系譜
自室に戻り、大槻は新しく増えた資料を読み耽っていた。
季実の両親、そのまた両親。遡れるだけの戸籍と家系図。
怪しそうなのは、ここだ。父親の祖父、谷城霜司。
この人物のみ、両親とされている人物の親、両祖父母欄が空白、他に血族もいない。
旧姓、神室霜司。
大きな農家であった谷城家の長女と結婚して婿入りし、男の子を一人設ける。
これが、季実の祖父にあたる。
農家を継がずに都会にでて就職、結婚。男子が生まれて間もなく病死している。
夫を亡くした妻は、まだ幼かった季実の父親を夫の実家に預けた後、失踪。
季実の父親は、年老いた祖父母に育てられた。
神と呼ばれる一族であった、祖父に。
やがて、結婚、季実が産まれるが、この頃から父親は家に寄りつかなくなる。
報告書を見る限り、はっきりいって、ひどい父親だ。
祖母が他界し、寝たきりになった祖父と、幼い季実の世話を体の弱い嫁に任せきり。
経済的にもかなり困窮していたようだ。
これが、我らより、遥か高度な存在だといわれる種族の晩年?
彼らは、一体何者なのだろう。一体、何が望みなんだ。
没年は季実が七歳の時。この後、母親は体を壊し、他界している。
この老人でアタリであるとするならば、季実も幼少期、神と暮らしていた事になる。
大槻は大きくため息を吐いて、椅子の背もたれに体重を預け、目頭のあたりを揉んだ。
季実は、今頃あのチビ犬と寝ているのだろう。
なんという事もない夕食にも、設えた簡素な部屋にも、感嘆の声をあげていた。
「おー、すげえ、めっちゃ豪華。これ、いいの?」
と。衣服にだけは、だせえ、とテンションを下げていたが。
生い立ちは多少特殊だが、個性としては、ごく普通の十七歳にみえる。
同情は禁じ得ないが、「可哀想」で腫れもの扱いしてやる余裕はない。
彼の遺伝子と曾祖父の記憶は、重大な意味を持つはずだ。
季実から得られる情報が欲しい。多少傷付ける事になったとしても。