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黄昏のエッダ  作者: 羽月
強襲
30/104

序列

予定より早く仕事が片付き、吉井から、一応、経過を見るために一日残ってくれ、

せっかくだからゆっくりしたら良いといわれ、

地元の職員の好意で観光を楽しみ、帰りの専用機の中、ロキが急に笑い出した。

なぜかつられて、大槻と薗田も。

レヴィが、くすっと笑ったところで、エンがむっとして、


「何がおかしいんだよ」


と、口をはさんだ。


「えー、いや、だって、アキ、格好よかったなって」


楽しそうに笑うロキにさらにむっすーと口を尖らせ、腕を組む。


「ま、いいけどね。これで俺が一番って事がわかったし」


「なぜ、そうなる? 今回、私の方がまだ役に立ったと思うが?」


ふふん、と、口の端を上げる火焔魔人の視線に、レヴィがむっとして反論した。


「あいつと交渉に持ち込んだのは俺だろ!」


「思いっきり決裂していたではないか」


「多少火力不足だっただけ。これからの伸び代を思えば、余裕だね」


「その、実力不足が大問題なのでは?」


「はあ? 海龍の一族に、どれだけ眷属がいるよ?

 この地上で最強なのは、火属性の一族。俺はその頂点。わかる?」


「よくもそんな事が。地球上の七割が海なのだぞ?

 我が一族を愚弄する気か?」


「やんのか、こら」


「いい加減にしろよ!」


お互いに立ちあがってにらみ合う二人を、ロキが制する。


「いつまでそんな事で騒いでんだよ。一位をはっきりさせたらいいんだろ?

 俺の眷属の一位は、アキだ!」


二人が、え、と、きょとんとした顔で主を見る。


「おい、ちょっと待てよ、アキは」


「一番最初から俺といたのも、ヴォルケーノを鎮めてくれたのもアキ。

 だから、アキが第一眷属だ!」


愕然と言葉を失くすエンの隣で、

レヴィが、ふう、と肩を落とし、しゃがんでアキを抱き上げる。


「アキ殿、第一位襲名、おめでとうございます」


「ちょ、お前、何、受け容れてんだよ」


「主様がそう宣言したのなら、私が異論をはさむ筋合いはない。

 第二位眷属として、ごあいさつ申し上げたまで」


「さりげなく二位を名乗るな。俺が二位だ!」


「へえ、一位でなくてよいのか」


ぐ、っと言葉を詰まらせるエンに、ロキが軽くため息を吐く。


「アキが一位、二人とも二位。俺には、順番の意味とかはわかんねえよ。

 全員が一位って事にしたいけど、

 順番に意味があるんだとしたら、それでいいだろ。

 これ以上、こんな事でもめるの禁止。いいな?」


エンも不承不承だが、さすがに、おう、と了承した。


「あのさ」


大槻と薗田が話し合いながら報告書をまとめ、レヴィがアキと遊んでいると、

ロキが声を掛けた。


「施設の卵の中から、一個貰いたいんだけど」


「ん、オルトロス、か?」


「できればそれがいいけど」


なんとなくはっきりしない様子に、大槻と薗田が顔を見合わせる。


「あの子さ、ヴォルケーノ。なんか、可哀想だなって。

 だって、ずっと一人なんだろ?

 溶岩の中とか、普通の犬は連れていけないし」


「うーん、せっかく孵化させるのなら、

 できれば、手元に置いてもらいたいんだが」


「吉井さんの許可も、下りるかどうか」


大槻と薗田の言葉に、そっか、と、アキに視線を落とすロキ越しに、

レヴィとエンが、何やらアイコンタクトをとる。


「あの子がさ、アキの事、俺の家族かって言っただろ?

 ああ、そっか、って思って。

 家族かあ、って。どうにか、あの子にも家族とか。だめ、だよね、やっぱ」


「例えば」


ふいに声を発したレヴィに視線が集まる。


「今回、ヴォルケーノが活動を収めたのは、たまたま。偶然の産物でしかない。

 奴は気まぐれで活動的な種族、またいつ活動を活性化させるかわからぬ。

 この島国は、環太平洋火山帯の真上に位置し、

 奴はこの国の全てを飲み込む力を持つ。

 それを力で制圧しようとすれば、周辺への影響、被害は甚大なものとなろう。

 けれど、もし、奴の身近に、それほどの高温に耐えられぬ、

 庇護すべき者がいたとしたら。

 それが、こちらの手の内の者であったとしたら。

 こちらの不都合になる振る舞いは、

 眷属を手放す事になるという事実が抑止力となる。

 奴の行動を監視し、不穏な動きにいち早く対応する事も可能だ。

 と、まあ、こんなところで、どうでしょう?」


「お前、ほんっと、屁理屈こねさせたら天下一品だよな」


「褒め言葉として受け取っておこう」


ロキが期待のこもった目を大槻に向ける。


「眷属は、どこか離れた場所に預けてあっても、

 すぐに召喚に応じる事ができる?」


「もちろん。ロキが呼びさえすれば」


「エン君がある程度覚醒が進むまでは、別な眷属を育てるのは、後回し」


「監視をさせるくらいだったら、そこまで強くなくていいんじゃね?

 ちなみに、ロキ以外のやつだったら、一生血を抜き続けたとしても、

 納得いくまで眷属が覚醒する事はねえよ。

 ロキは、あんたらの170倍以上のカギを持つ。

 二匹以上の眷属を育てる事ができるのは、現時点ではロキだけだ。

 最悪、どうしてもオルトロスを別な奴が眷属にしたくなったら、

 ロキ以上の遺伝子情報を与えて上書きすれば、主はそいつになる」


大槻は、しばし考え込むように沈黙した。


「ここ五年間、必死で探してきても、ジェーナホルダーの数は少ない。

 せめて、月への移住が本格化するまでの後数年、

 なんとしても持ちこたえなければならない。

 最小の労力で、被害を抑えるすべがあるのなら、それに越したことはない。

 吉井さんに、話してみよう」


「マジで? やった、大槻さん、ありがとう!」


薗田も、よかったわね、と、笑みを向ける。


「つかさ、大槻ちゃんと薗田ちゃんの二人で子供つくれば、

 遺伝子の濃い子供が産まれるんじゃね?」


「なっ」


「あ、そっかあ、それ、名案」


エンの言葉に、大槻と薗田が思い切り動揺を見せた。

大槻がわざとらしい咳払いをする。


「十六歳にならないと、血液を抜いてはいけないって言う、法律があってだな。

 今、ジェーナホルダーが産まれたとして、眷属を持てるのは、十六年後だ。

 宇宙移住までに間に合わない。

 それに、そんな理由で、こ、子供などと」


「正直に言うと、誰も考えていないわけではないの。

 実際、それに近い事を行っている国もある」


薗田君、と制する大槻の声を無視して話を続ける。


「やはり、倫理的に大きな問題があるわ。

 生まれるのは、ただ生きているだけで愛され、

 庇護されるべき人間の子供なのか、

 それとも、道具なのか、兵器なのか。

 それに、そんな事が本格的に実行されるとしたら、

 大変な目に合うのはロキ君よ?

 十七歳の未成年であるという壁が、あなたを守っているというだけ。

 一応、頭に置いておいて」


彼女の言葉に、ロキは静かな目で頷いた。

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