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黄昏のエッダ  作者: 羽月
海龍
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警報

平日の昼間だというのに、待合室は混み合っていた。

所在なさげにそれとなく見回すと、並べられた長椅子は、ほぼ満席。

お年寄りが多く、小さな子供とその母親、若い人も数人。

ポーン、という案内音の後、今度こそは自分の名前かと、数人が身構えて耳を澄ます。

隣に座っている連れの老婆をみると、何の用があるのか、

小さな手提げバッグの中を探っている。


「今日は、膝の薬、でるかねえ」


「さあ。痛むんなら、先生に言ってみれば」


そうだね、海藤先生に言おうね、と独り言のようにつぶやくのを聞き流して窓の外を見る。

ここ、山之上病院は、その名の通り、山の上にある。

白い光と、生い茂る立木の向こうに、煌めく海が見える。


十七歳の少年と、小さな老婆。彼らは、一見、孫と祖母、もしくは曾孫と曾祖母にみえる。

けれど、実際は血縁関係にあるわけではない。

彼、谷城季実には、家族も親族もいない。

八歳から中学を出るまで児童養護施設で過ごし、現在は、

夫に先立たれ子供も巣立って寄り付かなくなった老婆の家に間借りしながら、

昼間はスーパーで働き、夜は定時制高校に通う生活を送っている。

老婆は最近、痴呆の症状かな、と思われる事が多かった。

週に一度程度、仕事のシフトが空いている時間に一緒にバスに乗り、

こうして、山の上にある山之上病院に付き添う。


待合室のそちらこちらで、一斉に軽やかなメロディが流れ、はっと意識を戻す。

誰もが自分のケータイを取り出して画面をみている。

季実もそれに倣うと、間を置かずに、病院のスピーカーからきき慣れた音楽が流れる。


(遠き山に日は落ちて)


