中型犬くらい。

今にも駆け出したいのをなんとか我慢しているという風に、

そわそわとお座りの姿勢でヴォルケーノを見上げる。


「え? うちが? いい、の?」


「うん。オルトロスって言うんだって。

 普通の犬じゃ、溶岩の中で暮らせないだろ?」


少女はおそるおそる近づき、びくびくと手を伸ばす。

オルトロスはちょっと不思議そうな表情を浮かべ、

にっこりと笑いかけたように見えた。

少女の手が、片方の頭を撫でると、ひょい、と彼女に前足を置いて顔を舐めた。


「この子は、うちの事、嫌いじゃない?

 え、えー、可愛い、いいの? 本当に?」


「うん、俺の眷属だし、用があったら、呼び出さないといけない。

 けど、用が済んだら、また君の所へ戻すよ。それでもよければ」


「うん、いいよ。あのさ、この子、うちの、家族?」


「そう思ってもらえる?」


「うちの、家族」


少女の目が、うるりと揺れる。頬を流れた涙をオルトロスが懸命に舐めた。


「えへへ、くすぐったいよー」


「よろこんでもらえてよかった。おい、お前、いい子にしてろよ? じゃ」


「あ、ちょっと待ってよ」


オルトロスの頭を交互に撫で、そう言い聞かせて背を向けようとするロキを、

少女が慌てて呼び止めた。


「あんたさ、いいやつだね。あのさ、これあげる」


差し出されたのは、赤とオレンジが混じりあった石がはめ込まれた指輪だった。

じっと見ると、石の中でゆるゆると絶え間なく、オレンジと赤が動いている。


「指輪?」


「そう、うちの証。あんたが困ったら、呼びなよ。うち、助けに行くし」


へえ、と、微笑んで自分の左手の小指をその指輪に通すロキの背後で、

二人の眷属が唖然とした表情を浮かべる。


「すげえきれい。さんきゅ、なんかあったら、頼むよ」


「うん、こっちこそ。オルトロス、ありがとう。気を付けて帰って」


少女は黒い犬を伴って、いつまでも手を振って見送っていた。


本部に戻ると、その事実に騒然とした。


「えっと、つまり、この証を受け取る、というのは」


大槻がロキの左手を覗き込みながら興奮がちに言う。


「眷属の一歩手前、って事。

 あいつは、基本的に今まで通り自由なんだけど、ロキの呼び出しには応じる。

 強制力はそんなに強くないけど、あいつ自身、助けに行くと明言している。

 ぶっちゃけ、これ、マジすげえよ。あの跳ねっ返りが、人に証を渡すなんて。

 まあ、こいつがロキの眷属になったのも、正直驚きっちゃ驚きだったんだけど」


レヴィを顎で示しながら、エンがそう説明する。

レヴィも頷き、


「これで、主様がいる限り、

 この国は溶岩や噴火の害を危惧しないでいいだろう」


と請け負った。

それは、とても大きな朗報だった。

エン(以下 エ):いやあ、毎日暑いね! テンションあがるね!


レヴィ(以下 レ):夏は海岸線が騒がしくて敵わん。水質の汚染も進むし。


エ:みんな、もう花火は見に行ったかな? 花火の中を飛び回るのサイコ―だよね。

  ああいう派手な火はいいね。


レ:ここを読んでくださっている方たちが、

  打ち上げ花火の間を縫って飛び廻るわけなかろう。


エ:いや、マジ、あれおススメだって。

  火花が直撃した時なんて、もう、エクスタシー! って感じで。


レ:アホな事を。ヒトに気付かれたらどうするつもりだ?

  今回は、ヴォルケーノが主様に証を預けたな。


エ:おう、ヴォルケーノ、な。マジびっくりだわ。

  前々回かな、証を預けるのは、魔族にとってかなり重要な事って話したけれど、

  格の高い魔族ほど、その傾向は顕著なんだよね。


レ:そうだな。


エ:魔族とヒトの関わり方にはいくつかある。

  まず、ヒトが魔族を眷属とする場合。俺やレヴィはこれだね。

  逆に、魔族がヒトを下僕にする事もある。

  それと、恩を感じたお礼に、困った事があった時は助けるよって約束する関係。

  友だち、っていうのかな、今回のヴォルケーノは、これだね。


レ:眷属となった魔族は、言うなれば主の所有物。

  主以外の者に仕えたり、証を渡す事はない。

  大げさな言い方をすれば、フリーの魔族は、証を何人に渡してもいいし、

  自らの意に反する願いは、叶えるよう働かなくてもよい。


エ:魔族は、常に欲求と対価、需要と供給がプラマイ・ゼロになるようにしている。

 ヴォルケーノにとって、ロキのした事が、それだけうれしい事だったんだな。


レ:これからも様々な魔族が出てくる中で、主様はどう関わっていくのか。

  そのあたりも見物だな。


エ:まあね、ロキはいろいろ考え過ぎるトコあるしね。

  てなわけで、今回はこの辺で。

  イフリートのエンと、


レ:海龍、レヴィアタン、でした。


エ:花火の中に人影が見えても、気付かぬフリでスルーよろしく!

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