種族
吉井がイフリートに向き直る。
「この状況、何か問題があるか?」
「大アリだね」
「具体的には?」
「俺が二番になった」
「それは、どういう?」
「気分悪いだろ。俺様は常に、何事も一番なの。
レッドが一番、ブルーが二番、これ、世の常識。
ロキ、あいつと契約やり直せよ」
「やだよ、めんどい。
てか、レヴィにも血をあげて育てないといけないわけ?」
ああ、と、イフリートが幾分むっとしたまま返す。
「それは大丈夫。あいつと俺は、種類が違うから」
「種類? というと?」
質問主の吉井に顔を向け、答えを続ける。
「あんたらのいう、卵から孵るタイプは、例えれば種なんだよね。
あの中に、魔族のモトが入っている。
与えられる遺伝子情報は、水とか養分とか。
もし主が、もっと凶悪な奴だったら、俺もその影響を受ける。
邪神ってやつになるだろう。
だからって、全く別な物にはならない。
ドングリの木にイチゴはならない。
俺たちは、主に創られる。言うなれば、ある意味親子。
俺の血管にはロキの血が流れる。
離れようと疎遠になろうと、契約が破堤しようとも、
全くの他人にはならない。
あいつらは違う。
生まれた時からすでにある程度完成しているし、
主を持たなくても問題なく成長していく」
「なら、なぜ彼と契約を?」
「さあね。なんか、魅力的な事でもあったんじゃないの?
ああ、誤解がないように言うと、主を持つのは悪い事じゃないんだよ。
野良犬と飼い犬の違い、っていうと、飼い犬は損している、と思う?
野良犬は自由だし、自らの主だけど、それって意外としんどい。
やつらの人生っていうのかな、生きている目的って、
その日喰って、ヤッて、子孫を残す、くらい。
どこでも好きなところに行っていいって言われると、
漫然としちゃうものなんだけど、
主を持つと、進む道がクリアになる。
誰かに喜ばれる自分であるっていうのは、指針なんだよ。
倫理と道徳を持つ事で、知的レベルがぐんと上がる。
幸か不幸か分かれるとするならば、主の質次第、ってわけ。
はっきり言って、誰だって、自分の主を食い殺したりしたくねえよ」
「契約は、口約束で成り立つのか? その強制力は?」
「奴らも契約の最初に、ロキの遺伝子を入れているはず。だろ?
そうやって自分の中に印をつけておく。
主がどんな奴か、自分はどう行動すればいいか、
それでだいたいの判断はつく。
で、主にも自分の印を残しておく。
ヤツの場合、自分の鱗をロキの体に埋めてある。
これは、アンテナみたいなもの、って言えばいいのかな。
お互いの体の一部を交換する事で繋がっている。
契約の強制力は、もちろん、俺たちの方がずっと上。
俺たちは言うなれば、主の手足。
あいつらは契約の対価が気に入らなければ、命令を無視する事もできる。
ま、普通はよっぽどひどい命令じゃなければ聞くだろうけどね。
そこ無視しちゃったら、さっき言った、主を持つ意味、
生きる指針みたいなものも否定する事になっちゃうだろ?」
「卵に血液を与えて孵化させる以外に、
自然界にいる魔獣が眷属になるだなんて」
「どっちが一般的かっていえば、卵の方かもしれないけどね。
俺が知る限り、自然界の魔族が従属する事もそうそう珍しくはねえな」
愕然としたような薗田にも、軽い調子で応える。
「そうやって魔獣がみんな主を持てば、
地球がこれ以上襲われる事はなくなるんじゃね?」
ロキの言葉に表情を少し厳しくして、哀しげな眼をした。
「やつらが主を持って住処を離れれば、次の魔獣が生まれるだけ。
きっと今頃、どこかの海で新しいシーサーペントが生まれているはずだ」
「それで、魔族への裏切りだ、などと逆恨みされる事は?」
「それはないね。俺たちもやつらも、魔族は基本的に個人主義って言うの?
自分のやりたい事は自分で決める。
同族同種であっても、自分の不都合にならなければ、
他のヤツの事は気にしない」
ここで交わされた数時間の会話は、世界的な変革をもたらす。
人類の約五年間の研究の成果が、基本的に大きく覆された。
しかし、深淵の底はさらに遠い。
とりあえず、ここまでの事象を整理しなければ追いつかない。
緊急召集は、解散となった。
エン(以下 エ):さて、今回は、人といろんな関わり方をする魔族がいるよ、って話なわけで。
レヴィ(以下 レ):ああ。
エ:魔族を人間とのかかわり方で分けると、ざっくり三種類に分けられる。
卵に封じられている者、これは、人に仕えるために存在していると言っていい。
自然界にいて、様々な条件の元、人に仕える事がある者、
三つ目が、ごく少数だけど、人には仕えない者。
人に仕える、って言っても、神の遺伝子を持つ者に限られるけれどね。
レ:そうだな、ここから先は、ネタバレもあるので、詳しい説明はまた後日、だな。
エ:だね。
ただ、本文の中にも出てきたけれど、自然界にいる魔族が人に仕えると、
新たな魔族が生まれる。
今現在、地球上には二体のレヴィアタンがいる。
レ:我が一族は誇り高き種族。そう簡単には人には仕えぬ。
神の血も薄まった昨今、これ以上海龍が増える事はないだろうな。
エ:うん、龍一族の中でも、レヴィアタンって言えばかなりレアキャラだよね。
俺もまさか、主がお前を眷属にしているとは思わなかったし。
今夜は、そろそろこの辺で。
毎日暑いけれど、みんな、体調には気を付けてね。
レ:夏本番となれば、海難事故にも気を付けていただきたいな。
エ:そうだね。って、お前にしては珍しく、人間寄りのセリフが出たね?
レ:珍しくとはなんだ。だ、だいたい、別に人間共のためではない。
我が領域が穢される事の無きように、と、そう申したまでで。
エ:あー、はいはい、ツンデレツンデレ。
では、夏男、イフリートのエンと、
レ:海龍、レヴィアタン、でした。
エ:もっと暑くなったらさ、ロキと海行こうぜ。
レ:おー。