根拠
「勝手な妄想ばかり言うなって言っているだろう! 何の証拠があるんだよ」
「証拠か。ならば言おう。
ロキ君が清羅と接触をし、清羅に受け入れられ、当主と認められたと知ったお前が、何をしたか。
お前は、清羅の、谷城の一族に対する思いに付け込んで、覇天を渡さなければロキ君の命はない、谷城一族の血は絶える事になると脅し、覇天を取り上げようとした。
追い詰められた清羅は、お前に覇天を渡す事を拒否してロキ君に託し、自ら消滅の道を選んだ」
「思いも残さず、な。ヤツは勝手に消えたんだ。
儂は覇天なんて奪おうとしていない。
バックアップでも、新しい風魔でも、調べてみろ。
そんなものの証拠なんて、残ってないだろ」
「だから、お前はEARTHを何もわかっていないというんだ。
彼らは、ここの秩序を守る管理プログラム、厳密に組み合わせられている歯車の一つ。
勝手に消えるなんてことができるわけないだろう!」
「け、けれど、覇天の力で」
霜司が、ぽかんと高城を見る。高城は呆れたように首を横に振り、再びきっと睨みつけた。
「確かに、覇天を使えば、それも可能だろう。
が、お前は彼の性質を見くびり過ぎだ。
彼は、私が身分を明かして接触したら、全てを話してくれたよ。
どうあっても、ロキ君を守りたい、けれど、覇天をあの神に渡す事だけはできない。
覇天はロキ君に託す。そうしておけば、万が一、ロキ君が命を落としでもした場合、正当な所有者をなくした覇天は、セーフティロックが掛り、他者が勝手に使用できない状態になる。簡単に命を奪う事はできなくなるだろう。
けれど、自分も覇天から離れるわけにはいかない。
むろん、お前の手で消され、データを改ざんして作り直され、思いを踏みにじられるのはまっぴらだ。
どうか、自分の思いと記憶を正式に保存した上でこの身を消してくれ、自分の思いを、この地を、谷城の一族を守るために役立ててくれ、と。
私が、どんな思いで彼を消去したか、お前にはわからないだろう!
清羅が思いを残さずに消えた事で、証拠隠滅が済んだと思ったお前は、案の定、再び不正にアクセスし、清羅の記憶データを自分に都合よく書き換えて新しい風魔を作った。
当然、その経緯も全てバックアップを取ってある。これが、動かぬ証拠だ」
霜司は一瞬狼狽えたが、嘲笑を浮かべて睨み返した。
「だったら、どうだっていうんだ? 結局、儂は覇天を手にしてはいない。中枢プログラムにもアクセスしていない。
まあ、不正アクセスして、運営の規則に反して分身を作って遊んだ事は謝りますよ。
けど、この星の使用許可はちゃんと買い取っているんで。
たいした罪にはならないのに、ご苦労な事だな」
「つくづく、呆れた男だな」
高城が、ふっと俯く。
「EARTHに掛けられているセキュリティの保護度の高さを甘く見過ぎている。
お前は、惑星間条約、新規惑星環境保護法など、複数の法で、三桁に近い違法行為を犯している。
それと、お前が買い取ったというこの星の使用許可は、数時間前に無効になった」
「はあ? なにをいっているんだ、ちゃんと契約をして」
「いくらで買い取ったかも、こっちはちゃんと調べているんだ。
決して安くはないが、惑星の、しかも、EARTHほどの星の使用許可が、あの程度の金額で買い取れるのはおかしいと思わないか?」
「どういう、意味だ?」
霜司は、表情を変えて身を乗り出した。