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黄昏のエッダ  作者: 羽月
イフリート
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浄土

薗田が紙コップのコーヒーに、あち、と眉をしかめる。


「ねえ、どう思う? 浄土って、極楽浄土の、あの浄土、よね」


先ほどのミーティングの後、季実は他所で再び検査や血液採取を受けており、

午後からは催眠誘導やショック療法などが予定されている。

大槻がテーブルを操作すると、ホログラムが浮かび上がる。


極楽浄土。

阿弥陀如来が作った、安楽の地。遥か西方にあり、花が咲き乱れ、鳥が歌う。

美しく豊かで悩みも苦しみもないとされる。


さらに、浄土のみで検索。

仏の住む清浄な地。仏の数だけ浄土は無数にあり、

有名なのは、阿弥陀如来の作った極楽浄土。

他にも、浄瑠璃浄土、霊山浄土、補陀落浄土、など。


「なるほど。

 神族を仏教の菩薩や仏に例えれば、こことは違う空間に無限の土地を作り、

 そこを理想郷に仕立てるくらいの事はやってのけても不思議ではない」


「吉井さん、でも、さっきのヤツの話、頭から信じていいんでしょうか。

 聞きようによっては、年寄りの世迷言とも取れかねません」


「確かにな。けれど、バックグランドが整い過ぎている。

 経緯はともかく、谷城季実の近しい場所に神の存在があった事は確かだろう。

 大槻君、卵の件は?」


「今日の午後に予定しています」


「待ってください、ヤツに卵を与えるんですか?」


菅原がテーブルを叩くように身を乗り出して抗議の声をあげる。

吉井はちらりと一瞥し、再び大槻に向き直った。


「谷城季実の素行等について、どう見る?」


「多少反抗的な一面もありますが、まあ、まだ子供ですし。

 昨日はいろんな事がありましたから、混乱していたとも言えるでしょう。

 基本的には、素直で扱いやすいように感じました」


「今までの血液検査の結果が、なくなっていた事は?」


菅原が冷たい声で発言する。


「現在調査中だが、彼が直接かかわっていた可能性はゼロに近い。

 消え失せたとしか言いようがないそうだ。

 まるで、蒸発でもしてしまったように、な」


「私は奴を信用していません。本部に置いておく事自体反対です」


吉井の言葉に、ふん、と、胡散臭げに視線を逸らしながらそう言う。


「かといって、ここ以外の場所にいさせるわけにもいかない。

 現状では戦力の確保が最優先課題だ。保険はかけておく。

 とにかく、しばらくは彼の動向、言動に充分注意してくれ」


各々頷き、はい、と返事をして部屋を後にしていった。

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