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黄昏のエッダ  作者: 羽月
イフリート
17/104

検分

カードキーを通して作動させたエレベーターで一気に地下へ降りた。

どれくらい深い場所なのかは、想像もつかない。

とあるドアの前で大槻が再びカードキーを通し、キーボードになんらかの入力をすると、

シュ、と音を立ててスライドする。


「ここ、本当は幹部以外立ち入り禁止なの。私も初めて入るわ」


薗田が、季実にそっと耳打ちした。

季実は大槻の後について、おそるおそるその部屋のドアをくぐった。

無機質な、広い部屋だった。

奥の壁際まで歩くと、ガラスケースの中に、

大槻の手の中にあるものとそっくりな容器に入れられた卵が並んでいる。


「どうだ?」


一歩下がって促すと、季実は戸惑いながらケースの中を覗いた。


「本当にこれ、二人とも見えないの? 卵しか?

 ええとね、一番端から言うと、この青っぽい卵は、白い馬。

 めっちゃキラキラしていてきれいで、おでこに金色の角が生えている。

 隣の黄色い卵は、鳥だね。オレンジの孔雀みたいなやつ。

 この灰色のは、犬。

 これカッコいいな、これにしようかな、二匹入っていてお得だし。

 って、あれ。二匹、じゃない、のかな。

 うーん? 真っ黒で、ごわごわした毛で。

 頭が二つで、体が一つ? え。あれ?」


「オルトロス、か?」


「おるとろす?」


「地獄の番犬、ケルベロスの兄弟、と言われている。

 ケルベロスは頭が三つあって、オルトロスは二つ」


「へー、オルトロス。いけ、オルトロス! おー、いいね、カッコイイ。

 でもさ、頭の数が多いなら、ケルベロスの方がお得っぽいね」


能天気に品定めしながら、ふいに困惑したように目をこする。


「んー、よく見えるのと、見えないのがいるな。

 はっきり見えるのと、ぼやけるのと、薄いのと。何が違うんだろう」


「良く見える方が、相性がいい、とか?」


興味深そうに身を乗り出してそういう薗田に、ああ、そうかも、と頷く。


「って事は、一番はっきりしているのを選ぶべき、だよね」


大槻と薗田も、その言葉に同意する。

裏付けはないが、ジェーナの保有率により、眷属の強さが変わる事は、

今や常識となっている。

0・1%をわずかに越す大槻と、0・5%に近い他国のジェーナホルダーでは、

その眷属の戦力には雲泥の差がある。

それが、17%を優に超すとなると、世界にも類を見ず、

一体、どれだけの戦力になり得るのか、想像もつかない。

順番に卵を見ていて、う、と言って動きを止めて俯く。


「どうした?」


「え、いや。めっちゃやる気ありそうなやつがいるんだ。

 暗くてうじうじしてるヤツは嫌だけど、さすがにあれは。でも、あー」


「どんなやつなんだ?」


「えっと、多分、火。火系の何か。やたら暑苦しい。

 あのね、大変不本意なんだけれど」


そういって口をつぐむ季実の次の言葉を待つ。

はあ、とため息を吐いて、決心したように続ける。


「直観、っていうのかな、本能的な何かが、あいつにしろって言ってる。

 でもなー、オルトロス、可愛いのに」


「未練はわからないでもないが、優先すべきは戦力だ。

 少しでも有利になると思われれば、そっちを選んで欲しい」


未だに納得はできなかった。

卵については、まだまだ分かっていない事が多い。

孵化にも諸説あって、

ジェーナホルダーが元々持っている素質に応じた妖魔が作成される、

という説が有力だった。

それが、中身は初めから決まっていた、それらとは相性がある、なんて。

答えは、すぐに出る。

季実が言い当てた物と同じ妖魔が孵化すれば、

彼の言っている事は本当、というわけだ。

卵の選定について、大きく前進する事になる。


「よし、決めた。しょうがない、あいつにするよ」


大槻はほっとして頷き、季実が「暑苦しい」といっていた卵の容器を取り出した。


「ああ、そうだ」


どこか不服そうな表情を浮かべる季実に、大槻が声を掛けた。


「お隣の、片品さん、わかるかな」


「ああ、隣のおばちゃん? よくばあちゃんのところに来てた。

 え、片品さん、何かあったの?」


「いや、君に伝言を頼まれているんだ。

 松沢さんの家の片づけをしていた職員が、ナツちゃん、だったかな、

 それと、子犬の遺体を見つけてね、

 片品さんが引き取って、自分の家の庭に埋めてくれたんだそうだ。

 出先で避難指示を受けたので、自宅に戻って驚いた、

 可哀想な事をしてしまった、と、君に謝ってくれと」


「そっか、ナツ達、埋めてもらえたんだ。よかった、気になってたんすよ。

 片品さんが悪いわけじゃないのに」


そういってへらっと笑ったと思うと、頬を伝って落ちた涙を、無造作に手の甲で拭いた。

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