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黄昏のエッダ  作者: 羽月
イフリート
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訊問

朝食後のミーティングの席に、季実も同席した。

課長の吉井、主任の大槻、薗田女史、ジェーナホルダーの高岡と、医局の菅原。

簡単な自己紹介の後、吉井が質問を始めた。


「君の家族について聞きたい。一緒に暮らしていた曾祖父は、どんな人物だった?」


「じいちゃんっすか」


「何でもいい。思い出したことを、全部」


季実は困ったようにうなじに手を置いて首をかしげてからぽつりぽつりと話した。


「別に。ずっと寝たきりだったよ。

 ああ、でも、俺がすげえ小さかった頃は、まだ歩けていたと思う。

 庭をゆっくり歩いていたの、見た気がする。あと、縁側に座っていたり。

 半分、ぼけているっぽかったけど、話しはできてた。

 母さんを呼ぶ時さ、ううーって言うんだよ。呻くっていうの?

 あの声、たまんなかったな、なんか。

 そうすると、母さんは夜中も起きて、おむつ変えたり、寝返りさせたりしてた。

 俺は、あれ持って来いとか言われると、持って行ったり、食事運ぶの手伝ったり。

 学校で朝顔育ててさ、種まいて。夏休みに花が咲いたからじいちゃんに見せたら、

 こいつの種は毒があるんだ、喰っちゃだめだぞ、とか言われたな。

 普通さ、花がきれいだ、とか言うだろ?

 朝顔の種なんか、食うわけねえのに。あ、でも、ヒマワリだったら食うか」


会議室に、なんとも言えない空気が漂う。昨夜、大槻が感じたものと、多分同じ感覚。

普通の人間過ぎる。いや、むしろ、平均的な日本人の生活より劣ってさえいるような。

ミーティングの議長を務める吉井が、秘かにため息を吐いて質問を続ける。


「誰かが、定期的に会いに来ていた、とか、印象に残っている人物とかは?」


「うーん、介護のおばちゃんでしょ、

 あと、農協の人とか、近所のおっちゃんとかが、たまに。

 まあ、じいちゃんを訪ねてっていうのは、あんまりなかったかな。親戚もいないし。

 関係ないかもしんないけど、うちってさ、呪われているらしいよ」


「呪われている?」


不穏な言葉に、さすがの吉井も眉をひそめた。


「夭逝の家系なんだって。

 ああ、ようせいって、フェアリーじゃないよ、早死になんだ。

 墓碑みるとさ、だいたい、十代とか、子供作る前に死んじうヤツばっか。

 恨みでも買っていたのかもね」


その話の内容は、大槻が昨日確認した家系図の情報とも符合する。

病死だけではない。事故や不審死も多い。偶然とは言い難いほどに。


「他の家族については? 両親とか」


「母さんは、いっつもきつそうだったな。疲れているっぽかった。

 俺ももっと手伝いたかったけど、ガキだったし、お前は気にするなって感じで。

 優しい、しっかりした人だとは思うけど、多分、アタマはそんなに良くない。

 もうちょっと賢かったら、マシな人生送っていたと思う。

 親父はね、クズ。どうしようもないクズ。あいつに関しては、他はなんもないよ」


不自然さは特になかった。少なくとも季実にとって真実なのだろうと思われた。

今日の収穫は、ごく普通の、介護に行き詰った家庭だった、ということくらいか。

と、いう空気の中、季実が「ねえ」と声を掛けた。


「じいちゃんってさ、神様だったの?」


「今のところ、確証はない、が、確率は高いと思っている」


「そっか」


そういって俯いて、足の上で組んだ指を見ながら、再び話し始めた。


「ぼけてんのかと思っていたよ。もっとちゃんと話、聞いてやればよかった。

 だってさ、自分は神なんだ、とか言われてもさ、普通信じないでしょ?」


「ちょっと待って、それ、おじいちゃんが言ったの?」


薗田が身を乗り出すと、事もなげに、うん、と肯定する。


「良く言っていたよ。前に俺がさ、じゃ、じいちゃん、死なないねって言ったら、

 いつかは消えてなくなる時が来るけど、永遠に近いくらい死なないって。

 でも、もう少ししたらここからいなくなる。

 そうしたら、母さん楽になるなあって。

 じいちゃん、どこ行くのって聞いたら、浄土に行くんだって。

 じいちゃんは神だから、自分で浄土を作ってそこへ行くって言ってた。

 そこはすげえいい所で、自分が気に入ったやつしか入れてやらないんだって。

 俺も遊びに行ってもいい? って聞いたら、いつか時が来たら呼んでやる、

 お前も母さんも、そう望むんだったら入れてやるって。

 じいちゃんも母さんも、本当に浄土ってところにいるのかな」


最後は、自嘲なのか癒しなのか、薄く微笑んで目を伏せる彼に、

誰も言葉がなかった。

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