やわらかい、オルゴールのメロディの後のセリフは、聞かなくてもわかる。


『避難警報です。慌てず、近くの避難指定施設に入ってください。

 繰り返します。避難警報です』


『当医院は、避難指定施設になっています。

 避難警報解除まで、このまま、当院にてお待ちください』


ごうん、と、不穏な地響きがして、窓がビリビリと震える。


「ろきちゃん」


老婆が季実のパーカーの袖をぎゅっと掴む。

ヤシロ・キサネ。苗字の最後と、名前の頭文字をとって、ロキ。友人が呼び始めた名。

老婆にはキサネという名は発音し辛いのか、覚え辛いのか、すんなりと出てきた試しがない。

彼の部屋を訪れた友人が呼ぶのを真似てロキと呼ぶようになった。

不安そうな表情に、笑顔を見せて応える。


「大丈夫だよ。このまま、ここにいよう。すぐに済むよ」


「でも、なっちゃんが」


ぞくり、と、悪寒が走ったのを隠して言葉を返す。


「ナツだって、ちゃんと安全なところにいるよ。子供じゃないんだから」


「でも、なっちゃん、赤ちゃんが生まれたばかりだよ。

 赤ちゃん、二人もいて、ちゃんと連れて逃げられたかねえ?」


老婆の家に来てからずっと、ナツは季実に優しかった。

けれど、少し前に双子を産んでから、やたらと神経質になった。

父親は、どこのどいつかわからない。

こんな時勢にたった一人で、赤子を必死で育てる彼女が不憫で、何か手伝いたかったが、

どこかよそよそしく、季実が近づくのを拒むようになっていた。

ナツはもともと童顔なのだろう、体も小さく華奢で、

頭では、自分より大人だとわかっていても、子供のように見えてほっておけなかった。

子供達は可愛かった。まあるい、真っ黒な目で見つめてくる。

できたら一緒に遊んだりしたかった。

ばあちゃんは、「なっちゃんは、一人でできているんだから大丈夫だよ」というが、

バイト代から滋養のあるものを買って運んだりしていた。


「ねえ、ろきちゃん、なっちゃんと赤ちゃんは、大丈夫かねえ」


(遠き山に日は落ちて)が繰り返し流れている。老婆の不安そうな声に、感情が波立つ。

看護師が待合室を歩き回り、患者に落ち着いてその場にいるようにと声を掛ける。

閉まりかけた自動ドアを、男性のスタッフが抑え、駐車場からかけてくる人たちを呼ぶ。

と、子供が転んでしまったらしく、その泣き声にロビーのスタッフが一瞬、外に気を取られた。


「ばあちゃん、トイレ行こう」


きょとんとする老婆の手を引いて立たせ、身障者用トイレに入る。

広い個室の奥側の壁には、胸から上くらいの高さの、大き目の窓がある。


「家に帰って、様子みて来るよ。ここの窓からでていくから、誰かがカギ閉めちゃったら、

 ばあちゃん、開けておいて。いい?」


「大丈夫かい、ろきちゃん。気を付けてね。なっちゃんをみてきてね。赤ちゃんもね」


頷いて窓枠を乗り越え、外から静かに閉める。

老婆は数秒、ぼんやりとその場にいて、思いついたように用を足した。

そうしながら窓を見ると、カギが開いている。


「不用心だねえ。海藤先生に言わないとね」


カチリ。

老婆は窓のカギを掛け、トイレを後にした。

エン(以下 エ):本日より連載開始しました、黄昏のエッダ、いかがでしたでしょうか?

         「あとがき」のスペースをお借りして、

         俺ら眷属二人がメインパーソナリティとして、

         本編の設定の補足など、時に、ゲストなどをお迎えしつつ、

         楽しくおしゃべりしていけたらいいなと。

         レヴィ? 黙ってたら話にならねえだろ。お前もなんか喋れよ。


レヴィ(以下 レ):我々まだ本編に名前どころか存在すら登場していないのだが。

          画面越しに「お前ら誰だ」という気配を感じずにはいられぬ。


エ:気にしすぎだって。そのうちね、でてくるから。近いうちに。

  それまでのお楽しみという事で。


レ:いいのか、それで。


エ:えっと、まず、今回はロキの初登場、という事で。


レ:うん。主様ピンチ、だな。ナツ殿と幼子たちの安否やいかに。


エ:ここから、ロキは戦乱に巻き込まれていく、と。

  さて、ここで早速最初のお便りの紹介。


レ:ちょっと待て、始まったばかりだぞ? お便りって。


エ:記念すべき最初のお便りは、世田谷区のみーママさんから。

  「エンさん、レヴィさん、こんにちは」はい、こんにちは。

  「黄昏のエッダの時代背景って、いつぐらいですか?」というご質問。


レ:我々の名前まで。みーママさんとやらは、諜報能力に長けた魔族か?


エ:時代背景は、現在より、数十年から百年程先の未来、場所は日本の地方都市、

  とまあ、わりとざっくりした感じで。


レ:近々、東京に移るだろう?


エ:ああ、本部? そっか、じゃ、東京のどこか。小金井市あたり? 

  小金井市って、響きカッコよくね?


レ:ちょっと何言ってるのかよくわからんが。


エ:町田でもいいよ。


レ:では、町田のハンズをちょっと入ったあたりという事で。


エ:ピンポイント過ぎだろ! ないからね? フィクションだから。


レ:みーママさん、お便りありがとう。


エ:お前、言ってるワリにノリノリだな。

  で、だ、次回はいよいよレヴィが登場してくるわけで。


レ:町田ではないが、な。


エ:どんだけ町田好きなんだよ。

  次回に乞うご期待! という事で、今回はこの辺で。

  イフリートのエンと、


レ:海龍、レヴィアタンでした。


エ:では、またー。


レ:本当にいいのか、こんなので。


エ:ま、初回だし、とりあえず。


レ:先が思いやられるな。

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