喧騒
ドアをノックすると、はあい、と、ロキの声が応えた。
大槻がトレイに乗せた夕食を落とさないように苦心しながらドアを開けようとすると、
中からなにやら言い争うような声が聞こえ、すっとドアが開く。
その向こうには、むっとした表情のロキが立っている。
「ああ、大槻さん、晩御飯?」
「うん。賑やかだな、何を揉めていたんだ?」
促されて入室すると、八畳ほどの居室に、イフリートとレヴィアタン、それに、子犬。
「こいつらさあ、ケンカばっかりでうるさいんだよ」
「主に席を立たせて応対を頼むなど。
もし間者であったら危険であっただろう」
「ならお前が行けばいいじゃねえか」
「新参が真っ先に腰を軽くするべきだ」
「はあ? おいロキ、こいつマジなんとかしろよ」
「黙っていられないなら二人とも消えてろ!
これからメシなんだから、少しは静かにしてろって。
ね、うるさいっしょ?」
一喝して困った顔で振り向くロキに、苦笑を返して肩をすくめて見せながらトレイを渡す。
「ん、ちょっと待って、それがメシ?」
イフリートが立ち上がって食器を覗き込み、顎に手をあてて眉を寄せる。
レヴィアタンは大きなクッションにゆったりと寄りかかり、
ペットボトルのミネラルウォーターを飲みながら様子を窺っている。
「うーん、バランスは悪くないけど、これじゃ栄養不足だな」
「えー、多すぎるくらいだよ。てかさ、出してもらったメシに文句言うなよ」
「これで多すぎるって、お前、十代男子だろ。
もっと食え。そんで血を増やせ」
赤銅の青年の言葉に、ああ、と納得した表情でトレイの食事に視線を落とす。
「なあ、おっさん、竈のある部屋に代えてくれ。
コイツのメシは、これから俺が作る」
「え、焔ってメシ作れるの?」
「ったり前だろ。火の精ってのは、台所の精も兼任してんだよ」
「ふむ、イフリート君のいう事ももっともだな。
竈はさすがに無理だけれど、大きなキッチンのある部屋を用意しよう。
って、エン?」
「ああ、うん。レヴィは呼びやすいけれど、イフリートって略し辛いだろ?
で、火焔のエンって呼ぶ事にしたんだ」
そういってテーブルにつき、両手を合わせていただきます、といい食事を始めた。
やはり、どうみても、普通の高校生。
その傍らには、火焔魔人イフリートが、よく噛め、野菜も食え、と口を出して煩がられ、
気だるげにミネラルウォーターを飲む、海龍、レヴィアタンがいる。
大槻は思わず、カオスな空間だよなあ、と思う。
その時、警報が鳴った。