独立
「今まで、私が身分を明かさず、手を出せなかったのには訳がある。
この惑星の時間で数年間、EARTHには調査団が入っていた。
EARTHは、特別保護付きの、個別種生息独立惑星として認められた」
「え……!」
霜司が目を見開き、言葉を失くす。
「あの、もう少し、詳しく説明してもらえませんか?」
大槻の言葉に、高城が表情を柔らかくして頷く。
「惑星の使用許可証、というのは、その名の通り、我々が作成した惑星を使用する許可を持つ者に与えられる証明です。
それを持つ者は、政府の定める規定内であれば、惑星を自由に使用する事ができます。使用用途は主に、ゲームの舞台、テーマパーク、実験施設、工業地帯、イベント会場など。
我々が移住せず、我々以外の固有種が生活する惑星は、いくつかの条件が揃えば、我らの属星ではなく、独立した惑星だと認められます。
定められている条件の内容は、多岐にわたります。
固有種が我々の管理の手を離れても社会性を持って生活している事、定められている以上の知能と科学力を持ち、安全に管理できている事、宇宙空間で一定期間以上生息し続ける事ができる事、など。
皮肉な話だが、迷惑プレイヤーの存在があって、ゲーム運営会社が完全に撤退した事、その男の作った妖魔に襲われ、宇宙空間への移住を大幅に前倒しした事で、すべての条件がそろったと認められた。
EARTHは、今、この星に生きる全ての者たちの物となりました。
これ以降、特別な許可を得ている者以外、我らの星の者は、この星に対し不可侵。文明への関与、人命を奪ったり居住地を脅かしたりする行為も、もちろん禁止。
これらは説明するまでもなく、たかだかゲームの運営会社の規則ではなく、我ら一族全体の法によって定められている。
当然、使用許可証は無効。
少しでもきちんとEARTHを知ろうとする者ならば、この惑星が近々、独立認定される事を知らないはずはない。
この星の使用許可を買い取るために大金をかけるなど、大金持ちの酔狂か、この星を全くわかろうとしていない者のどちらかだ」
「そん、な」
へたり込む霜司を横目に、高城がロキの前に立つ。
「調査期間中は、我々がこの星の事象や、ヒトの社会性に対して手を出していないという事を含めてチェックされる。
おおっぴらに動く事ができず、辛い思いをしていた幼かったロキ君を、見捨てるような形になってしまい、申し訳なかった」
「いや、助けてくれたっしょ? 高城センセ」
ロキがへらりと笑って首を横に振って、困ったような表情に変わり、頭を下げた。
「なんか、すんません、うちのじいちゃんが、あんなで」
「謝らなければならないのは我々の方です」
「じいちゃん、どうなるんっすか?」
へたり込んだままの霜司が、ぴくりとロキを見上げ、視線を落とした。
「これから本星へ連行して取り調べが行われます。
正式な罪状が確定するのは、その後ですが。
君のもっと古い祖先、清羅を作った、EARTHの開発に携わっていた者は、現在私の直属の上司でね、彼女のEARTHへの思い入れは半端なく強い。
清羅の事を、この星での信頼できるパートナーとしてとても大事にしてきたようだし、君の大ファンで、活躍をチェックしては大騒ぎしているんです。
ああ、あんまりこういう事を話すと怒られてしまうかな。
この男の、君やEARTH、清羅に対する行為には怒り心頭なんだ。取り調べは、かなり厳しいものになるだろう。
資産は凍結、といっても、EARTHの使用権利への投資の失敗で、破産は確定、だろうけれど」
高城が少しいたずらっぽく微笑むと、霜司は真っ青になってがっくりと項垂れた。それを見下ろし、高城が手を振ると、ロキの眷属たち、新しい風魔と海龍が現れた。みんな傷一つなく、清潔な衣服で、恭しく跪く。
「ああ、いいんだ、楽にして顔をあげてくれ」
高城の声に、魔族たちが顔をあげ、すっと立ち上がる。
「風魔、君の記憶は正しいものに書き換えさせてもらう。
引き続き、担当地区の守護にあたってくれ。シーサーペント、君もだ」
幼さの残る風魔と海龍が、並んで頭を下げる。
次に、ロキの眷属たちの前に立つ。
「君たちは、よくロキ君を守ってくれていたね。
これからも覇天の管理者を守護し、助けていってくれ」
エン、レヴィ、オルトロス、それと、アキとフユが穏やかな表情で頭を下げる。高城は満足そうに、ロキに向き直った。
「これからも妖魔との戦いは熾烈なものになるだろうが、頑張ってくれ。
活躍に期待しているよ」
「えっ、ちょっと待ってよ、妖魔、いなくなるんじゃないの?」
ロキの驚きの声に、高城が目を丸くした。