癒水
どれくらいそうしていたか、大槻達が戻ってきた。
ざっと報告がなされ、吉井が、詳しい事は明日、と、彼らを労った。
「あ、あの」
呼び止めるロキに、視線が集まる。
「さっきの、犬? 電気の。大丈夫、ですか?」
「控えさせているよ。少なくとも、生きてはいる」
モニターの向こうで雷獣を使役していた青年、高岡が、疲弊しきった顔で答えた。
ロキは、そうですか、と、つぶやくように言って俯いた。
「主様、ご命令を」
傍らのレヴィの言葉に、はっと顔をあげる。
「命令?」
「雷獣を癒せ、と」
「治せるの?」
「多少、治癒を早める程度であれば」
ぱあっと表情を明るくして、大槻たちを見る。
ロキと視線を合わせた大槻が、驚きのまま身を乗り出した。
「できるのであれば、私からもお願いしたい」
「レヴィ、雷獣を治して」
「御意」
高岡が何かをすくい上げるように両手を広げると、その中に、濃い灰色の被毛の、
小型犬ほどの大きさの生き物が乗っていた。
レヴィがそっと手のひらをその口元に近付けると、そこには見る間に液体が湧いた。
雷獣は、やっと首を伸ばし、その液体に口をつける。
次に、ミネラルウォーターの入っていたペットボトルのキャップを開け、
手のひらをかざすと、その中にはみるみる液体が満たされていく。
ボトルの口を傾けると、雷獣は吸い込まれるようにその中に入っていった。
半透明の液体の中には、直径二cmほどの小石のようなものが沈んでいて、
ゆっくりと泡を立ち上らせている。
レヴィはそれを、高岡に差し出した。
「傷が癒えれば、そのうち勝手に出て来よう。
それまでは、しばしこのままで」
「あ、ありがとう」
「主命に従ったまでの事。礼には及ばぬ」
「さ、部屋、帰ろうぜ」
エンの声に、ロキは頷き、おやすみなさい、と小さな声で言って廊下へ出た。