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黄昏のエッダ  作者: 羽月
イフリート
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告示(2)

ロキと名乗った少年が、そっと、左の脇腹辺りに手を置き、視線を落とす。


海龍は、世界数カ所を破壊してきた、現在確認されている中でも最大級の魔獣。

その魔獣と接触し、会話をしていたというだけでも、

彼を簡単に帰すわけにはいかなかった。

海龍の襲撃を未然に防いだ要因、状況は、徹底的に究明し、報告しなければ、

各国が納得しないだろう。

下手をすれば、この日本が海龍と手を組み、

操って攻撃を仕掛けていたのではないかという疑念を持たれかねない。

まして、その当の本人が、十七%を越すジェーナを保有していました、

全国民に行っていた血液検査の結果は、なぜか見落としていました、

などという事を、言えるはずもない。


「あの海龍と、今まで会った事は?」


「ないよ」


「何を話していた?」


「町を海に沈めるっていうから、やめろって言った」


「職員を見て逃げたのは?」


「避難指示無視してんのばれたら、やばいかなって」


憮然とした季実の態度に、大槻が思わずため息を漏らす。


「さっきも話したが、地球外への移住にはまだ時間がかかる。

 それまで平和を保ち、生産と消費を、

 普通の生活を営んでもらわなければならない。

 一人でも多くの人々に、少しでも安全に生き延びてもらうよう働くことが、

 我々の使命だ」


「なんで、そんな話を、俺に?」


「魔獣の力は、絶望的に強大で、

 人類が作った兵器では、致命的なダメージを与える事ができない。

 が、我々にも全く対抗手段がないわけではない。

 人類に、僅かながら、魔獣を従属させる事ができる者がいる。

 その人々には、共通点がある。

 ジェーナホルダー、神の遺伝子を継ぐ者と呼ばれている。

 君は、神話には詳しい?」


「ギリシャ神話、とか? 星になったりするやつでしょ?

 ちょっとは聞けばわかるかも」


「ちなみに、君の呼び名、ロキというのは、北欧神話の神の名と同じだ。

 これら世界中に残されている神話は、ずっと単なる作り話だと思われてきた。

 が、太古の昔、我々人類とは違う、

 もっと高度な者たちが、この地球上に存在していた。

 彼らは、我々の近くにあって、神と呼ばれ、時に人類との間に子を成した」


「その、子孫、ってわけ?」


「そう。

 神々はかつて、世界中に存在していたが、徐々にその姿を消していった。

 妖精や、魔獣といった類の生物も、ほぼ時を同じくしてこの地上から消えた。

 最後に神と人との間に生まれた子とされているのは、

 日本で言えば江戸時代中期。

 神の遺伝子は代を重ねるごとに薄まり、現在は数名しか確認できていない。

 各国で定期的に全国民に血液検査を繰り返し、

 人々の体質の変化を把握しつつ、戦力になりうる者を探し続けている」


「もしかして、俺も、その」


自嘲気味にそういう彼に、真剣な表情で頷く。


「信じ難い事に、君は、三親等以内の神の遺伝子を保有している。

 君の遺伝子の、十七%以上が、神の遺伝子だ。

 つまり、君のひいおじいさんかひいおばあさんが神であった、という事になる。

 君の物は、これまでに確認されてきた遺伝子パターンのどれとも違う。

 全く新しい神の遺伝子、

 もしくは、二種類以上のものが混ざっているというわけだ。

 得心できない事が、もう一つある。

 さっき医局の菅原も言っていたが、血液検査の結果は厳重に管理されている。

 君の結果は誰かに意図的に隠されていたと考えるのが妥当だろう」


「いや、俺、知らないっすよ、マジで」


「どちらにしても、君は最重要人物だ。

 しばらく、ここにいてもらわなければならない。

 いろいろ、聞きたい事もあるし」


大槻の言葉に、はあ、と、大きく息を吐いて椅子の背もたれに体重を預け、

入り口の扉近くの机の足元をうろつく子犬に視線を送る。

再びノックの音が響く。入室してきたのは、二十代半ばの女性。

小さなトレイを両手で持ち、大槻、季実、と視線を走らせて、

すぐ足元の子犬を見つけ、嬉しそうな笑顔を浮かべる。


「この子のごはんを持って来たの。

 あ、私は薗田って言います。よろしくね、キサネ君」


「はあ、どうも。あの、ミルクじゃなくて大丈夫なんすか」


薗田女史が机の下に二つの器が乗せられたトレイを置くと、

子犬は早速ガツガツと食べ始めた。


「子犬用のフードをお湯でふやかして持って来てみたの。大丈夫みたいね。

 やっぱり、おなか空いていたのね」


季実はほっとした笑みを浮かべ、

ありがとうございます、よかったな、チビ、と声を掛けた。


「チビっていうの? この子の名前」


「え、いや、名前はまだ付けてなくて。なんとなく」


薗田は小さな尻尾を振りながら食器に顔を突っ込んでいる、

真っ白な子犬をそっと目の前に抱き上げた。


「男の子だわ」


と、笑いかけると、季実はちょっと照れたような笑みを浮かべた。

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