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黄昏のエッダ  作者: 羽月
強襲
23/104

羅刹

集中モニター室に駆けつけると、すでに数人が集合していた。

モニターに映された映像に、誰もが息をのむ。

見慣れた赤いレンガ造りの建物の前を逃げ惑う人々。

その合間に、街灯やガードレールをなぎ倒し、引き抜き、

振り回す数体の化け物の姿。

身長は目算で三mほど、白く薄汚れた髪を振り乱し、

吊り上った大きな目を爛々と輝かせ、耳まで裂けた口を開けている。

ブン、と、街灯が振り下ろされ、

数人、有り得ない形に歪んだ人間が血飛沫と共に宙を舞う。


「被害状況は?」


「場所は東京駅、丸の内中央口前。

 空間の異常が感知されなかったため、避難指示は出ていません。

 確認された個体数は六。詳しい被害状況は、現在確認中」


「なぜ、いきなりこんな事に」


薗田が呆然とした声で言った。

これまで、魔獣が出現する前には、常に特定の空間の変化が感知されていた。

レヴィアタン以前は、小型のものばかりだったし、出現場所も、比較的地方で、

民間人に目撃されたという報告は、数例だけだった。

それが、何の前触れもなくこんな都心に出現し、人を襲うなど。


「音声は出せるか?」


「はい」


途端に室内を満たす人々の悲鳴、子供の泣き声、化け物の低く唸るような咆哮、

破壊音。

画面の端で、車が爆発、炎上する。

警察官が行く手に立ちふさがり、銃を構える。

タンタン、と、乾いた音が響き、化け物に薙ぎ払われてぐしゃりと潰れた。


「谷城君」


廊下へ飛び出していくジェーナホルダー達を追おうとしていたロキを、

吉井が呼び止める。


「君はここで、彼らの戦いぶりを見ているように」


「けど!」


「君の眷属は能力がまだ把握できていない。

 未知数の力を、この人混みの中で使わせるわけにはいかない」


ロキとて戦い方などわからなかった。眷属二人を制御する自信もない。

もし、人を傷つけてしまったら。その思いに、その場にとどまるしかなかった。

ここにはどれだけの人間がいるのだろう。逃げ惑う人々の列は途切れない。

立ち止まり、ケータイを向けていた若者が、

別方向から殴られ、噴水のように血を噴き上げて膝から崩れ落ちる。

思わず目を逸らすロキの背に、そっと手が触れた。

飛び上がるほど驚いて振り向くと、

レヴィの端正な横顔がモニターを見あげている。

その背後には、腕を組んで立つ、エン。


「レヴィ、こいつら、何?」


囁くようなロキの問いに、小さく首を横に振って応える。

わからない、という事だろう。


「エン」


「詳しくは、知らない。多分、羅刹ってやつだと思う」


「らせつ。エン、こいつら、倒せる?」


瞠目してわずかに顔を伏せ、再び主の顔を見る。


「わからん。

 いや、実際、力の差で言ったら、こいつらはザコ。多分、余裕で倒せる。

 けど、自分の火力が把握できていない。

 周りの奴らを無傷のまま、

 コイツだけ殲滅しろ、って期待には、応えられない。

 正直、俺は有り得ないくらいの最低基準で存在している。

 想定外なんだよ」


「レヴィ、は?」


「ヤツの意見とほぼ同様。

 私は自分の力は把握しているが、陸上での実戦経験も、敵の情報もない。

 直径数百メートルの範囲を更地にしてもよいというのなら、

 不可能ではない」


ロキは気づいた。

彼らは明言していないが、眷属と敵の能力、

戦闘方法などの情報が不足しているのは、ロキ自身だ。

眷属を使役する主自身に知識がないから、彼らが自信を持って動けないのだ、と。

室内は現場から送られてくる破壊音や悲鳴の他、

状況を確認し合う、怒号にも似た叫びが飛び交っている。

慌ただしいやり取りを遠く聞きながら、三人は並んでモニターを見詰めていた。

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